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1 異世界へ
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しおりを挟むここパルグスの町の冒険者ギルドでは死亡率の高い冒険者の生存率を少しでも高めようと様々な取り組みがされているようで、その一つが【新人訓練】だ。魔物の死体をひたすらナイフで切り刻んでも得られなかった『解体』スキル。それがたったの銅貨一〇枚で必ず取得できるというからお得でしかない。
しかも、【新人訓練】では『解体』スキルの他にも、『採取』と『棒術』の二つのスキルが手に入るという。
冒険者ギルドを出た後、少しパルグスの町を散策してみたのだが、黒い髪色はやはり浮いている様で、人々の視線に耐えきれず僕は散策を切り上げた。
「お兄ちゃん、お帰りなちゃい」
ラピスちゃんは前歯が抜けているせいか、言葉の語尾がたどたどしくなる様でそこがまたカワイイ!
「ただいま」
僕はしゃがみラピスちゃんに目線を合わせて、キレイなフワフワの髪の頭を撫でた。
『犯罪!犯罪!犯罪!犯罪!』疲れているのか幻聴が聞こえてくる。
メアリ―さんも、ラピスちゃんと一緒に笑顔で出迎えてくれた。僕の様な黒髪が泊まって迷惑じゃないのかと聞いてみたが〝ここは宿屋なのよ当然でしょう〟ときょとんとした顔で、なに変なこといってるの?と言われてしまった。
「すみません、今日も泊まりたいんです部屋は空いてますか」
「二日分料金は頂いているから明日の朝まではあなたの部屋よ」
訓練がはじまるギリギリまでは宿屋に籠っていたいし、もう一泊追加しておいた方がいいか。
「もう一泊追加してもいいでしょうか?」
「もちろん大歓迎よ」
こうして僕は、もう一泊『月見草の雫亭』にお世話になることになった。
この日の夜は、メアリーさんに頼まれてラピスちゃんを膝に乗せて眠くなるまで絵本を読み聞かせてあげた。おもむろに銅貨一〇枚をメアリーさんに渡そうとしたんだけど〝うちのラピスは売りモノじゃありません〟と怒られてしまった……本当に反省だ。でも、【ラピスちゃんを膝の上に乗せて絵本読み聞かせの権利売ります】てなったら僕だけじゃなく男女問わず手を挙げる人は多い気がするんだが。
昼過ぎ、宿屋を出て冒険者ギルドに向かうとエバンスさんが待っていた。
「おー、兄ちゃん来たか」
僕を見つけたエバンスさんが豪快に笑って背中を叩く……かなり痛い。
「今日はお世話になります」
「ああ、よろしくな、まずはリデリアのとこで参加の手続きをしてきな」
リデリアさんの窓口に並び【新人訓練】の書類に名前を書き銅貨一〇枚を支払う。でエバンスさんのいるテーブルに戻ると初めて見る少年と少女が四人座っていた。僕より少し年下だろうか?
「へぇーあんたが噂の黒髪か、本当に髪の毛が黒いんだな」
ツンツンした髪型の活発そうな少年が興味深そうに僕を見る。
「こらポトル、初対面の相手にその口のきき方はないでしょう」
彼女はこの中だとお姉さんポジションってところか、ポニーテールとそばかすが特徴的でしっかり者の印象を受ける。
「ごめんねポトルは礼儀を知らないから、僕はディスガス。お父さんが雑貨店をやっているんだ。冒険者に役立つ物も置いてるから覗きに来てね」
話に入って来たのは、僕と同じくらいの背の高さのぽっちゃり系の男の子。目が細目でおっとりしている印象を受ける。異世界の商人の息子って性格が良い子が多いよな!これはあくまで僕の印象である。
「僕が店に行ったら迷惑じゃない?」
「大丈夫大丈夫。屋台の人たちは髪や肌の色を気にする人も多いけど、店を構えているところなら商売って割り切る人も多いから平気さ」
屋台と路面店の差別意識の違いは理解出来ないけど、買い物が出来る店があるのはありがたい。
「こらお前ら落ち着け、キチンとお互いの自己紹介の時間は取るからまずは座れ」
エバンスさんの声に四人は怯える様に静かに従った。エバンスさんと四人の間には僕の知らないことがいろいろあるんだろう。
僕も四人と同じように近くの椅子に座る。
「今日はこの五人で新人訓練に挑んでもらう。内容としてはこれから解体場で魔物の解体をしながら『解体』スキルを身に着け、次に森で薬草を摘み『採取』スキルを、最後に森で狩りをしながら『棒術』スキルを身に着けて終わりだ。今日はオディールがいる『アイテムボックス』もあるからな帰りは楽だぞ、その分一人最低一匹は魔物を仕留めてもらうからな。ちなみに新人訓練で手に入れた薬草及び魔物についてはお前らへの分配は無しだ。その代わりと言ってはなんだが、解体用ナイフ、採取用ミニスコップ、樫の木の棍棒、樫の木の小型盾は支給するから文句は言うなよ」
後ろで出るタイミングを待っていたのか、エバンスさんの説明に合わせて冒険者ギルドの職員たちが、僕らの前のテーブルの上にそれぞれの道具を並べた。
「じゃーまずはお互い自己紹介からだ」
先に僕から名乗らなきゃいけない空気を感じて口を開く。
「初めまして、名前はオディールと言います。冒険者を目指してログリットからやって来ました。生まれ故郷については詳しく話せない決まりになっていますので聞かないでもらえると助かります。年は一七です」
ログリットについては、詳しくは話せないという噂を利用させてもらった。地図にすらない町や地域だ。恐らく僕らをこの異世界へと連れて来てくれた彼らが設定した架空の町の名前なんだろう。詳しく聞かれない為にもこう話しておくのがベストな気がする。
「へぇー黒髪、俺たちより年上なんだな」
ポトルがボソッと言った瞬間、ポニーテールのそばかすの女の子がポトルの頭におもいっきりげんこつを落とす。
「いてぇーな、何すんだよ」
痛そうに頭を抑えながらもポトルは少女を睨んだ。
「自己紹介の後に名前じゃなく黒髪って呼び方は失礼でしょ!ごめんねオディールさん」
少女は、ポトルを完全に無視して先に僕へと頭を下げた。
「気にしないでください。僕はよそ者なわけですから……」
そんな僕を見てポトルも悪いと思ったんだろう。
「わりぃー俺、礼儀とか知らなくてさ、今度からはオディール……さんって呼ぶよ」
何だろう、異世界の少年って裏表がないというか素直?、少し照れながらブツブツ呟くポトルを見て、一部のマニア受けしそうだなとか、関係ないことを考えてしまう。
「さんはいらないよポトル?お互い呼び捨てにしよう」
「おう!」
ポトルが嬉しそうに笑った。この四人からは僕を差別する様な嫌な感じは全くしない、異世界モノって基本感じの良い冒険者と悪い冒険者の二つのタイプにハッキリと分かれるんだけど、四人の第一印象は前者なわけで。当たりかな……。
みんなすごく素直そうだし、実は四人共物凄く腹黒でしたとかいう鬱展開は絶対に来ないでほしい。
「自己紹介だったな、俺はこのパーティーのリーダーのポトルだ。よろしくな」
当たり前なんだが四人共、金髪で碧眼で肌は白い。ポトルの特徴としてはワックスやムースやスプレーのないこの世界でどうやって某戦闘民族の様に髪がツンツンと重力を無視して立っているのかは謎だけど、特徴的な髪型と背は低めで元気でやんちゃな男の子って感じだ。年は僕より年下みたいだけど……何歳なんだろう?
未だに鏡で自分の顔をハッキリと見ていないから分からないけど、〝年上なんだな〟という言葉を聞く限り僕も一七歳にしては幼く見えているのかもしれない。視線の位置から考えると僕の背はポトルよりやや高い程度、ほかの人たちを見る限り僕の背も一般成人男性の平均よりやや低めなのか。
「何よリーダーって、まーその話は後でいいわ。私の名前はリコ、私たち四人は幼馴染でね、みんなオディール……より年下の一五歳なの、よろしくね」
ポトルにげんこつを見舞ったポニーテールでそばかすの女の子名はリコ。男の子にも負けないクラスに一人はいる気の強い女の子って感じかな。四人の中では、優しくも厳しい世話好きのお姉さんといった印象だ。
「僕はさっきも名乗ったけどディガスだよ。みんなにどんくさいって怒られることもあるけど手先は器用なんだ。ちょっとした物の修理も出来るから相談してね」
ディガスの笑顔は本当に癒し系だと思う。ザ!いい人って感じだし、仲良くなれるといいな。
最後は、リコの背中に身を隠しながら顔だけをひょこりと出す女の子。本当に一五歳?アニメとかならロリっ子枠確定じゃないだろうか、それに巨乳、思わずその膨らみに目が吸い寄せられてしまったんだろう、真っ赤になりリコの背中に完全に隠れてしまった。髪型は現代でいうおしゃれマッシュ、恥ずかしがり屋なんだろうか顔を出すのが精一杯って感じだ。決して僕が膨らみに目を奪われたせいではないと祈りたい。
それでも彼女は小さな声で、必死に勇気を出して口を開ける。
「私は……ルーファって言います。よろしくお願いしましゅ……」
噛んだ……顔を両手で覆い身をくねらせながら〝ハウ―〟と変な声を出す。うん、カワイイ。ラピスちゃんとは別の可愛さがある。ずっと見ていたいけど、一七歳になったとはいえ、元が二〇代後半……もしかしたら、もっと上だった可能性もあるし犯罪になるよな。
そんな感じでウイウイしく自己紹介をする僕たちを現実に引き戻すように、エバンスさんが『パンっ』と両掌を大きく打ち鳴らした。
「自己紹介は終わったな、五人共椅子に座れ。簡単な説明をはじめる」
あえてルーファたんとか呼んだら嫌われるだろうかと、考え込んでいた意識が現実に引き戻された。
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