学園の姫君と騎士の青春は御法度です

ROCA

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10_白百合の問い

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 カフェで小休止を経た後、次に4人は書店へ向かった。

 これも調理器具と同じく、事前に心桜が言っていた参考書を見るためだ。

 ただ、さすが学年1位といったところか、心桜の勉強内容に誰もついていけず、今は各々が好きなように書店を回っている。

 さすがに書店で不埒な行動をする人も少ないと思ったので、翼は気の向くままに色んな本を見て回った。

 その中でふと思い立って、恋愛の本を手に取ってみる。

 心桜の告白騒動は力技で無理やり流したが、今後ずっと無知なままでいいのかと思っていたためだ。

 偶然とはいえ良い機会だと翼が真剣に本を見ていると、横から「おっいたいた」と声をかけられた。

 知っている声なのでそちらを見れば、アリアが不思議そうな顔で翼の持っている本に目を落としている。

「小宮くんってこういうの好きなの?」
「い、いえ。何かお嬢様のお力になれないかなと」
「あ~そうだね。偉いと思うけど、小宮くんは興味ない感じ?」

 自分自身の色恋沙汰についてアリアに問われるも、正直あまりピンとこない。

 そういった経験が皆無過ぎるため、勉強が必要だと思って今本を読んでいるが、本の内容が翼にとっては背伸びしすぎている感じがしてならない。

 やっぱり自分には仕事しかなかったんだなと軽く反省しつつ、それをアリアに伝えた。

「おれには護衛がありますから」
「うわ真面目。お仕事が恋人ってやつ?」
「そこまで言いませんが、やりがいがあるので今はこれで十分ですね」
「充実してんだねぇ。なら今欲しい物とかもあんまないよね」
「?まぁ、特にはないですね」

 物欲の話と仕事の充実度に関連性を見いだせず、少し疑問を覚えたが、特に欲しいものもないのでさらりと答える。

 そんな翼の返答を予想していたのか、アリアの様子は変わらなかったが、こちらを覗き込んで問いかけてきた。

「興味本位で聞いてもいい?」
「はい、どうぞ」
「悪いことしちゃったし、ワタシとしては君を労えればなって思ったりするわけでして。だから何かやってほしいことあるかなって」
「やってほしいことですか?」
「ワタシにかかれば……美少女三人で叶えちゃうかもよぉ~?」
「え、えっと……?」

 蠱惑的な笑みを浮かべてアリアが尋ねるが、翼はすぐに思い浮かぶことが何もなかった。

 なんならこの買い物中も普段の教室でも下手に近づかないようにしているので、自分と3人がどうこうなど全く想像がつかず困惑することしかできない。

 するとアリアがにぱっと笑って、大袈裟に手を振った。

「冗談冗談。ワタシよりもご主人様だよね。やっぱり心桜ちゃんが頭抜けてるからさ」
「いえ、結井さんもお綺麗ですよ。それにすごくいい人だと思います」
「あはは。ありがとー」

 謙遜というか卑下にも近いことを言われ、その評価は正当ではないとアリアを褒める翼。

 ただアリアはお世辞を言われ慣れているのか、特に気にするそぶりもなく笑って返す。

 フラットな姿勢を貫く彼女を見て、これは今言ってもいいだろうと、翼は前々から思っていたことを口に出す。

「今更ですが、お嬢様の告白の件で手を回してくださってありがとうございました」

 しっかりと頭を下げて、言葉に感謝の念を込める翼。

 下手すれば心桜が傷つきかねない状況で、護衛である翼よりも早く心桜のために動いたアリアには、頭が上がらなかった。

 そして学校全体に影響を広げたその手腕には、ただただ脱帽するしかなく一言告げたかったのだ。

 そうやって特に気負わず頭を上げると、きょとんとした顔でアリアが目を丸くしていた。

「……制御できずにあんな目に遭わせちゃったのに?」
「結果上手くいきましたし、おれもお嬢様が最優先ですから。結井さんもそうでしょう?」
「そりゃあね」
「なら、やはり感謝しかないですよ。おれにできないことをされたあなたを尊敬します」
「そ、そう?ありがと……」

 戸惑いながらも返事をしたアリアの様子はなんだか忙しない。
 慣れた感じだった先ほどと違って、今度は目を合わせてもらえることもなく、そわそわと落ち着かないそぶりだ。

 ただすぐに持ち直したのか、 コホンとアリアがひとつ咳ばらいをした。

「ワタシはともかく。心桜ちゃんにこうしてほしいとかないの?」
「そ、そんなことは」
「ご主人様があれだけ超可愛いんだから、ない方がおかしいって。ね?」

 何か気に障ったのか、他人行儀な笑顔を張り付けてかなり押し気味に迫られている。

 その迫力にたじろいだ翼がぽろっと胸中を零す。

「……おこがましいというか」
「お、ある風だね」

 そうやって前置きすれば、逆に『逃さない』とさらに前のめりになってくるアリア。

 距離もどんどん近くなり、彼女の甘い香りにドギマギし、物理的にでも押し倒されそうな勢いなので、翼は観念したかのように目をそらしながら答えた。

「もっと笑ってもらえるように、安心させてあげたいな……とは思います、かね」
「……ほーん」

 今までアリアから聞くことのなかった低い声を受けてビクッと翼が跳ねる。

 不安に思って彼女の顔を見れば、無感情で乾いた眼差しが翼に刺さっている。

 何気なしにいった言葉でアリアを不快にさせてしまったかと、翼は焦って言葉を撤回する。

「す、すみません。何様だって話ですよね。今のは忘れ」
「じゃあ心桜ちゃんの笑顔がいいってこと?」

 翼の否定など無視するかのように食い下がるアリア。

 もう何があっても誤魔化せない威圧感が彼女からひしひしと感じられるので、頷きながら素直に答える。

「まぁ、そうですが……でも心から笑ってほしいので。おれでは無理かな、と」
「そんなことはないと思うけどなぁ」
「そもそも、おれよりもはるかに適任がいますし」
「適任?」
「結井さんのことですよ」
「ワ、ワタシ?」

  思いもよらなかったとでも言いたげに自分を指さすアリアを見て、翼もここまで来たら全部言ってしまえと、照れながらも感謝と尊敬を込めて微笑む。

「あなたのような人がいたら、きっと毎日笑って過ごせると思いますから」

 続けて「お願いします」と頭を下げる翼。

 心桜を自由にさせることもできず、身の危険を感じさせるような生活でも、彼女の日常に笑顔があるのはアリアのお陰だと翼は思っていた。

 自分は日常生活のサポートで何もできていないので、アリアの存在が大きいと痛感しているからこそ、頭を下げることになんの躊躇いもなかった。

 そうやって思っていたことを全て出した翼だったが、当のアリアからは全く反応がない。

 疑問に思って頭を上げて彼女を見ると、彼女は翼ではなく天井の方を向いて額を押さえていた。

「……こりゃあ将来とんでもないことになりそうですな」
「え?」

 呟いたような小さな声が微かに聞こえて聞き返す翼だが、こちらに返事をするつもりがないのか、いつもの調子に戻ったアリアによって笑ってはぐらかされる。

「こっちの話~。じゃあ戻ろうか。あ、その本は小宮くんには必要ないと思うよ」
「そ、そうですか」

 恋愛事情だとそんなに自分はダメかと思いながら、翼は手元にあった恋愛本を元に戻した。
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