仮)銀の魔物模倣師と黒剣のペルギアルス。

たゆ

文字の大きさ
13 / 18
1 異世界へ

13

しおりを挟む
 
 『竜の墓場』の場所は、森の奥地ではないものの、人があまり寄り付かない場所のためかなり荒れていた。いくら故人が残した宝があるからといって、近寄るだけで頭痛や吐き気に襲われる様な場所だ。そんな場所に好んでやってくる人は少ないんだろう。
 元が魔物の墓場という曰くつきの場所だし、実際多くの冒険者が命を落としている。最近では呪いの谷なんて呼ぶ人も多いって噂だ。
 噂が人を遠ざけた結果。森には普通の道どころか、けもの道すら残っていなかった。僕は何年ぶりの客なんだろうか?見たことがない草木が伸び放題でまさにジャングル。資料を読んだ限りでは、魔物すらも呪いの谷を恐れて近付かないって話だし、一体何が待ち構えているやら。

 それにしても酷いな、ここは……人と魔物が滅多に来ないせいだろう。独自の生態系が発展してやがる。
 小動物や爬虫類はまだ我慢出来る。問題は見たこともないグロイ蛾や蜘蛛、ムカデがそこら中にいることだ。普通に考えれば地球より自然豊かな異世界だ。様々な虫が沢山いても不思議ではない。もちろんグロ虫だけじゃなく子供たちのアイドル!見たこともないクワガタやカブトムシだって探せばいるのかもしれない。『虫を探して異世界に行ってみた』そんなタイトルのラノベがあったら少しだけ読んでみたい。……問題は、子供の頃は虫に対して無敵だった僕も、年を重ねるごとに苦手な虫が増えていく謎の病気を患ってしまったことだろう。読むかどうかは表紙絵次第かな(ま……異世界じゃもう読めないだろうな)
 それにしても、六〇センチ近いカラフルな芋虫とか見てるだけで精神的にダメージを受けている気分になる。
 なによりも、大きな芋虫を両手で抱えて幸せそうな顔でバリボリ頭から齧る可愛らしい猿を見たんだけど、あのギャップはモザイク無じゃ耐えられないよ。
 無数にある異世界作品で、もっと積極的に異世界は当然の様にグロ虫だらけです。って誰かが声を大にして言ってくれれば、異世界へ来る決断も変わっていたかもしれないな。

 途中でイロイロ吹っ切れたんだと思う。何度も頭から蜘蛛の巣に突っ込んだり、大量の蟻を水の様に浴びたりするも足を止めず前へ進んだ。結果、なんとか『竜の墓場』の入口まで辿り着く事が出来た。帽子かよってくらいでかいジョロウグモぽい物体が頭に乗った時は、心臓が止まるかと思った。
 狼たちがすぐに銜え放り投げてくれたから助かったけど、狼たちには感謝をしないとな。
 『竜の墓場』の入口は、資料通り洞窟になっていた。念のため『ステータス』を確認するが特に毒に冒されている様な状態異常は見当たらない。
 (念には念をだ)自分で入る前に、模倣の灰色大狼一体を洞窟へと近付けた……。
 頭をバットでおもいっきり殴られる様な強烈な痛みが走る。思わずその場で膝をつくが、頭痛はそれほど長くは続かずに止まった。
 洞窟に入ろうとした模倣の灰色大狼は倒れてその場で砕け散る。さっきの頭痛の原因は狼が受けたダメージの一部だったんだろう。洞窟の入口には魔物を弾く見えない壁があるのかもしれない、模倣の灰色大狼たちをその場で待機させて自ら洞窟の中へ足を踏み入れた。僕は問題無く洞窟に入ることが出来た。魔物だけを弾く結界なんだろうか?
  試しに、一度洞窟の外に出て、戻した模倣の灰色大狼のうち一体を、今度は洞窟の中で出してみる。狼は一瞬で砕け僕は激痛に襲われた。頭を両手で押さえながら地面をのたうち回る。『苦痛耐性』の様なスキルが都合よく手に入れば助かるんだけど。
 ジャングルの様な森をずっと歩き続けていて疲れていたんだろう。痛みが引いたところでその場で休憩を入れた。町で買った堅いパンを水で柔らかくしながら口へと運ぶ。(バターの風味がしない味気ないもさもさしたパンは、まずかった)洞窟の出口が谷に続いているためだろう、洞窟の中には風も吹いていて涼しかった。『ステータス』を常に確認しながら慎重に先に進む。洞窟はひたすら下り坂で、外の光が差し込んでいるのか薄っすらと明るい。二〇〇メートルくらい過ぎた辺りで出口が近いのか明るさが徐々に増していった。
 
 ついに到着した。
 『竜の墓場』と呼ばれる場所は、岩の壁に挟まれた谷だった。思っていたより深さは無く、空気が薄いだとか、ガスが貯まっているといったことも無さそうだ。変な匂いもしない。
 念のため再度『ステータス』を確認したが特に変化はないようだ。どの程度の状態異常から『ステータス』に反映されるかは分からないけど、風邪や食中毒みたいなものまで表示されるなら、かなり便利な能力だと思う。原因が分かれば医者にかからずに薬も飲めるだろうし。
 谷に入ってすぐ竜の骨を探そうとした痕なのか、地面に穴を掘った痕跡がいくつもあった。頭痛覚悟で模倣のアナネズミを出してみる。模倣のアナネズミは問題無く動ける様だ。一人で歩くよりはネズミでもいた方がずっと良い。
 谷の広さは一〇メートル程だろうか、長さは先が見えないほど長い。谷の上の方には緑の植物があるのに、途中から植物も消え灰色の岩肌だけが見えている。
 『死体探索』を使ってみた。谷の至る所に死体を示す小さな光が見えた。死体はどれも人が白骨化したもので、装備だけ持ち去られてしまったのか、どの死体も何も身に着けていなかった。
 本来の使い方とは違うものの『アイテムボックス』からツルハシを取り出し、『採掘』スキルで柔らかそうな地面を探し穴を掘った。近くの骨を集めて埋めると手を合わせる。
 この世界の死者の弔い方についての知識は無いし、日本の知識として頭に残るやり方でもいいだろう。

 更に奥へ進んだ。奥の方が白骨化した死体の数は多かった。不思議と入口近くで見つけた死体とは違い、この辺りの死体は装備を着たまま死んでいる。死んだ人間を食べようとしたのか、近くには鳥や小動物らしき骨も落ちていた。ナゼ生き物がいないのか……谷底の土を触った限り、死んだ栄養の無い土というワケでもなさそうだ、植物すら育たないこの環境には何か意味があるのかもしれない。

 入口と違い、死体の数が多かったこともあり、死体は埋めずに先に進んだ。

 奥に進むほど死体の数は減っていった。あくまで仮説だが、力の弱いモノほど、谷に入口近く死んでしまうのではないだろうか?では何故、僕の体には何の変化も起きないんだろう。立ち止まって考える。
 人を殺すほどの頭痛の原因は、呪いや魔法と呼ばれる類の物ではないのだろうか?恐らく僕が死なないのは異世界人だからだ。そうでなければ、こんな強そうな装備の人が死ぬ場所で、僕が平気でいられるワケがない。
 目の前の地面には、真っ白なローブの下にキレイな鎖帷子を纏った九体もの死体が奥へ奥へと順番に転がっていた。しかも、一番奥で倒れている死体が身に着けているローブは装飾が立派で、この中で一番力のある者だということが分かる。人数と装備の特徴からして、この死体が三〇年以上前に消息を断った聖王国ルーデスプリアーズの神官戦士団のモノなんだろう。三〇年以上も前に死んでいるというのに装備には汚れた痕もなく、埃も付かずにキレイなまま残っている。異世界に来たばかりの僕でもそれがどういう物かは想像がついた。(魔法が付与されている装備、魔法の防具や魔法の武器だ)

 『死者の模倣』を使うために一番奥の死体に触る。
 【神官戦士隊長アウロアの死者の模倣に成功しました】メッセージが頭の中で響いた。死んだ人間に使うのは初めてだ。成功した瞬間装備ごと死体がその場から消えた。二番目に倒れていた死体にも『死者の模倣』を試した。今度は失敗した。失敗すると死体は消えるが、装備はそのまま残る様だ。
 その後も『死者の模倣』の登録数がいっぱいになるまで繰り返した。五体に対して三体の成功。上々だろう。

 この日から『竜の墓場』にテントを張り泊まることにした。
 谷の中で活動出来る生物は僕だけの気もするが、寝ている間に虫が体を這い回るかもしれないと考えるとぞっとする。模倣のアナネズミに近付く虫がいたら殺すように命じてその日は眠りについた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

処理中です...