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第3部 第一章
5 砂漠をお散歩③ すれちがい
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失言だと気づいた時はすでに遅し。無意識は残酷だ。一度発した言葉は戻らない。言った言わないで揉めるアレ。
この際、故意とか好意とか関係ない。その気があってもなくても、伝わり方でどうとでもなる。「暑かったから」じゃ、理由にならない。シャドウはどう思った?
キアはすべらした言葉にサーッと後悔の念が襲ってきた。変な意味じゃない。他意はない。どうか誤解のないように…。ただ、そう思ったから口にしただけ。
キアは固く目を閉じ、強く願った。
「…それは、俺にあの蛇神の代わりをやれと言っているのか?」
他意はない。押し付けじゃない。故意でも好意でもない。理屈は問わない。何も考えなければどうとでもなる。そうとも聞こえる。ほんとに?
「え」
キアはシャドウの答えに目を見開いた。予想だにしない答えに言葉が詰まる。
「悪いが俺には荷が重すぎるな」
シャドウは膝に付いた砂を払い落として立ち上がる。額に汗が滲み出る。キアを横目でちらりと視界に入れた後で、すぐに姿勢を正した。
キアには悪いが、あの蛇神に二度と会いたくないと思っていた。水中で睨みつけられた記憶は今思い出しても身の毛がよだつ。あの村では色々なことがありすぎた。ディルが見つかったことは大変喜ばしいが、満を持して行ったラボは期待外れだった。影付きに関しての情報は少なく、ラボの管理者は変わり者だった。あの管理者も最後は姿を見せなかった。あの後どうなったのか。気にはなるが、また戻ってまで確かめようとまでは思わない。
「お前にとっては思い出のある場所だものな。大事にしてるのはわかるよ。ただ。まあ、なんにせよ。俺にはそこまでの器ではないよ」
代わりにはなれないと笑った。
シャドウは店先の主人にキアを託ける。自分が戻るまで彼女を休ませてほしいと。
主人は了承したと手を振る。キアは離れていくシャドウの後ろ姿を見送るしかすべがなかった。
「…なんで?」
「そんな意味じゃ」
なくて、とキアは言い淀む。言葉をかけようにも、シャドウはスタスタと坂を上って行ってしまった。
「お兄さん照れ隠しかな。若いっていいねぇ」
いきなり告白して俺までドキドキしたよとニヤニヤと店の主人は笑う。
「そんなんじゃないです」
キアも答えに迷った。第三者からはどう聞こえているのか心配になった。
「ちがうの?だったら今のは君が悪いかな。思わせぶりな態度は男は勘違いするよ」
店主の声はキアには届いてなかった。何の意識もなく発した言葉がこんなにも重くのしかかってくるのかとは思わなかったからだ。
シャドウに言われるまでキハラのことを思い出せてなかった。想像していた場所は確かにキハラがいたあの森だったのに!あの深い森でどんなに守られてきたか。どれだけ癒されてきたか。肝心な人の顔が出てこなかった。一番大事に思っていたのに!!
キアはキハラを忘れていたショックと、シャドウに誤解されたことのショックで二重に落ち込んでしまった。
「何してるのよ。わたしは」
誤解を解きたいと思っていても、体は思うように動かなかった。頭も回らない。にぎやかな土産物屋の店先で子どもが笑顔で菓子を頬張る姿を横に、キアは端っこの軒先の下で膝を抱えて項垂れていた。
シャドウは雑踏の中でキアの言葉を思い出していた。間違ったことは言ってないと思うが、キアの反応は気になっていた。紅潮した顔であの仕草は何だ。捉え方によっては誤解を生む。今まで女性から言い寄られることはあったが、どれも気に留めてなかったから、どう答えていいかわからなかった。「そばにいたい」なんて言われたことがなかった。
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