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1 異世界へ
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しおりを挟む改めてエバンスさんが、【新人訓練】についての説明をはじめる。おおまかな内容は掲示板に貼られて紙で確認しているが、更に詳しい内容なんだろう。
僕が疑問に思っていたのは、果たして、そんなに簡単にスキルが取得出来るんだろうか?ということだ。これについてだが、スキルの中には取得条件が判明していて尚且つ冒険者ギルドに情報として共有されているものがあり、今回の『解体』『採取』『棒術』の三つのスキルは、その中でも比較的に取得方法が容易で、新人冒険者にとってかなり役に立つスキルなんだそうだ。
実際『解体』と『採取』については、あくまで物語の中ではだけど、序盤の鍵になるスキルとしてファンタジーの定番にはなっているものだし、僕としても欲しかったスキルだから助かる。
僕のホントにスキルが手に入るのかなーという疑念の眼差しに耐えかねたのか、エバンスさんは先にスキルの取得条件について話し始めた。
「取得条件はヒミツてわけじゃないしな」
と前置きをした。スキルの取得方法は想像していたよりも簡単な方法だった。それでも僕一人では絶対手に入れることは不可能だっただろう。
『解体』と『採取』は共に同スキルのLV八以上所持者の作業を説明付きで見学した後、自分たちでそれを試しているうちに自然と手に入る。平たく言えば先生がいないと手に入らないスキルだ。『棒術』については、もっと簡単で鈍器をはじめとした棒状の武器をひたすら一時間前後素振りをするだけで簡単に取得できるのだという。
『剣術』や『槍術』や『弓術』といった他の武器に使うスキルの取得条件は、まだ曖昧でハッキリしていないこともあり、パルグスの冒険者ギルドでは『棒術』の取得をススメているようだ。ただ装備系の基本スキルの取得は難易度が高いワケでも無い様で、五つしか選べない初期スキルで『剣術』を選んでしまったのは少々残念な気がする。
もし、もう一度あの幼女に会う機会があるなら初期スキルの交換が出来ないか相談してみるのもいいのかもしれないな。
『棒術』を選ぶのにはスキルの取得がしやすい他にも理由がある様だ。それは、どんな人でも取得可能なスキルで尚且つ比較的武器が安価に手に入ること、最悪武器を失ったとしても森で堅い木の棒を見つければ、それを使いそこそこ戦えてしまう便利なところだ。何よりも大きいのはLV一で必殺技付きという唯一無二のスキルだからだとエバンスさんは言った。〝必殺技!〟思わずその響きに胸が躍る。そこにも質問してみたんだけど、後で直接見せるからそう騒ぐなと怒られてしまった。
そんな僕を気遣ってか、剣の様に切れ味が悪くなったら研ぐ必要もないのも楽なんだぜ、とポトルが補足してくれた。
ゲームなんかだと耐久力は減ってもそれによって攻撃力、すなわち切れ味が落ちることはほぼ無い。でも現実は切れ味も悪くなれば、堅い魔物相手なら刃も欠けることもある、鈍器には剣の様な華は無いけど、そう考えると優秀な武器だよな。
その後みんなで早速『解体』スキル取得のために、冒険者ギルドの隣の解体所へと移動した。気分は工場見学だ。
借りたエプロンを身に着け、エバンスさんが天井から伸びた鉤付きの鎖に頭を引っ掛けた灰色大狼の死体を説明をしながらナイフ一本で解体していく。切る部分に線でも引いてあるかの如く、次から次へと皮を剥ぎ肉を切る。なんでも『解体』スキルを取得すると初めて見た魔物でも、何処にナイフを入れればキレイに切ることが出来るのかとか、腸等、傷つけてはいけない部位がどこにあるのかも分かる様になるんだそうだ。
本当だろうか?と疑念を抱きながらも、エバンスさんの説明の後に僕らも一人一匹ずつの灰色大狼の死体を渡されて解体をはじめた。エバンスさんの時とは違い、どこを切ればいいのか分からず、傷つけてはいけない部分にナイフを入れては頭から血を被る。それでも、諦めずに解体を続けているとある瞬間から、次はここを切らなきゃと見ただけで分かる様になってきた。
『ステータス』を開き、そこに『解体』スキルの文字があるのを確認した。
スキルが手に入っただけで、昔から魔物解体を仕事にしていたんじゃないかと錯覚するくらいの知識が付いた。ゲームだとスキルの取得の恩恵は、モンスターに与えるダメージアップや使える技の増加、モンスターから素材が抽出出来るようになったりと、便利な能力を手に入れたと思う程度なんだが、実際自分でそれを体感してみると驚愕という表現がぴったりなくらいの驚きがある。他のみんなも同じ感覚なんだろう、驚きや興奮を含んだ声がチラホラと聞こえてくきた。
灰色大狼の解体を終えると、最後は五人で床に飛び散った肉片を拾い、水を撒きデッキブラシの様なモノで床の掃除をする。
借りたエプロンも水を張った桶で洗い、それを干し終えることで『解体』の訓練は終了した。
次は、エバンスさんの案内で森へと移動する。
『採取』スキルの取得は、本当に一瞬だった。
エバンスさんが、僕らの目の前で背の低い木から、梅の実に似た緑色の身をひとつ、枝から実を捻りながら外す。それを見た後、同じように木の枝から実の採取を続けた。四つ目の木の実に手を触れた瞬間、自ずと木の実を採取するのに丁度良い力の入れ具合が頭に浮かぶ。『解体』と同様『採取』の文字が『ステータス』に書き込まれていた。
『採取』のLVを上げることで毒のある植物の採取が出来たり、『採掘』といった新たらしいスキルの取得も可能になる…らしい…。
最後は森の中にある開けた場所で、僕らは棍棒をひたすら振り続けた。ちなみに僕の斜め前にルーファたんがいるんだけど、これはルーファたんが僕が前にいると恥ずかしいからという理由であって、棍棒を振り下ろす度に揺れるルーファたんの胸の膨らみを観察するためでは断じてない、もちろん、見ない様に頑張るんだけど、いつの間にか僕の目は大きな膨らみに引き寄せられていた。
これは、男だから仕方ないよね。
目の保養を十分にした後は必殺技についてだ。必殺技はキーワードを言うことで使用可能な状態になるようで『棒術』はLV一で『ブラントクラッシュ』というありきたりな名前の必殺技が使える様になる。エバンスさんが特撮よろしくな感じの大声で〝ブラントクラッシュ〟と渋目な声で叫ぶと棍棒を持つ右手と棍棒が薄っすらと光り出した。光った後は三〇秒以内に棍棒で何かを叩かないとMPだけ消費して、光は止み効果が切れてしまうんだとか、本当にゲームにしか見えない。
『ブラントクラッシュ』の効果は、自分が放つことが出来る最も強い打撃の五割増しの威力の攻撃を放つ必殺技。
その後灰色大狼を相手にみんなで『ブラントクラッシュ』を試してみたんだけど、頭に入れば一撃で灰色大狼を倒すことが出来た。『棒術』LV三で『ダブルクラッシュ』という『ブラントクラッシュ』二連撃の必殺技を覚えることができるそうで、益々『剣術』の必要性が分からなくなる。
みんなで一匹ずつ灰色大狼を倒し僕たちはみんなで【新人訓練】を無事終えることが出来た。
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