仮)銀の魔物模倣師と黒剣のペルギアルス。

たゆ

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1 異世界へ

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 雨の音で目が覚めた。日本にいた時には、キチンとした屋根がある家で、余程大きな雨音でなければここまで気になることはなかったと思う。(記憶をいじられたせいか、まだ一週間も経っていないのに、随分昔のことに思えるな……)それが今では大雨の中、ディガスのお父さんが営む雑貨店から銅貨四〇枚で買ったテントの中にいる。人生というものは何があるのか分からないものだ。
 布一枚……しかも、日本で売っていた高性能テントには遠く及ばない、防水機能も怪しい当たり前の様に雨水が染み込むテント。
 異世界のテントなんだから、こう……雨を弾くとか雨の音が聞こえなくなるとか、そんな魔法がかけてあってもいいんじゃないのか。

(そういえば、アナネズミは大丈夫か……)テントを開けて外を見る。『ザアアア……』大雨だ。ジャングルっぽいしスコールってやつか、模倣のアナネズミはずぶ濡れになりながらも、雨に耐えながら僕の命令を守り、ずっとテントに虫が近付かない様に見張っていた。健気だ。というより彼らは、僕の命令が無ければ何も出来ない。
 アナネズミをテントの中に入れて、雨が止むのを待った。異世界での雨、TVも無ければ音楽も聴けず本やゲームもない。今後雨が降った日はどう過ごすべきか考える。(退屈だよな……雨の日って)

 ……雨が止んだ。『死体探索』で見るかぎり、谷の奥にはまだ生き物の死体がある。しかも、かなり強い人間の死体が(英雄、亡国の騎士団長黒剣のペルギアルスの死体か)
 神官戦士たちの死体もまだ残っている。今は『死者の模倣』のLVを上げて、模倣の魔物の登録数を増やさないと。

 昨日、初めて人の死体に『死者の模倣』を使った。人の死体から産まれる模倣の魔物は、生前の名前が残るモノと、名前が残らないモノの二種類になるようだ。単純に生きていた時の強さの違いなんだろうか。
 神官戦士団隊長アウロアの死体は【模倣の神官戦士団隊長アウロアの聖霊】という模倣の魔物になり、他の神官戦士の死体は【模倣の勇敢な神官戦士の兵霊】という名を失った魔物になった。最後に付く魔物を現す聖霊と兵霊の違いも気になるけど、勇敢って言葉も気になる。聖霊はあっちだと神の遣いに使われる名でもある。
 そんな彼らの容姿は、パッと見は白いローブを着た聖職者なのだが、顔の前には白い布を付けている。死んだ人の顔に被せる白い布を連想させる布だ。(見た目は西洋のアンデットというよりは、日本の幽霊に見える)

 LVを上げるために狩りに出かけた。
 『竜の墓場』は本当に魔物を遠ざける様だ。お陰で森のだいぶ深いところまで来た。模倣の灰色大狼たちの鼻は頼りになる。レッドベアの生息地を見つけた。
 『竜の墓場』を横切らないと来れない場所だ。冒険者が滅多に来ない場所で増えすぎたのか。共食いをする程にレッドベアの数は増えていた。
 これなら死体を放置しても、アンデット化せず他の熊の腹の中に収まりそうだ。
 二体の神官戦士を出して熊狩りをはじめた。
 その日から、模倣の魔物たちと一緒にレッドベアをひたすら殺し続けた。もちろん毎日だと疲れるので 三日一度は『竜の墓場』でゆっくり休むようにしている。そんな毎日を続けたおかげで順調にLVは上がり、模倣の魔物の登録数もかなり増えた。『死者の模倣』がLVが五になった時点でルディ―レが夢の中に現れるかと期待していたんだけど、LV一〇を越えた今もあの幼女が現れる気配がない。

 雨風を凌げる場所を求め谷の奥を探索することにした。『死体探索』を使う。その死体は今までの反応とは違う強い光を放っていた。元は英雄と呼ばれていた人間の亡骸だ。普通ではないということだろう。
 『死体探査』のLVも上がり、探査範囲も広がった。死んだ生物ごとに光の色の登録が可能になった。人種族の死体は黄色、獣系の魔物は赤、魔物以外の生物は緑、それ以外の未確認の魔物は橙色にした。このスキルは後からも自由にカスタマイズ出来るみたいだし、使いにくいと感じた時に変更していけばいいだろう。

 それにしても、死を感じる程の頭痛の中、よくこんな谷の奥まで来れたものだ。神官戦士団隊長アウロアの死体から一日以上歩いた谷の奥地にその死体は転がっていた。
 アウロアたち神官戦士の装備を見たせいか、その死体が着た鎧がやたらチープに見えた。
 魔法が付与されていない普通の鎧だったのだろう。使いこまれた全身鎧はボロボロに錆び、革のベルトも経年劣化で崩れ、錆びた短剣が死体の横に転がっていた。
 だからこそ余計にそれが目立った。大きな魔力を帯びる一振りの剣……最低大金貨二〇〇〇枚以上の価値があるといわれる黒剣。
 ここに来る前に、四体の神官戦士の死体にも『死者の模倣』を使い、三体の【模倣の勇敢な神官戦士の兵霊】を手に入れた。三人分の魔法が付与された白いローブと、鎖帷子、メイスが手に入ったわけで、そのうち一セットが僕の装備品となった。真っ白な魔法のローブは少々目立ち過ぎるため、町に帰る際には上にマントを羽織る必要があるだろう。残った二人分の神官戦士の装備品を遺品の探索依頼に渡すだけでも、数年は遊んでいられる金が手に入るだろう。
 そういう意味でも目の前の黒剣は、手元に残らずに持ち主ごと模倣の魔物になってもらった方が都合が良い気がする。早速『死者の模倣』を使った。強い魔物の死体だろうが、市場で買ったネズミの死体だろうが成否判定はすぐに出る。

 ドキドキしながら、結果を待った。

 【黒剣のペルギアルスの死者の模倣に成功しました】よし……、五十億の剣を持ち歩くよりはずっと良い結果だ。銀行のないこの世界で、そんな大金を常時携帯するなんて、周りの人間全部が泥棒に見えてしまいそうだしね。
 それにしても黒剣のペルギアルスって名前もいかにもだけど、呼び出すのにMP一七五てどんだけ強いんだ。自分からかけ離れた存在は『死者の模倣』に成功しても呼び出せないってことなんだろう。チート禁止だし当然なのかもな。これならそこそこの強さの模倣の魔物を、育てた方がいいのかもしれない。

 ルディ―レが顔を出してくれれば、何かの機会に呼び出すこともできるかもしれないけど。

 黒剣のペルギアルスの死体を見つけた場所からも、谷はまだ奥へと続いている。しかも、『死体探査』で奥に橙色の光が見えた。だいぶ離れている場所だけど、恐らくこの光が『竜の墓場』の主なんだろう。
 呼び出すことの出来ない消費MPが多い模倣の魔物で、数の決まっている枠を埋めるわけにはいかないし、『竜の墓場』の主との邂逅はまだ先ってことなんだろう。
 
 
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