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第217話 椅子

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 その声は応接室の端から聞こえてきた。

「──な、何て冷ややかな目だ、流石は我が妹!」
「「「!?」」」

 声の主は──ヴォロン・シルフディートだ。

「ヴォロン、貴方を呼んだ記憶はないのだけど?」

 女王の冷たい視線がヴォロンに突き刺さる。だが、ヴォロンはそんな視線に「ほわぁっ!」と歓喜の声をあげ、身を悶えさせる。

「母上、違いますぞ、私が、母上たちが応接室に入ってきたのです!」
「椅子になっていた?」

 この言葉に嘘はない──フォルタニアは自身のスキル〝審判ジャッジ〟でそう兄の言葉を判断する。
 だが、嘘を見抜くことができるフォルタニアでさえ、この時ばかりは疑問系で返事を返してしまった。

 ヴォロン・シルフディートはである。

 もう一度言おう──
 ヴォロン・シルフディートはである。

 だからといって、何故この兄は応接室で椅子になっていたのか? その理由はフォルタニアにはどれほど考えても分からなかった。
 ただ一つ確かなことがあれば、兄は嘘偽りなく、この部屋で自ら椅子になっていたということだ。

「誰も座ってくれなかったが、放置プレイも悪くないな!」
「お兄様、先程から意味が分からないのですが……正直、何か気持ちが悪いです」

「はぅわっ! ──あ、ありがとう! 我が妹よ!」

「何なのだね、さっきからコイツは?」

 フォルタニアの婚約者であるボルスが不機嫌そうに口を開く。

「貴方が妹の婚約者様か、ふーむ」
「何だね?」

「妹は辞めて、私と結婚しないか?」

「……は?」

 その場が凍り付く。

「いやはや、それが選択が一番、ドM冥利に尽きそうでしてな? 貴方と結婚するのは不幸そうだ」
「貴様! 言わせておけば!」

「暴力かね? 大歓迎だ!」
「チッ、興が覚めた、失礼させて貰うよ」

 舌打ちをし、忌々し気にヴォロンを睨み部屋を出ていくボルスを女王やフォルタニアは無言で見送った。

 *

「あのクソガキ、私をバカにした報いは必ず受けさせてやる……だが、まあいい、もうすぐあの身体が私の物となる。たっぷり憂さ晴らしさせてもらうとするか」

 そう高らかに笑うボルスの姿を、見つめる人影があったのを、ボルスは気づいていなかった。

 *

(──何だあの如何にもは……おいおい、まさかあれがフォルタニアの結婚相手じゃねぇだろうな?)

 鎧を着こんで兜で顔まで隠した俺は、そんなことを思い浮かべるのだった。
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