異世界に転生したらBlenderを使えるようになっていた

登美川ステファニイ

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第一章 異世界転生

第十話 焼け跡

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 ヒッケンの町へは何度かお使いへ行く機会があったが、二週間ぶりにジョンソンさんのパン屋へ寄ってみた。あの猫の人形を納品して以来だ。
「えーと確かこの辺り……ああ、あれだ」
 店の前にはちゃんと猫の人形が置かれていた。撤去されていたらどうしようかと思ったが、ちゃんとそこにある。
 店の中を見ると一人客がいた。それほど混んではいないようなので、店に入ってみよう。
「いらっしゃいませ……お、リンタールさんじゃないか。こんにちは」
「こんにちは」
 ジョンソンさんは笑顔で迎えてくれた。
「猫が役に立ってるかどうか気になって……評判はどうですか」
「そうなのかい。はははは! それはわざわざ! いや、結構役に立ってるよ。猫のパン屋さんって呼ばれてね、子供も結構来てくれるんだ」
「そうなんですか。それは良かった」
「最初はこんなのでなにか変わるのかと思ったけど、遠くから見た時に見つけやすいしね。なにかと思って見せに来るお客さんもいるんだよ。いや、さすが旅して修行しているだけあるね。目の付け所が違うよ」
「ええ、役に立って良かったです」
 街を見ても、看板はあるがマスコット人形のような目印を置いている店はなかった。中を見れば分かるだろう、ということらしいが、やはりぱっと目につく人形を置く効果はそれなりに大きかったようだ。
「私も先週あの人形を見てね、なんだろうと思ってここに来たんですよ。最初はパン屋だって知らなかったんです」
 お客の女性が言った。
「そうだったんですね。いや、ようこそ来てくださいました。今後ともご贔屓に」
「ええ。そうさせてもらうわ」
 お客さんはパンを買って笑顔で帰っていった。良かった。あの人形の出来はイマイチかと思ったが、ちゃんと役に立ってる。苦労して作ったかいがあった。
「今日は買い物かい。またパンを買っていってよ」
「はい。お使いを頼まれて。あとでまた買いに来ます」
「ああ、待ってるよ……あ、いや、これからちょっと用事があるんだった。買うなら今にしてくれるかい」
「どこかに行くんですか?」
「ああ、ちょっとね。救護院が火事にあって……うちも時々パンを持って言ってたから、片付けを手伝おうと思ってね」
「救護院? それは何かの施設ですか?」
「お、知らないのかい? 大抵の街にあると思ったけどな。そこはお金のない人や家のない人に食事や寝床を提供する場所なんだよ。孤児や捨て子、怪我をして働けなくなった人とかね、そういう人を助けるためにタラオン教の人たちが働いてくれてるのさ。ただ最近火事にあってね……」
 ジョンソンさんは沈痛な面持ちで語り始めた。
「隣に食堂があってね。そこからも時々寄付として食べ物はもらってたりしたんだが、どうもそこが火元でね。その食堂は燃えてしまって、そして隣りにあった救護院も延焼してしまったんだ。一応火は消えたけどまだ少しくすぶってるよ。復旧するために瓦礫をどかしたりするんだがね、及ばずながらそれの手伝いさ」
「そんな……そこにいた人達は大丈夫だったんですか?」
「ああ、幸い死人もけが人も出ていない。建物だけさ。しかし二十人くらいかな……子供が多いけど、皆行く場所がなくてね。しょうがないから燃え跡の前で過ごしてるのさ」
「そうなんですね……」
 救護院というのは社会保障制度のようなものか。いや、タラオン教がやってるんだから、宗教団体による善意の施しということか。いずれにせよ困った人を助けているわけだ。それがそんなことになるとは……なんとも残酷な話だ。
「北二番通りの方だよ。寄付も受け付けているから、急ぎじゃないならあんたからも頼むよ。俺は店を片付けてから行くからさ」
「はい、分かりました」
 俺はパンを買ったあと、帰る前に救護院に寄ってみることにした。寄付を受け付けているのならいくらかお金をおいていこう。カドルホスさんとグビラさんがいればきっとそうするはずだ。
 北二番通りに行くと煙の臭いがした。普段からも生活の煙が漂っているが、その臭いとは違う。もっと焦げ臭い。
 救護院は探すまでもなく見つかった。焼け跡の周りに大勢の人がいる。瓦礫をどかすために作業している人たち。そして、歩道にはシートが敷かれ、そこに大勢の人が座っていた。その人達が救護院に住んでいた人たちのようだった。
 座っている人たちは服装がボロボロだった。継ぎだらけの服。穴が開いて、汚れている。顔や体もそうだ。裸足の人さえいる。みんな疲れ切った顔をしており、ぼうっとした様子で座っていた。
 近くに来ると焦げた臭いがますます強くなる。木の燃えた臭い。それだけじゃない。色々な臭いが混ざっている。火は消えて入るようだが、瓦礫の中から細い煙が何箇所か出ている。燃えて崩れた建物の下の方で、火がまだ燻っているようだ。
「ひどいな、これは」
 火事の跡を見るのは初めてだった。全てが……壊れて潰れている。炭になった木材、割れた煉瓦、ばらばらになった屋根材。僅かずつ原形を保ったまま、全てが崩れていた。これは完全に建て直さないと駄目だろう。元々2階建てだったようだが、立て直すとなると相当の時間とお金が必要になるのではないか。
 カドルホスさんと同じ服を着た人が何人かいた。タラオン教の人のようだ。
「あの、すいません。寄付を……」
「おお、そうですか。ありがとうございます。あなたにタラオンの神のご加護を」
 男の人は俺からの寄付を受け取り、俺に五芒星を切った。男の人は顔にすすが付いていた。服の袖や裾も汚れている。この人達はずっとここで働いているようだ。
「この建物は作り直すんですか?」
 俺が聞くと、その人は困った顔をして答えた。
「できれば建て直したいのですが……資金がありません。元々寄進してもらった建物なのです。今も皆さんに寄付を頂いていますが、なかなか……」
 男の人は渋面を作る。タラオン教もお金が潤沢というわけではないようだ。
「町の議会で何とか出来ないんですか?」
「ええ、私達からも窮状を訴えてはいるのですが、それも今すぐにというのは難しいようです。町の予算にも限りがありますから」
「そうなんですね……」
 瓦礫を片付けている様子を見る。一輪車や馬車に乗せて運んで片付けているようだが、瓦礫は人の背丈くらいまでうず高く積もっている。この様子だとまだ数日は掛かりそうだ。
 後ろ髪を引かれる思いだったが、今の俺には出来ることはない。金もない。それでも何か力になりたかった。

「そうですか。全焼なんですね。火事があったとは聞いていましたが」
 帰ってから救護院の事を二人に話した。カドルホスさんは町の人から話だけは聞いており、後日手伝いに行く予定だったそうだ。
「何ということだ。ただでさえ苦労している人たちだと言うのに」
 グビラさんがしょんぼりとした顔で言った。
「何か……出来ることは無いんでしょうか?」
「そうですね。片付けに関しては町の人達が協力してやってくれています。これ以上の増員は不要だそうです。あとは炊き出しですね。これも町の食堂などが中心に力を貸してくれているそうです。ですから人手としてはこれ以上は必要ないそうです。となるとあとは寄付くらいですが……」
「今日行った時に一万ダーツ寄付しました」
「そうですか。ありがとうございます、リンタール。となると……出来ることは特に無いですね」
「俺の力でなんとか出来ないですかね?」
「力というとブレンダーですか?」
「はい。Blenderの力でなにか作って…全部燃えてるだろうから色々なものが必要になりますよね?」
「それはそうでしょうね。机、椅子、棚、燭台、ベッド。食器や調理器具もそうですね。数え上げればきりがない。しかしそういった物が必要になるのは再建が終わったあとですね。いま机を持っていっても置く場所もない」
 カドルホスさんの言うとおりだ。今は細々としたものが必要なんじゃない。家が必要なんだ。そう、家が。
「……家を作ったらいいんじゃないですか。救護院そのものを」
「何ですって?」
 カドルホスさんが目を見開く
「確かにそれができれば素晴らしいですが……そんな事をすればあなたの力が明るみになる! そうなれば……あなたの身の保証ができません。お気持ちは嬉しいですが、しかし危険すぎる」
「俺だってばれないようにやればいいんじゃないですか? 家を作るのはここで出来ます。事前に寸法さえ測ってしまえば街に行く必要はない。ここで作って、夜にこっそりレンダリングすれば人の目にもつかない」
「それは……そうかも知れませんが、しかし、一夜明けたらそこに救護院が建っていたなど、いくらなんでも異常です。神の奇跡か悪魔の所業か……逆に不安を招くことになりかねません。人智を超えている。そう、あなたの力は人智を超えているのです。軽々に力を振るうものではありません」
「でもあの人達は今困っているんです。建物がなくて野ざらしで、皆疲れ切っていました。普通の手段で彼らを助けることが出来ないのなら……だからこそ俺の力を使うべきなんじゃないですか? 俺はあの人達の助けになりたい」
「ふむ。それがあなたの心、というわけですか。参りましたね。ああいった手前無碍に否定することも出来ない」
 カドルホスさんは額に手を当てて考え込んでしまった。
 言いたいことは分かる。確かにいきなり建物が経ってたらおかしいに決まっている。この世界にはオルゴという魔法はあるが、せいぜいかまどの火を起こしたり洗濯物を風で乾かしたりする程度だ。無いもないところから物を生み出す力はない。
 だがこういう時に役に立たないなら、俺の力は一体何のためにあるんだ? 神が気まぐれに力を与えただけで意味はないのか? 神か何か知らないが、いるのなら教えてくれ。あんたは俺に何をさせたいんだ!
 神に問いかけても、Blender空間をいじる時のような感覚はない。俺は神にアクセスできないし、作用することも出来ないようだ。あるのはBlenderの力だけだ。
「リンタール。あなたの気持ちはわかりました。しかし救護院そのものを建てることは、たとえあなたの力では可能であっても、それはやめてください。私の口から言うことではありませんが、それは神の奇跡と言うには……突飛すぎる。混乱を招くだけだと思います」
「はい。それは……分かります」
「何が出来るのか、考えさせてください。住居のことだけで言えば町議会や商人組合に掛け合えば何か出来ることがあるかも知れません。あなたの力はそのあとです。あなたの力を受け入れるには、この世界は幼すぎる」
「分かりました」
「うむ。何かわしらに出来る事があればいいがのう」
 そう言い、グビラさんが俺の肩を叩く。
「はい、グビラさん。なにか出来ることがあれば……」
 軽々しく他人を助けたいと思うのは傲慢なのかも知れない。Blenderの力も万能じゃ無いだろう。それでも俺は、助けになりたいと思った。
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