学園の姫君と騎士の青春は御法度です

ROCA

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11_黒薔薇の問い

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 アリアと話したあと、凛乃と合流して心桜を探していると、ちょうど会計を終えたらしく、心桜は本を手にレジの出口から出てきた。

 翼は彼女に近づいて、それとなく持っている本を受け取り、ショッピング再開とばかりに3人が歩き始めた数歩後ろをついていく。

 書店を出たところで、いつものようにアリアと心桜が話し始めた。

「いやぁさすがに手ごわいね。ミイラ取りがミイラになるとこだったよ」
「え?アリアさんは欲しいものがあるんですか?」
「そうじゃないけどそれでいいや。詳しいことは後でね」

 ?と小首をかしげる心桜に口角を上げるアリア。
 ただアリアはそれ以上話す気がないのか、話題をそらすように凛乃へ手を合わせる。

「こうなったらやっぱり凛乃ちゃんにもお願いしようかな」
「お前が無理だったなら私でも同じだと思うが」
「ものは試しだよ。心桜ちゃん好き好き人間同士だと平行線になっちゃった」
「す、好き好きっ!?」
「凛乃ちゃんなら立場違うからワンチャンあるかなーって」
「ああ、そういうことか」

 理解したように凛乃が首を縦に振ると、アリアは任せたとウインクする。
 その横で「うぅ……」と心桜が照れているのを気にも留めず会話を続けているのが上級者すぎる。

 翼はというと女子トークに聞き耳を立てるのも気まずいので、話半分で流しながら周りを見渡して目を光らせていた。
 それに何の話か分からず、自分に振られるはずもないと油断していた。

 ところが、アリアが振り返ってニヤリと笑いながら翼に声をかける。

「よし、小宮くん小宮くん。ワタシたち下着を見てくるからそこで待っててくれる?」
「わかりました」
「それともぉ~……ついてくる?」
「い、行きません!!」
「あはは!焦りすぎだよ~ん」

 いたずらっ子の表情で手を振るアリアと、それについていく2人を見送りながら、翼はうるさい心臓を黙らせるためにソファに座る。

 特にやることもない上に、彼女たちが下着を選んでいるところなど見れるわけがないので、しばらくスマホを触って時間を潰すことにした。

 すると、一緒に行ったはずの凛乃が、気づけば隣に腰を下ろしていた。
 翼が驚いていると、彼女は間を置かずにぶっきらぼうな声で話しかけてくる。

「お前、欲しいものとかないか」
「えっ」

 まさか凛乃にそんなことを聞かれるとは思っておらず、咄嗟に言葉が出なかった。
 アリアにもうまく答えられなかった同じ話題を、真正面から尋ねてくる凛乃に、翼は動揺を隠せない。

 状況をうまく飲み込めないまま、口ごもりつつもなんとか答えを返した。

「ない、です、けど」
「そうか」

 凛乃は表情を変えずに、それだけ言って黙ってしまった。

 そんな彼女にどう反応すればいいのか分からず、翼は戸惑いながら凛乃から目を逸らし、視線を前に向けた。

(一体なんなんだ……?)

 こうも立て続けに同じようなことを聞かれると、さすがに翼も何か裏があるのではと思ってしまう。

 アリアの建前はなんとなく理解できるが、凛乃が自分に興味を持っているとは到底思えず、どういった意図があるのか測りかねていた。

 ただただ流れる静寂の間に、気まずさから汗がにじみ出そうになっていると、ふいに凛乃が続けて尋ねてくる。

「悩みはないのか」
「悩み、ですか?」
「ああ」

 少し方向性の違う問いかけに、翼は思考を巡らせる。

 物でもやってほしいことでもなく、自分自身の悩みを聞かれれば、ないと答えるものの方が少ないだろう。

 襲撃について、主人について、小宮家の鍛錬について――どれも護衛としての立場に起因するものばかりだが、総じてまとめたことを凛乃へ話すことにした。

「もっと強くなりたい……ですね」
「……今でも十分だろう」
「いえまだまだですよ。至らなさを痛感します」
「告白の件でか?」
「それとは別で……小宮家の鍛錬なのであまり言えなくて、すみません」

 翼が視線を落としながら答えれば、「なるほどな」と凛乃もそれ以上詮索してこなかった。

 協力者といえど、特殊な事情のある小宮の鍛錬については公共の場では言うものではないので伏せておく。
 話せば気分を害す懸念があるので、彼女が詳細を聞いてこなかったのがありがたかった。

 ただ、その鍛錬で常々言われていることを思い出し、自ずと悩みが連想されたので、話題を逸らすためにも「そういえば」と、翼が凛乃に声をかける。

「お聞きしてもいいですか?」
「な、なんだ……?」

 そう一言告げると、凛乃が急にそわそわと落ち着かない様子で、何かを期待するかのようにこちらへ体を向けてきた。

 その反応にやや疑問を覚えつつも、どうやら真剣に答えてくれそうだと察し、翼はそっと問いかけてみる。

「どうやったらメンタルが強くなるのでしょうか」
「……メンタル?」
「鷹野さんはすごく芯の通った方だと思いますので」

 そう尋ねた途端、凛乃はわかりやすく落胆の色を浮かべた。

 彼女の表情の変化があまりにもはっきりしていて、何かの期待を外してしまったと思い、翼はどう反応すべきか迷ってしまう。

 ただそんな翼の様子を気にせず、凛乃はいつも通りの調子で口を開いた。

「私がそう見えるのなら、捨てるものを選んでいるだけだ」
「……捨てるもの」
「何が自分にとって1番大事で、何がいらないのか。それを迷わないことに尽きる」

 はっきりと言い切る凛乃を見て、やはりこの人は強い方だと翼は再認識する。

 その考えには一片の異論もなく、するっと胸の中に落ちた。
 思わず翼は「なるほど」と首肯し、凛乃の言葉の続きを静かに待った。

「お前の質問の意図は分からんが、答えは出ているはずだ」

 今更迷うまでもないだろうと覚悟を促すように、真っ直ぐな瞳で見つめられる。

 何もかもを見透かしているかのようなその瞳を前に、思わず翼は身を正し、凛乃に向かって誓うように告げる。

「はい。お嬢様を命にかえても守ります」

 揺るがない誓いを迷うことなく言い切る翼。

 凛乃は翼のその言葉を受けても表情を変えることはなく、意志の固さを試すように瞳の奥を覗いてくる。

 そうやってお互い目をそらさない状態で、彼女が翼の誓いを反芻する。

「……命にかえても、か」

 そう呟いたのちに凛乃はすっと立ち上がると、そのまま2人のもとへと戻っていく。

 翼はその背中を見つめながら、そっと心に決意を刻んだ。
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