剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
130 / 157
第7章「旅の終わり」

第3話「工業国家アイン」

しおりを挟む
 工業国家アイン–首都アルヴ–
 飛空船を降りた僕らは、遠巻きに街の様子を伺った。
 ドワーフとホビットが住まうこの国では、鍛治が盛んらしく、鉄を叩くような甲高い音があちらこちらから響いてくる。

 ここは元々は山岳地帯だったそうで、街全体の高低差が激しい。
 斜面に沿って、家らしきものが建ち並んでいる。

 なぜ家ではなく、家らしきものかって?
 高低差が激しいので、歩きやすくするための坂道がいくつも作られているのだが、その坂に沿った壁に扉があったりするのだ。
 遠目から人が出入りしている様子が見えることから、家(らしきもの)の下のむき出しの地面が入り口になっているようだ。
 高低差があるから入るのがめんどくさいのはわかるけど、それなら階段にしようよと思わなくもない。

 だけどそれくらいなら、普通の山岳都市とあまり大差がない。
 この街の最大の特徴は、家から立ち昇る煙だ。
 大小の違いはあるが、どこの家からも筒のようなものが生えており、モクモクと白と黒の混ざった煙が出ている。
 どの家からも煙が出ているせいで、街の空には煙が舞い、昼間だというのに薄暗い。
 
「あの煙、何かしら?」

 サラは飛空船から降りたおかげか、周りの景色を気に出来る程度には回復していた。

「さぁ? なんでしょう?」

 僕らは街のあちこちから登る煙を見た。
 別にアインのことを調べずに来たわけではない。むしろ調べた方だと思う。
 しかし有効な情報は何も得られず、イリスで情報を色々教えてくれた屋台のおじさんも「アインは便利なものが多くて良い所だから住みたい」と行ったことある人が語ってた程度しか知らないと言っていた。
 住みたいと言えるほど良い場所なのだから、アインに来た人達は戻る事なく永住しているのかもしれない。なので情報が流れてこないのかもしれない。

「もしかして街全体が火事とか?」

「それはないです。誰も慌ててる様子がないから、きっとこれが普通の光景だと思うです」

 アリアの物騒な発言に対し、リンが冷静に突っ込む。
 実際街の人たちは誰一人慌てる様子もない。リンが言ったように、この光景が街に住む人たちの日常なのだろう。

「まぁなんでも良いわ。早く街まで行きましょう」

「そうだね」

 ここでグズグズしていても仕方がない、それに気になるなら街の人に聞けば良いだけだ。
 まずは街に行って、拠点となる宿探しだ。 


 ☆ ☆ ☆


 先ほど遠くからみた街の印象は、男性が多い街だった。
 だけど、街に近づくに従ってそれは間違いだったことに気付かされた。
 男性が多いのではなく、女性もドワーフの男性のような白い立派なヒゲを生やしていたから、僕が勝手に男性と見間違えていただけだ。
 ドワーフ族は男女ともに立派なヒゲを生えるのだとか。ちなみに後から知ったことだけど、ドワーフ族はヒゲが美しい程、同種族の異性からモテるらしい。

 そしてドワーフ族と同じくらいの身長だけど、ガッチリした体型のドワーフと違い、パッと見ではただの子供にしか見えないホビット族。
 とはいえ身長が低いだけで、成人している人はちゃんと大人っぽい顔つきをしている。

 いけないと分かっていても、珍しさからついついドワーフ族やホビット族に目が行ってしまう。
 向こうからも僕らが珍しいのかチラチラと見られることが多い。

 街中まで来た。
 行き交う人々はドワーフ族やホビット族ばかりで、人族や獣人族は見かけないな。
 他の種族が居ないのは気になる所だけど、まずは活動拠点にするために、宿を見つける事が先決か。
 僕らは宿を探して歩いた。

 う~ん。ヴェルからイリスに移動した時は国が違っても、店の外観は似たような感じで一目でどんな店か分かったのに対し、アインではそれが通じない。
 数が多くて似たような家が民家だと分かる程度だ。
 不意に、後ろから袖を掴まれた。

「お腹空いた」

 振り返るとアリアが無表情でお腹を抑えている。
 相変わらずのマイペースさだと言いたいところだけど、実のところ僕もお腹が空いてきている。

「私もお腹空いた」

「あんたらねぇ」

 アリアに同調するように、フレイヤもお腹が空いたと言いだしたことに、サラが小言を言おうとした時だった。「きゅるる」と可愛いらしい音がなった。サラのお腹の中から。
 サラは苦笑いを浮かべ、頰をぽりぽりと掻いてバツの悪そうな顔をしている。

 飛空船にいる間、サラは果実や野菜をすり潰した物しか口にしていない。
 調子を取り戻したことで、やっと食欲も戻ってきたのだろう。
 仕方ない、ここは助け舟を出すか。

「確かにアリアが言うようにお腹が空いたね。リンは?」

「リンもお腹が空いたです」

「うん。それじゃあお昼にしようか。ほら行くよ」

 皆で決めた事だからしょうがないから従うという体を持たせる。
 サラはちょっとだけ小声で言い訳じみたことを言って、しょうがないんだからと言いたげな顔でついてきた。本当にしょうがないのはどっちだろうね。

「おう。兄ちゃん達、飯がまだならここで食ってかないか?」

 どうやら僕らの目の前の家は料理店だったようだ。
 エプロンを身にまとったドワーフの男性が腕を組んでこちらを見ていた。

「味には自信がある。兄ちゃん達の話を聞きてぇと中の連中がうるせぇんだ。安くしてやるから食って行ってくれよ」

 僕としては断る理由は何もない。
 アリア達も特に断る理由もないのだろう。僕を見て軽く頷いた。

「はい。それでじゃあご馳走になります」

 そう言って僕がお店に入ると歓声が沸いた。


 ☆ ☆ ☆


 拍手と歓声の中、僕らは店の奥のテーブルへ案内された。
 店の内装はドワーフ族やホビット族に合わせたサイズだからか、僕からすると一回りも二回りも小さく感じる。天井がいつもより低いな。
 全体的に小さいのでリンにはちょうど良いサイズだ。逆にアリアは移動するだけでも四苦八苦している。入り口は屈まないと入れないし、イスも小さくて座りづらそうにしている。見た目は子供用のイスに座っている大人だ。
 
 注文する間も無く、質問攻めだった。
 ドワーフ族やホビット族は僕ら人族に対しフレンドーに接してくれた。思えば道端で会った人達も僕らを見たりしていたが、嫌悪感ではなく興味だった。
 この様子を見る限りではアルヴなら差別がなく、全ての種族が平等の扱いで暮らせるというのは本当なのかもしれないな。
 まだ様子は見る必要があるけど、治安やモンスターなどの脅威から身を守られる安全が保証されるなら、住んでみたいとは思える。

 次々と料理が運ばれる。誰かが歌い、踊り、気がつけばどんちゃん騒ぎだ。
 最初は引き気味だったサラも、気を良くして魔法を見せると歓声が上がった。
 フレイヤがそれに対抗し、店に迷惑をかけない程度に魔法合戦が始まり、アリアが飲み比べをし始めたりと完全に浮かれている。

 結果、浮かれ過ぎて初日目はそれだけで終わった。
 料理店を後にし、教えてもらった宿に到着したのだが……。

「まじか」

 僕は案内された部屋で、ベッドに座り頭を抱えていた。
 部屋の料金が予想よりもはるかに高かった。
 余裕を持って1ヶ月は滞在できるだけのお金を用意したつもりだったのだが、この金額ではもって2週間くらいだ。
 ほろ酔い気分だったサラも値段を見て酔いが覚めたのだろう
同じように頭を抱えていた。
 アリア、フレイヤ、リンは酔いと旅の疲れからかもう寝てしまっている。ベッドもドワーフ用だからアリアは凄く窮屈そうに丸まっていた。

「どうしようか……」

「明日、他の宿を探してみるしかないわね」

 もしかしたらここが高級ホテルだった可能性もあるから次の日に改めてホテルを探そうという運びになった。

 そして翌日。
 僕らは更に頭を抱えた。なんと泊まった宿は別に高級というわけではなかったからだ。むしろ安い方だ。
 問題はそれだけじゃない、アインには冒険者ギルドが存在しない。
 冒険者ギルドがないと言うことは、僕らの収入もない。
 どこか僕らを雇ってくれる所が無いかも探したが、そんな所が都合よくあるわけもなかった。

「どうしようか?」

「どうするって、私に言われても」

 空気がちょっと重い。
 確かに街の人たちは僕らに良くしてくれるが、いかんせん物価が高い。
 いくら住人が優しくて差別をしないと言っても、無銭で飲食や宿泊を許容はしないだろう。
 日も沈み始めた。昨日と同じ宿に泊まって、明日も仕事を探すか。それしか方法はないな。

 そう思って宿へ向かってる途中で、僕らの前に一人の少女が立ちはだかった。
 身長はリンよりも一回り小さいが、胸が大きい少女だ。
 夕陽に照らされたツインテールが赤く反射している。

 似たようなことは今日だけで何度もあった、僕らの話が聞きたいと言って寄ってくる人だろう。
 日没まではまだちょっとだけ時間があるし、話をするくらいなら構わないか。もしかしたらお礼に僕らが働ける場所がないか教えてくれる可能性もあるし。

「キミ達、宿に困ってるんだろ? うちに泊まっていかないか?」

 少女の口から出た言葉は、想定のものとは違っていた。
 困惑する僕らに対し、少女は御構い無しに言葉を続ける。

「そうだな。宿泊費はこれくらいでどうだ?」

 提示された金額は、宿に泊まる半額近い金額だ。
 金額的には魅力的ではあるが、信用して良いものか……

「とりあえず見てから決めるわ。それでも良いかしら?」

「あぁ、構わないよ。ついてきな」

 サラが見てから決めるとは言ったものの、正直僕らに選んでいる余裕は無い。
 相当変な場所じゃなければ良いけど。
 不安を感じながら、僕らは少女の後について行った。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...