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スノードロップ
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「う゛ぅ……っ!」
突然の吐き気に襲われた。
本当にツイていないことばかりが続く。
どうして自分ばかり、と自分を責める。
「おえぇ……っ!」
喉を通って口から出てきたものを見つめる。
食べたものでも胃液でもない。
小さくて白い花弁が舞った。
「おい……まじかよ……。笑えねぇーって」
肩の故障。大好きだった野球をやめることにした。
彼女の浮気。大好きだった彼女と別れることにした。
友人の裏切り。もう誰も信じないことにした。
知らない人の猥褻行為。人がたくさんいる空間が怖いのでなるべく階段で移動するようにした。
親の転勤。これは仕方がないし、一区切り付けるには良い出来事だった。
「いや、俺が食ったのか……? なわけないよな?」
思い出せない自分の食生活をただ恨むことしかできない。
絶対花弁を食べることは無いとは思う。実際、そういった経験はしたことがない。
「もう何なんだよ……」
それらの出来事をみんな口を揃えて言うのだ。
それは自分のいる環境が悪いだけだ、そこにいる自分も悪いだろう、と言うのだ。
その言葉は今でも呪いのように自分の身体を蝕んでいく。
「俺が何したってんだ……」
転校した高校では上手くやっていけているつもりだ。
友達もいて、先生とも良好で、仲間も見つけた。
「朝倉柊太……」
つい最近、朝倉柊太から独特な花の香りがした。
ただすれ違っただけだが、先程まで花を吐いていたのだろう。残り香がした。
「……明日声掛けるか」
そう決めて彼は眠りについた。
昨晩決めたことを実行すべく、朝倉のクラスの前まで来た。
まだ来ていないようだった。
「なあ、田中」
「ん? うおぉ! 武田じゃん! どーしたぁ?」
「まだ朝倉来てない感じ?」
「いや、さっきまで一緒だったよ」
教室に入ろうとする、1年の時クラスが一緒だった田中に声を掛けた。
「自販機行くって言ってたー。多分待ってれば来るぜ」
「おう。ありがとな」
武田はそう言って、自販機の方へ駆けていく。
しかし、自販機の前には朝倉の姿はなかった。多分、すれ違いはしていないはずだと考える。
元来た道を辿っていくと、教室棟とは真反対の方向から花の香りがする。
武田はその匂いの元へゆっくり歩いて近づいていく。
「……ぅ……」
空き教室だった。そしてその中から誰かがいる気配がする。
武田は息を呑み、ドアを開けた。
「ぅえ……っ。 あ……、たけ……だ……?」
朝倉は少し舌を出し、涎が垂れている状態で武田の名前を呼ぶ。
朝倉が座り込んでいる膝元には花弁が落ちていた。
その現場を見た武田は再び息を呑んだ。
「ゲホッゲホッ! ……何でいんの」
「朝倉の匂いを追ってきたんだ」
「え?」
「白い花を吐いた。朝倉と同じ」
武田は白い花弁を吐く。そして、その時手紙届いたのだ。
手紙の内容は酷かった。最悪だった。絶対見ない方が幸せだった。
「そしてこの手紙も来た」
届いた手紙を朝倉に見せびらかすようにポケットから出す。
「それは俺も来た」
「だと思った。朝倉の手紙見せてくれないか?」
「何でだよ」
「頼む」
安心したいがために朝倉を利用する。
朝倉の手紙にも同じような内容が書かれているならば、悲観するだけではなく、1種の仲間意識も芽生えるだろう。テストの点数が悪い者同士で安心し合うようなものだ。
「ほら」
しかし現実はそう上手くいかないようだった。
朝倉の場合、後遺症は残るが完治するか涙石病を併発するかのどちらかだった。
武田にはもう逃げ道は無い。
「……なるほどな。俺ら1つだけ一緒だな」
「何がだよ」
「応急処置か水の中に一定時間入るとこが」
「なるほどな」
武田は朝倉の手紙を返し、自分の手紙を仕舞おうとした。
それを朝倉は中断させる。
「俺の手紙も見せたんだ。武田のも見せてよ」
武田は悩む。
朝倉への嫉妬と羞恥に悩む。
自分の人生全てを見せるようで恥ずかしい。
だが、呼び止められた手は止まらず、朝倉の方へ向く。
「……見られたくないよな」
「いいや。俺は朝倉の見たから。平等にいこうよ」
朝倉は武田から手紙を受け取る。
空き教室にはまだ濃く残るイベリスの花の香りと少し埃っぽい匂いがあるだけだった。
・武田秀一郎(タケダシュウイチロウ)
・17歳(高校2年生)
・花吐き病→スノードロップ
突然の吐き気に襲われた。
本当にツイていないことばかりが続く。
どうして自分ばかり、と自分を責める。
「おえぇ……っ!」
喉を通って口から出てきたものを見つめる。
食べたものでも胃液でもない。
小さくて白い花弁が舞った。
「おい……まじかよ……。笑えねぇーって」
肩の故障。大好きだった野球をやめることにした。
彼女の浮気。大好きだった彼女と別れることにした。
友人の裏切り。もう誰も信じないことにした。
知らない人の猥褻行為。人がたくさんいる空間が怖いのでなるべく階段で移動するようにした。
親の転勤。これは仕方がないし、一区切り付けるには良い出来事だった。
「いや、俺が食ったのか……? なわけないよな?」
思い出せない自分の食生活をただ恨むことしかできない。
絶対花弁を食べることは無いとは思う。実際、そういった経験はしたことがない。
「もう何なんだよ……」
それらの出来事をみんな口を揃えて言うのだ。
それは自分のいる環境が悪いだけだ、そこにいる自分も悪いだろう、と言うのだ。
その言葉は今でも呪いのように自分の身体を蝕んでいく。
「俺が何したってんだ……」
転校した高校では上手くやっていけているつもりだ。
友達もいて、先生とも良好で、仲間も見つけた。
「朝倉柊太……」
つい最近、朝倉柊太から独特な花の香りがした。
ただすれ違っただけだが、先程まで花を吐いていたのだろう。残り香がした。
「……明日声掛けるか」
そう決めて彼は眠りについた。
昨晩決めたことを実行すべく、朝倉のクラスの前まで来た。
まだ来ていないようだった。
「なあ、田中」
「ん? うおぉ! 武田じゃん! どーしたぁ?」
「まだ朝倉来てない感じ?」
「いや、さっきまで一緒だったよ」
教室に入ろうとする、1年の時クラスが一緒だった田中に声を掛けた。
「自販機行くって言ってたー。多分待ってれば来るぜ」
「おう。ありがとな」
武田はそう言って、自販機の方へ駆けていく。
しかし、自販機の前には朝倉の姿はなかった。多分、すれ違いはしていないはずだと考える。
元来た道を辿っていくと、教室棟とは真反対の方向から花の香りがする。
武田はその匂いの元へゆっくり歩いて近づいていく。
「……ぅ……」
空き教室だった。そしてその中から誰かがいる気配がする。
武田は息を呑み、ドアを開けた。
「ぅえ……っ。 あ……、たけ……だ……?」
朝倉は少し舌を出し、涎が垂れている状態で武田の名前を呼ぶ。
朝倉が座り込んでいる膝元には花弁が落ちていた。
その現場を見た武田は再び息を呑んだ。
「ゲホッゲホッ! ……何でいんの」
「朝倉の匂いを追ってきたんだ」
「え?」
「白い花を吐いた。朝倉と同じ」
武田は白い花弁を吐く。そして、その時手紙届いたのだ。
手紙の内容は酷かった。最悪だった。絶対見ない方が幸せだった。
「そしてこの手紙も来た」
届いた手紙を朝倉に見せびらかすようにポケットから出す。
「それは俺も来た」
「だと思った。朝倉の手紙見せてくれないか?」
「何でだよ」
「頼む」
安心したいがために朝倉を利用する。
朝倉の手紙にも同じような内容が書かれているならば、悲観するだけではなく、1種の仲間意識も芽生えるだろう。テストの点数が悪い者同士で安心し合うようなものだ。
「ほら」
しかし現実はそう上手くいかないようだった。
朝倉の場合、後遺症は残るが完治するか涙石病を併発するかのどちらかだった。
武田にはもう逃げ道は無い。
「……なるほどな。俺ら1つだけ一緒だな」
「何がだよ」
「応急処置か水の中に一定時間入るとこが」
「なるほどな」
武田は朝倉の手紙を返し、自分の手紙を仕舞おうとした。
それを朝倉は中断させる。
「俺の手紙も見せたんだ。武田のも見せてよ」
武田は悩む。
朝倉への嫉妬と羞恥に悩む。
自分の人生全てを見せるようで恥ずかしい。
だが、呼び止められた手は止まらず、朝倉の方へ向く。
「……見られたくないよな」
「いいや。俺は朝倉の見たから。平等にいこうよ」
朝倉は武田から手紙を受け取る。
空き教室にはまだ濃く残るイベリスの花の香りと少し埃っぽい匂いがあるだけだった。
・武田秀一郎(タケダシュウイチロウ)
・17歳(高校2年生)
・花吐き病→スノードロップ
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