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北区2班 1-1
しおりを挟む「ちより様、こちらは完了いたしました」
「分かったわ、海夜。こちらももうすぐ終わるわよ~」
海夜からの報告に耳を傾け、ちよりは異形種生命体と対峙する。
目は合っているのか、どちらを向いているのか。
それは知覚している本人たちにすら知り得ないことである。
刀を握り締め、一直線に突っ込んでいき、彼女の身体が止まった。
標的にその刀が刺さったのだろう。
「海夜、羊、響子」
八橋海夜、六原羊、五明響子の3人は班長の前に構える。
「みんな無事かしら?」
「問題ありません」
「なら良かったわ~~」
ちよりは自身から花が飛ぶ勢いのある雰囲気で微笑む。
緊張すら解いてしまう威力があるが、戦場であるため何とか気を保つ。
「引き続き頑張りましょう」
今日は天気が良い。
だから異形種生命体を見つけるのに丁度良かった。
「本当に今日は量が多いわね」
「背後は私が」
「お願いね、海夜」
ちよりと海夜は背中を合わせた。
少し離れたところで、羊と響子がやり取りを行っている。
「ごめん、私なんかと一緒で」
「だはは! 何言ってんの、ひつじ!」
「いや、"よう"ね」
「よーし! あーしらも行くぞ~~!」
「あ、ちょっと! 響子ーー!」
響子は日本刀を振り回して走っていってしまった。
その後を追って、羊はアサルトライフルを抱えて走った。
「着いてこい~~、ひつじいいいい!!」
「速過ぎて追いつけないよ……」
元気よく跳ね回る響子のアシストとして、羊は銃を撃つ。
その弾丸はきっと的確な場所へと放たれているだろう。
「だははは! ナイスナイス~!」
「偶然だよ」
響子がそう言うのだから、的確なのだ。
羊は光の映らない目で響子と目標を追い続ける。
羊の弾丸は目標を切り付けるために接近している響子の背後をカバーしている。
「スナイパーいれば楽なんだけどね」
「うちの班にはいないからね~~。まあ、いるとこも少ないか」
「そうだね」
引き金を引いても弾丸が出なくなってしまった。
「お? 弾切れ? だはは、今日は1段と多いからね!!」
「私がちゃんと配分考えてれば……」
「だははーー!! 刀握るんだな、ひつじーー!!」
「……ほんとに久しぶりなんだよね」
羊は銃を背中に背負って、腰に帯刀していた刀を握る。
「ちより様、六原が弾切れのようです」
「あら。気にしてなきゃいいんだけど……」
(できないと思いますよ)
海夜は心の中で返事をした。
口に出してしまっていたら、きっと菊花内ちよりを否定することになってしまうから。
「今いるのを倒したら、一旦休憩しましょ。そしたら、羊もリロードができるわね」
「そうですね」
「響子が付いているから大丈夫でしょう~」
「はい。こちらも気をつけましょう」
海夜は大薙刀を振り回した。
自身の身長よりも長い薙刀を大きく、軽やかに振り回す。
薙刀を選んだ理由は、自分の手の長さでは菊花内ちよりを助けることはできない、からである。
一段落がつき、ちよりは羊に話しかけた。
「羊、大丈夫だったかしら?」
「はい。問題ありません」
何故アサルトライフルを扱う羊が刀を扱うことができたのか。
それは本部に所属している班員は全員初めは剣術を習うからである。
一定のラインまで能力を付けたところで、自分に合った武器を選ぶのだ。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」
「そんなことないわよ。羊はよくやっているわ」
ちよりは羊の頭を撫でてやる。
「円夏が言っていた通り、数が多いもの。ゆっくり無理せず頑張りましょ~」
(ゆっくりじゃこの町滅ぶよ)
羊は心の中でそう思ったが、海夜からの視線が痛いため黙った。
「……はい」
兄弟や姉妹の真ん中は出来が悪い、そんな言葉が頭を過ぎる。
羊には4個上の兄と2個下の妹がいる。
2人とも非常に優秀であり、兄は北区1班所属、妹は北区5班班長を務めている。
菊花内家のちよりがいるということもあるが、絶対班長になることも、この班の中で1番優秀になることもできない。
「ふふ。響子はどう? 調子は良いかしら?」
「めちゃくちゃ良いです! 今日は沢山飛べるし、沢山切れますよ!」
「よかったわ~。あ、でも、怪我しちゃだめよ?」
「だははは! 気をつけます!」
ちよりと響子が話しているのを横目に羊は建物の陰に座り、銃弾の補充をした。
建物の陰にいるため手元が暗かったが、海夜が羊の前に仁王立ちし、見下していることによって、さらに手元を暗くさせた。
「羊」
「……はい」
「分かってるの? ちより様の足を引っ張ってるっていう自覚ある?」
「す、みません……。以後気をつけます」
「分かればいいわ」
(泣いちゃだめ)
ここで泣いたらまた怒られてしまう。
価値がないという冷めきった目で見られてしまう。
「はい……」
羊は銃弾を太もものポケットにも補充し、銃をリロードした。
休憩も束の間で、近くで砂埃が立った。
「また2手に別れましょう。先程と同じで大丈夫?」
「了解です」
「は~い、了解です!」
「了解です……」
今日は本当に異形種生命体の数が多い。
切っても撃ってもすぐ湧いて出てくる。
「ひつじぃ~~」
「ん、どうしたの?」
「大丈夫?」
「え……、何が……?」
「さっきのだよ。八橋先輩に何か言われたろ?」
「あー……、いや……。うん、大丈夫」
「そう? 何かあったら言ってよ」
「うん、ありがとう」
響子は意外と周囲を見ている。
否、六原羊を見ているという方が正しいだろう。
「だははは!! あーしがいるじゃんね」
羊は響子にいつか言ってやりたいことがある。
(笑い方変なんだよなあ)
しかし、今言っても仕方がないので、黙っておく。
「そうだね」
「お、キレが良くなったじゃん!」
「失敗できないから」
「だははは! 失敗してもいいよ。あーしがひつじのこと守ってあげるから!」
羊の胸がいっぱいになる。
生に対する肯定の温かさを久しぶりに感じる。
「私も響子のこと守るよ」
「だははは! かっくいぃ~~」
響子は自由に動く。
羊はそれを後ろからフォローしたり、前衛に出たりする。
2人は息の合ったコンビだ。
「海夜、疲れてない? 大丈夫?」
「はい。ちより様は大丈夫でしょうか?」
「私は大丈夫よ。あともう少しで東区3班との交代だし、もうひと踏ん張りね」
「はい」
ちよりと海夜も良いコンビである。
八橋海夜は口はでかいが、実力も備えているのだ。
「ひつじ」
「ん?」
「お願いがあるんだけどさ」
「な、なに……?」
響子のいつとなく真面目な表情に羊は思わず息を飲む。
「課題見せてくんね?」
「……へ?」
「今回の課題出さなきゃ単位くれないって先生に釘刺されてたのに、昨日寝ちゃったんだよ~~!」
「なんだ、そんなこと? いいよ、私ので良ければ」
「うわ~~まじか~~! 大好きだぜ~~、ひつじ~~!」
羊は自分の名前をいちいち訂正することが面倒になってきた。
他にも"ひつじ"と呼ぶ者はいるし、愛称だと思えば可愛いものだろうと承諾した。
「進級しなきゃ怒られちゃうもんね」
「だははは!! 痛くも痒くもないけどね!」
「絶対痒いでしょ……」
銃弾の残り、銃の振動による手首の痛みなど、雑念によって羊の集中力が切れてきてしまう。
故意的な先輩からの圧力も大きな要因だろう。
「ひつじ!」
元気な少女が心ここに在らずな少女の名前を呼ぶ。
「あと5分だよ」
「へ……?」
「あと5分で交代ってこと! いけるよね?」
(眩しいな……)
太陽のように笑う少女から目を逸らしてしまいそうになるが、お互いにそれを許さない。
街や国を守るという建前で戦場に立っているが、身近な人間を守りたいという想いが青年たちを動かしているのかもしれない。
10代半ばで大層な使命を抱えることは事の重要性の理解が難しいだろうし、あまりにも荷が重いだろう。
「うん、響子も頑張ろう」
羊は両手首の外部装置を1度強く叩いた。
「聞き分けがいいね、ひつじ」
「響子もね」
「言うね~~!」
響子は膝の外部装置をもう1度強く叩いた。
(ひつじは本当に凄い子なのになあ)
六原羊は外部装置を着けずに約2時間も銃を撃ち続けている。
普通だったら、何も装着しないで撃ち続けていると、1時間はもたないはずである。
「は~~~~あ。これボーナス出んの~~~~?」
「確実に出ないよ」
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