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北の森のダンジョン編
第68話 恐るべき貯金
しおりを挟む「爺さん、そんなに食うの?」
「うむ。いつもこれくらいじゃぞ!?」
俺の3倍は盛られているであろう肉野菜炒めをパクパクと食べていく爺さん。流石は元冒険者、まだまだ現役でやれるんじゃないのか!?
「最近はめっきり食が細くなったのう。歳はとりたくないもんじゃ。」
「いや、程々が良いと思うよ?」
全く以って恐ろしい爺さんである。
俺は今、冒険者ギルドの酒場で爺さんと2人で昼飯を食べている。
サラはスミスさんと行ってしまったし、クラナも仕事があるそうだ。
たまには爺さんと2人で話すのも良い機会だろう。
「爺さん、それでさ、相談があるんだよ。」
「ん?なんじゃ?」
「銀を素材として使ってみたいんだよ。卸してもらう事は出来ないかな?」
「ほぉ、銀をか。さすがのお前さんでも知っていると思うが、銀は人気の鉱石じゃ。貨幣だけでなく装飾品としても需要が高い。かなり高価な素材になるぞ?」
「うん。それは分かってる。でも試してみたい事があるんだよね。この町でも採掘がされてるから多少なら何とかなるかなって思ってさ。」
「ふむ。確かに以前に比べれば融通をし易くはなったが。悪用などするでないぞ?」
「それは誓ってしないよ。」
「ふむ。ならインゴットで3つまでなら用意してやろう。」
「ありがと!ちなみにインゴット1つでいくらぐらいするの?」
「う~む。今の相場なら5金貨くらいかのう?」
5金貨って事は・・・日本円換算で50万円か。
金貨で枚数が少ないから錯覚しちゃうけど、やっぱりかなり高価な素材だな。
「持ち合わせがないから、俺の預けてるお金で支払ってもいい?」
「あぁ、勿論じゃ。3つ買うか?」
「俺の残高ってどうなってる?」
「あそこからなら15金貨なんぞ、端金じゃろうて!フォフォフォ。」
やばい。俺の貯金を知るのが怖くなってしまった。
ついついクレジットカード感覚で、爺さんに預けてるお金から支払って貰って下さいって言っちゃってたけど、誰も文句言わなかったもんなぁ。むしろ増えてたりするのかな?
金銭感覚が崩壊するのは嫌だからなぁ。
しばらくは貯金の事は忘れておこう。
爺さんとの楽しい?昼飯を終えて、別室でクラナから銀のインゴットを受け取った。
そして無駄にコソコソとして家へと急ぐ。
小心者が大金を持ち運ぶと挙動不審になるよね。
家はすぐそこだと言うのに。
「あっ!ガルドさん!!」
「うわっ!俺は何も持ってないぞー。」
「え?どうしたんですか?」
「な、なんだ。リィナかぁ。」
買い出しの帰りであろうリィナに背後から声を掛けられて、思わず変な反応をしてしまった。カッコ悪い所を見られてしまった。
「ガルドさん。変な格好で歩いてましたけど、どうかしたんですか?」
「えっ!?そ、そんな。俺はいつも通りぞよ?」
「あはは、変なガルドさん!喋り方まで変になってますよ?」
「はっはっはっ。冗談だよ。」
「あっ、そうそう。つまらない冗談は置いておいて、私ね、ついに決めたの!」
おふ。ストレートにつまらないと言われると辛いものがあるな。
「えっと。何を決めたんだい?」
「私ね。コックになるの!」
「コック?料理を作る人の?」
「そう!宿屋のお店は継ぎたいなって、ずっと思ってたんだけど。お父さんのコックか、お母さんの商人か、どの職業にしようか決められなかったの。」
「そうだったのか。」
確かに、この世界では15歳で成人として認められている。なので、成人すれば職業に就く事が出来るし、多くの人は成人と同時に職業に就く事が多い。
もしかすると、リィナはなかなか職業を決められない自分にコンプレックスを抱いていたのかも知れない。
「リィナがよく考えて決めた事なら、俺は応援するよ。」
「ガルドさん。ありがとう。」
そう、応援しているよ。
しかし、俺は今まさに任務中なのだ。
高価な銀を無事に我が家まで運ぶと言う、超高難度なミッションのね。
「うん。じゃあまたね、リィナ!」
「えっ、あっ!ちょっとガルドさーん!」
俺は忍者の如く素早く、そして目立たぬ様に走り抜けた。
「あ~ん。ガルドさんに美味しいご飯を食べさせてあげたいからだよって言いたかったのにー!」
少女の淡い想いは伝えたい相手を見失ってしまい、夏の風にさらわれてしまった。
それを偶然にも通りがかったリンダが物陰から目撃し、そして呟く。
「やれやれ、ガルドもまだまだ青いねぇ。」
そんな事とは露とも知らず、俺はミッション達成を喜んでいた。
そして、まだ使った事が無い銀素材への期待と興味でドキワクが止まらなかった。
これは今夜も眠れないね!
応援ありがとうございます!
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