仮)銀の魔物模倣師と黒剣のペルギアルス。

たゆ

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 【新人訓練】終えた日から、『採取』のスキルと自分自身のLV上げのために、毎日森に入り灰色大狼討伐と薬草採取の依頼を交互にこなした。
 森に通い分かったことがる。森の魔物たちは相手が人間だからといってむやみやたらに襲ってくるわけではなく、模倣の狒々の様に強い魔物が近くに居る時には、襲って来るどころか逃げることを優先するようだ。生前本能ってやつだろう。
 僕が魔物の立場だったとしても、敵わないとはじめから分かる相手に手を出そうとは思わないし、狒々もドゥームアナコンダもここでは過ぎた魔物ということだ。レッドベアと遭遇すると少し厄介だけど、狩りの効率を考えるのであれば、森の浅瀬で出す模倣の魔物は灰色大狼一択になる。
 手持ちで一番弱い模倣の灰色大狼にも強みはある。弱い分LV上がり易いのだ。それに三種類の中では一番鼻と耳が良いので獲物を探すのにも役に立つ。
 僕自身、今のところLVも順調に上がっているし、『採取』LVが上がったことで、目的のひとつだった『採掘』スキルを手に入れることが出来た。
 問題は、オリジナルスキル『死者の模倣』のLVが上がっても、特に性能に変化が無いことだ。LV一とLV一〇で違いが無いのなら、LVを上げる意味がなくなってしまう。

 後、町での人々の反応も変わってきた。これについては単純に僕の黒髪が見慣れてしまったんだろう。中にはいまだにきつい視線を向けて来る人もいるにはいるけど、大半の人は何の興味も無いって感じで通り過ぎていく、面倒事には関わるなって感じなんだろう。
 宿屋は変わらず『月見草の雫亭』を利用している。ラピスちゃんの笑顔の〝おかえり〟を聞くために毎日冒険者として頑張っているといっても過言ではないと思う。

「お兄ちゃん、お帰りなたーい」
「ただいまラピスちゃん」
 こうして、ただいまのハグの後に一緒に夕飯を食べるのが日課になっていた。たまーに……
「お兄ちゃん、あせくさーい」
 とショックな一言があったりするが、鼻を抓んだ後ケラケラ笑う姿が可愛いので、これはこれでありだよな。

 『アイテムボックス』は毎日使っているのにレアスキルなのか全くLVが上がる気配がない。それと『死体探索』も現状使いどころが無くLV一のまま変わっていない。死体探索は化石の様な目に見えない死体を探すために選んだスキルだから、役立つのは準備が整ってからだろうけど。『生活魔法』については『死者の模倣』と『棒術』の必殺技にMPを割いている現状、LV上げをするのは難しいといった感じだ。
 スキルのLV上げは、ゲームをしているみたいで楽しくはあるんだけど、『暗視』スキルが無いから暗くなると狩りが出来ないのがキツイよな、今は徹夜をしてでも少しでもLVを上げておきたいのに。
 異世界を舞台にした物語の多くは序盤に大きな波がある。考えすぎなのかもしれないけど生き残るためにも準備はしておかないと、まあいいや……今日はもう寝よう。

 ベッドに寝ていたはずなのに、いつの間にか広い荒野にいた。月は隠れているのか明かりはほとんどない。
 暗闇の中に一人の少女が立っていた。
「あ……あの時の幼女」
 殴られた……。しかも、バトル漫画かよってくらいの物凄い一撃で、僕の体は吹き飛ばされ何度も何度も地面に体を打ち付けながら転がり続けた。やっと止まったかと思い立ち上がろうとするが、手足の関節があり得ない方向に曲がってしまい思う様に動けない。
 死ぬな……。
「死にませんって、ここは夢の中なんですから。体も痛くないはずですよ!いいから、さっさと立ち上がってください」
 夢の中だと認識した瞬間、手と足は元に戻っていた。いつの間に眠ってしまったんだろう。
「それと、私は幼女ではありません」
 心が読めるんだろうか?でも……どこからどう見ても幼女にしか見えない。ルーファたんと違ってペッタンコだし……今度は体が上空へと打ち上がる。蹴られたのは辛うじて見えた。でも一瞬で宇宙まで飛ぶって……。
 その後は落ちるだけだった。もの凄いスピードで落下して地面へと激突する。夢だからなのか自分がミンチになり肉片が四方に飛び散ったことが分かった。夢で痛みが無いからといって流石に恐怖心は絶対残るよな。これも夢だからだろう、四方に飛び散った肉片が集まりやっと人の形に戻れた。
 そんな悲惨な状態を前にしても、幼女は淡々と話しを続ける。
「名前は決まったようですね、オディールですか良い名前ですね。ちなみに私のこの姿はファンタジー好きのあなた方が思い描いた理想の姿です。どんな理想を抱くのも勝手ですが、幼女好きとか気持ち悪いです」
 彼女はこんなSキャラだったろうか?幼女好きについては否定できない。僕は幼女!もちろん、リアルの幼稚園児や小学生の女の子ではなく、アニメに登場する幼女キャラについては好きな方なんだと思う。某ファンタジー作品でもケモミミ成人女性よりも鳥の幼女の方が好きだった。
「それに私は幼女という名前ではありません。私の名前はルディ―レ・ル・エルです。名を呼ぶならルディ―レと呼んでください」
 何が起きたんだろう。彼女の名前を聞いた瞬間、今まではっきり見ることが出来なかった彼女の顔を目を髪を、僕は認識出来るようになっていた。目の前にいたのは銀髪ツインテールの銀眼幼女。確かにファンタジー好きが好む容姿だとは思う。ファンタジーでも少々魔法少女寄りな、偏った見た目な気はするけれど。
「ところでルディ―レちゃんは、何しに来たんだ?」
「ちゃんはいりません。気持ち悪いです!もちろんルーファたんなんて呼び方は最高に気持ち悪いので、頭の中で考えるのも禁止します」
 精神的に重大なダメージを受けた気がした。クリティカルヒットってやつだ。ルーファたん……これって、日常生活も監視されているのか?しかもルーファたんについては人前どころか、心の中でしか読んだことが無い。僕が日常を覗かれているかもしれない恐怖に、小刻みに震えているのを見てもルディ―レは気にせず話を続ける。
「今回来たのは『死者の模倣』のLVアップについて話に来ました。LVが上がればスキルの性能も上がるのも普通ですから、これからどう変化していくのか話そうと思いまして」
 いつの間にか、僕はルディ―レと一緒に小さなテーブルを囲んで紅茶を飲んでいる。テーブルの上には香りの良い紅茶の他に、丸い缶に入って売っていそうな様々な形のクッキーが並んでいる。夢だからといって、好き勝手にし過ぎじゃないかとも思うのだが、今は遠慮せずにクッキーの味を堪能することにした。(こっちじゃなかなかバターの効いたクッキーは手に入らないよな)殴られても蹴られても痛くないのに、クッキーの甘味は普通に感じることができる。
 ルディ―レの話だと、僕が考えた『死者の模倣』は、地球にこの異世界に続く穴を開けた存在に大層気に入ってもらえたらしく、ルディ―レは当面の間このスキルがどう成長するのかを監視する役目を任された様だ。恐らくその存在とは神様みたいなものなんだろう。(ん?図星か、ルディ―レの表情が一瞬変わった様な……)その存在が『死者の模倣』に興味を示しているうちは、スキルが様々な形に発展する可能性はある。
 チートスキルが手に入らないのなら、『死者の模倣』が少しでもそれに近付くようにもがいてみるのが最善の手だよな、ルディ―レは夢の中じゃ僕の心の中も読めるんだったか……ルディ―レはそれを肯定する様に微笑んでみせた。日常も見られている可能性もあるんだよな、しかも心の中まで、こんなキレイな顔をした女の子に四六時中観察されるなんて興奮しかしない……また殴られてしまった。今度は一瞬で顔が吹き飛んだ。

 芸人のネタではないが時間が戻ったことにして、無かったことにして、気を取り直してスキルについて話しはじめる。
「LVが上がる度に死体から作れる模倣の魔物の上限数を増やしていくのはどうだろう?一回のLVアップで五体増えるとか」
「ダメですね多すぎます。それに、ただ増えるだけじゃ誰も喜びませんよ、飽きられちゃってもいいんですか」
 あの時は認識することすら出来なかったから分からなかったんだけど、ルディ―レは感情豊かな性格に見える。
 LVアップの度に毎回凝ったルールを付けてしまうと後々面倒なことになる気もするし。単純に使役できる数が増えるのが一番良いと思うんだけど、異世界への穴を開けた存在が、地球、特に日本に興味を持っていたのは確かだろうな。
「それならLVが一つ上がる度に六面サイコロを毎回振って、増やす模倣の魔物の数を決めるってのはどうかな?もちろんそれだけじゃ退屈だろうから、増やす数は出た目の半分以下。出た目が一なら数は増えないし〇になる可能性があるのも盛り上がるんじゃないか?最高で三体てのも多くないと思うんだけど」
 僕の提案にルディ―レは少し考えるそぶりを見せた。
「悪くないかもしれませんね。わかりました。もし、あなたの意見が採用された際には、明日あなたが目を覚ました時に模倣の魔物の登録数が増えているはずです。増えていない時には、次の日の夜まで別のルールを考えておいてください」
 すぐにルディ―レからサイコロを受け取り三回振った。三……二……五……。
 このルールが採用されていたならば、明日目を覚ました時に模倣の魔物の登録数が四体増えて上限が九体になっているはずだ。
「あとLV五毎に特殊スキルの追加も提案したいんだ。それと『剣術』スキルを他のスキルに変更出来ないかどうかも考えてほしいんだけど」
「わかりました。検討しておきましょう……あ!言い忘れてました。宿屋に帰る度に五~六歳の女の子にハグするのって元々いた世界なら犯罪になるかもしれませんよ。注意してくださいね」

 そう言ったルディ―レの顔はとても怖く。

 話が全て終わったんだろう、ルディ―レは消え、紅茶やクッキーも一緒に消えてしまっていた。
 
 
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