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第4章
32 堂々巡り
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自暴自棄になったまま、キアはキハラに会いに行った。
「間違いではない」と肯定して欲しかった。
でも、それはシダルの転居を望むことと捉えられてしまう。
そうではない。いや、間違いではない。けど、「そうではない」
キハラのことだから、「知るか」「好きにさせろ」とか言ってきそうだ。
村の神様の割には、村人の転居はさほど気にしていない。
「住人が減ったら悲しいでしょう」
信仰心が薄れたら人口も減ってしまう。村も萎びてしまう。以前村を訪れた信心深い客の言葉を思い出した。キアの心配をよそにキハラは知らぬ存ぜぬ。
「オレへの信仰心などどうでもいいわ。問題にすべきはお前の意味なき感情の行方だろう」
また来たのかと心が揺らぐ度にオレを頼るなとキハラは辟易顔をする。
「意味がない…?」
「オレに相談している時点でおかしさに気づけ」
他人の意見に左右されすぎだ。
「周りの意見に流されるな。お前が考えているより、周りはどうでも良く思っているよ」
他人の好き嫌いまでも干渉するなんて馬鹿馬鹿しい。感情に流されすぎだ。
「自分の意思は通せよ」
シダルを守ろうとした時のように。
「あの時はシダルさんを守るのが正解だと思ってた。一人を一斉に攻撃しているのは気分が悪いから。でも今は、シダルさんと離れられるかもと知ったら、ほっとしてるの。これっておかしいでしょう?」
「…それはお前自身の問題だろう。そうなるように望んでいるから、そう聞こえるんだろ」
「自分勝手だよね」
「お前がシダルを許せてないだけだろ。うわべだけの付き合いはいつかボロが出る。離れられるきっかけができたことを素直に喜べばいい」
「待っ…」
キアの制止を聞く前に、つまらない事でいちいち騒ぐなとキハラは水底に向けて潜ってしまった。
代わりにウルがちらっと顔を出してきた。
「キア、だめヨ。ヌシ様疲れてるから。休ませテ」
儀式の負荷はキアより数十倍かかる。ウルの涙でいっぱいの瞳で見つめられたら、もう何も言えない。
「ごめんなさい…」
儀式の後のキハラの体は私よりずっと疲弊しているはずだ。自分のことばかり主張していることを思い知らされた。
キアは一人で考えることにした。家に帰るつもりが森の奥へ奥へと進んでいた。一人になってちょうどいい。誰かに聞かせたいと思っていたが、口に出すことさえ烏滸がましいとさえ思ってしまっていた。
「私はなんて我儘で強欲なんだろう!!」
涙は出ない。悲しさとか悔しさではない。自分勝手な自分に酔いしれてると思ってしまったから。そうではないと言い訳をしても、きっと相手には響かない。
「やんなるなぁ…」
弱さを見たから絆される。嫌なことも上書きされる。今までのマイナスをプラスにされたら、もうおしまい?
そんな簡単なことですべてをなかったことにされたら満足?
体の傷は残ったままだ。心の傷も治らない。うわべだけの付き合いだけじゃ、いつかきっとボロが出る。思い出す。苦渋な日々を過ごしたことを。異質者と罵られたことを。
キアはぐっと歯を食いしばった。苔生す木の根を見つめた。何十年と歳月が経った苔はちょっとやそっとじゃびくともしない。根が地に吸い付いているからだ。私ももっと揺るがない気持ちを持ちたい。
「嫌なことは嫌と」言える自分になりたい。
自分がどうあるべきか。キハラは足元だけしか見れない私を正してくれた。先の先の先まで見据えているようだ。
自分の決断を「間違い」ではないと胸を張りたい。
キアは深呼吸をする。秋の冷たい空気が深部まで入り込んで気持ちがすっきりした。木々の色が秋色に色づいてきたのをようやく感じることができた。
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