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大会の朝
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時は遡り、大魔法料理対決の朝。会場の人混みの中で一人の教師と生徒の姿を見つけることが出来る。
「あれ? クラウス君はまだ? 紅花ちゃんも来てないね」
外国人向けの言語授業を受け持っているメランドは周囲を見回した。彼女の受け持っている紅花、並びにクラウスとニックが大魔法料理対決に参加すると聞き、会場まで応援しに来たのだ。
「おう! あいつら何か最後まで調整するつってたぜ! そろそろ来るんじゃねえかな!」
既に調理服に着替えていたニックが屈伸しながら答えた。彼は特に気にしていないようだが、本戦の受付はもうすぐ終了してしまう。早くしないと失格になってしまうのだ。
「だ、大丈夫かな。二人とも」
「大丈夫だよ。どうせどっかで池の水でも飲んでんだろ」
「それはそれで大丈夫じゃないよね」
「お、噂をすれば来たみたいだぜ」
「本当? おーい、紅花ちゃ……」
メランドリは手を挙げた状態で固まってしまった。
自分の方に歩いてくる少女は紅花だ。紅花はいつものように柔和な笑顔でこちらに右手を振り返している。それは良い。
もう一人いる。いや、メランドリはその人物を「人」としてカウントして良いのか判断しかねていた。
紅花の左手は鎖を掴んでおり、その鎖がジャラジャラと繋がる先には4本の足……いや、二本の手と二本の足で大地を進む男がいる。
「お馬さん」みたいな可愛い四足歩行ではない。トカゲが這うように身体をくねらせ、ベタベタと前に進む系だ。
白目も歯茎も鼻の穴も剥き出しになっており、何だか白と赤で少しめでたいが、見る者を恐怖に陥れる顔をしている。
メランドリも最初は何故紅花がそんなものを連れているのか分からなかった。しかし、よく観察すると、それはどこかで見たような顔に見える。
「おっせえぞ紅花ぁ! クラウスぁ!」
ニックの視線はしっかり紅花と、そして四つん這いの化け物を捕らえている。
「く、クラウス君!?」
メランドリはその時ようやくそれがクラウスである可能性に気付いた。
「そうだヨ、これクラウスだヨ」
紅花は平然と言ってのける。その横でフシューッ、フシューッ、と音を立てながら口から蒸気を上げている。
クラウスの可能性よりモンスターの可能性の方が高くなった。
「これ本当にクラウス君なの!? だ、だってどうして四足歩行してるの!? 白目だし、歯も鼻も剥き出しだし!」
「些細な問題ヨ」
「些細かなあ!?」
その時、クラウスの両目が針のように光理、猛然とメランドリに飛び付いてきた。
「がああああああっ!!」
「うひゃああっ!」
メランドリは恐怖で尻餅を付いてしまった。しかし首輪がクラウスの動きを制限していたため、その手がメランドリに届くことは無かった。
紅花は中腰になって鎖を引っ張りながら
「食べちゃダメヨクラウス! その人メランドリ先生だヨ!」
「待って!! クラウス君私のこと食べるつもりだったの!?」
「あ、違うヨ。ちょっと口が滑っただけヨ」
「じゃあ事実じゃん!!」
「まあ落ち着けよ先生」
ニックはクラウスの前に座り込んだ。
「いや教え子に危うく食べられそうになって落ち着いていられる先生なんていませんよ!!」
「こいつはちゃんとクラウスだ。おいクラウス、大会の意気込みを教えてくれ」
「ヤル……」
「何?」
「全員食ッテヤル……」
「もう完全にモンスターじゃないかなあ」
「ほら、ちゃんとクラウスだろ」
「いや違う違う違う‼︎ さっきの台詞をどう解釈したらクラウス君になるの!? あの子そんな野獣みたいな事言わないよ⁉︎ あと今まで突っ込まないでいたけど、何でパンツ一丁なの!?」
クラウスはパンツ一枚しか身に付けていなかった。
「暑かったんだろ」
「暑くても普通はならなくない?」
「早ク食ワセロ……!」
「ひっ!」
「まあこれでも随分マシになったんだぜ」
ニックは立ち上がりながら言った。
「昨日までは足8本生えてたし」
「タコだったの!?」
クラウスが一体どうしてこのようになってしまったのか。それは全部仮想空間内で起きた事件のせいであるが、今は触れないでおく。
「先生はクラウスの心配してるみたいだけどよお、周りも結構尖った奴ばっかだぜ」
「え?」
メランドリがぐるりと見回すと、何だか視界が揺れて見える。おかしい、そんなはずはないと目を擦ってみるが、やはり出場者達を取り巻く空気が異様に膨れ上がっていて、異質なものに感じる。
そのうちの一人はゴボウの如く痩せこけているが、不気味な笑みを浮かべながら包丁を研いでいる。料理人というより殺し屋である。
また、他の一人は、地面に生えている雑草を引っこ抜いては口に運び、引っこ抜いては口に運びながらじっとこちらを凝視している。
他にもベンチプレスで自分を追い込んでいる者、泣きながらワカメ
を食べる者、頭からひまわりの生えている者など様々だった。
「ねえ! ここ本当に大魔法料理対決の会場なの!? 面白人間コンテストの会場じゃなくて!?」
「おいおい、こいつらが面白人間に見えんのかよ」
「怖過ぎて一周回って見えてきたよ!」
メランドリは紅花達が大会を勝ち上がれるかより、無事生きて大会を終われるかの方が心配になってきた。
「心配ナイ……!」
おもむろにクラウスが立ち上がった。
「ク、クラウス君! 大丈夫なの……?」
「フシューッ!」
「大丈夫なの本当に!?」
こうして大魔法料理対決の幕が開いた。
「あれ? クラウス君はまだ? 紅花ちゃんも来てないね」
外国人向けの言語授業を受け持っているメランドは周囲を見回した。彼女の受け持っている紅花、並びにクラウスとニックが大魔法料理対決に参加すると聞き、会場まで応援しに来たのだ。
「おう! あいつら何か最後まで調整するつってたぜ! そろそろ来るんじゃねえかな!」
既に調理服に着替えていたニックが屈伸しながら答えた。彼は特に気にしていないようだが、本戦の受付はもうすぐ終了してしまう。早くしないと失格になってしまうのだ。
「だ、大丈夫かな。二人とも」
「大丈夫だよ。どうせどっかで池の水でも飲んでんだろ」
「それはそれで大丈夫じゃないよね」
「お、噂をすれば来たみたいだぜ」
「本当? おーい、紅花ちゃ……」
メランドリは手を挙げた状態で固まってしまった。
自分の方に歩いてくる少女は紅花だ。紅花はいつものように柔和な笑顔でこちらに右手を振り返している。それは良い。
もう一人いる。いや、メランドリはその人物を「人」としてカウントして良いのか判断しかねていた。
紅花の左手は鎖を掴んでおり、その鎖がジャラジャラと繋がる先には4本の足……いや、二本の手と二本の足で大地を進む男がいる。
「お馬さん」みたいな可愛い四足歩行ではない。トカゲが這うように身体をくねらせ、ベタベタと前に進む系だ。
白目も歯茎も鼻の穴も剥き出しになっており、何だか白と赤で少しめでたいが、見る者を恐怖に陥れる顔をしている。
メランドリも最初は何故紅花がそんなものを連れているのか分からなかった。しかし、よく観察すると、それはどこかで見たような顔に見える。
「おっせえぞ紅花ぁ! クラウスぁ!」
ニックの視線はしっかり紅花と、そして四つん這いの化け物を捕らえている。
「く、クラウス君!?」
メランドリはその時ようやくそれがクラウスである可能性に気付いた。
「そうだヨ、これクラウスだヨ」
紅花は平然と言ってのける。その横でフシューッ、フシューッ、と音を立てながら口から蒸気を上げている。
クラウスの可能性よりモンスターの可能性の方が高くなった。
「これ本当にクラウス君なの!? だ、だってどうして四足歩行してるの!? 白目だし、歯も鼻も剥き出しだし!」
「些細な問題ヨ」
「些細かなあ!?」
その時、クラウスの両目が針のように光理、猛然とメランドリに飛び付いてきた。
「がああああああっ!!」
「うひゃああっ!」
メランドリは恐怖で尻餅を付いてしまった。しかし首輪がクラウスの動きを制限していたため、その手がメランドリに届くことは無かった。
紅花は中腰になって鎖を引っ張りながら
「食べちゃダメヨクラウス! その人メランドリ先生だヨ!」
「待って!! クラウス君私のこと食べるつもりだったの!?」
「あ、違うヨ。ちょっと口が滑っただけヨ」
「じゃあ事実じゃん!!」
「まあ落ち着けよ先生」
ニックはクラウスの前に座り込んだ。
「いや教え子に危うく食べられそうになって落ち着いていられる先生なんていませんよ!!」
「こいつはちゃんとクラウスだ。おいクラウス、大会の意気込みを教えてくれ」
「ヤル……」
「何?」
「全員食ッテヤル……」
「もう完全にモンスターじゃないかなあ」
「ほら、ちゃんとクラウスだろ」
「いや違う違う違う‼︎ さっきの台詞をどう解釈したらクラウス君になるの!? あの子そんな野獣みたいな事言わないよ⁉︎ あと今まで突っ込まないでいたけど、何でパンツ一丁なの!?」
クラウスはパンツ一枚しか身に付けていなかった。
「暑かったんだろ」
「暑くても普通はならなくない?」
「早ク食ワセロ……!」
「ひっ!」
「まあこれでも随分マシになったんだぜ」
ニックは立ち上がりながら言った。
「昨日までは足8本生えてたし」
「タコだったの!?」
クラウスが一体どうしてこのようになってしまったのか。それは全部仮想空間内で起きた事件のせいであるが、今は触れないでおく。
「先生はクラウスの心配してるみたいだけどよお、周りも結構尖った奴ばっかだぜ」
「え?」
メランドリがぐるりと見回すと、何だか視界が揺れて見える。おかしい、そんなはずはないと目を擦ってみるが、やはり出場者達を取り巻く空気が異様に膨れ上がっていて、異質なものに感じる。
そのうちの一人はゴボウの如く痩せこけているが、不気味な笑みを浮かべながら包丁を研いでいる。料理人というより殺し屋である。
また、他の一人は、地面に生えている雑草を引っこ抜いては口に運び、引っこ抜いては口に運びながらじっとこちらを凝視している。
他にもベンチプレスで自分を追い込んでいる者、泣きながらワカメ
を食べる者、頭からひまわりの生えている者など様々だった。
「ねえ! ここ本当に大魔法料理対決の会場なの!? 面白人間コンテストの会場じゃなくて!?」
「おいおい、こいつらが面白人間に見えんのかよ」
「怖過ぎて一周回って見えてきたよ!」
メランドリは紅花達が大会を勝ち上がれるかより、無事生きて大会を終われるかの方が心配になってきた。
「心配ナイ……!」
おもむろにクラウスが立ち上がった。
「ク、クラウス君! 大丈夫なの……?」
「フシューッ!」
「大丈夫なの本当に!?」
こうして大魔法料理対決の幕が開いた。
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