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「何をしている!」

荒い息も憤怒の形相も隠していないコンラートが扉の奥から現れた時、あまりの安心感に駆け寄るでも抱きつくでもなく、私はその場にへなへなとへたり込んでしまった。
そして私の髪を掴んだままのアディール様もいきなり過ぎるヒーロー登場に驚いて固まったまま。

「何をしているかと聞いているんだ」

怒りをそのまま足取りに乗せたコンラートが近付いてきてアディール様の手を乱暴に払って私の髪を自由にした。

「ーーー殿下」

振り絞るような声を出したアディール様を一顧だにせず、ひざまづいたコンラートが私の顔を覗き込んだけれど、そこにはもう1ミリの怒りもなくて。労りと優しさだけが満ちた瞳があった。

「ラーラ。俺は間に合ったか?」

「大丈夫か」とも「平気か」とも違うその言葉はきっと、すぐに強がってしまう私にだから。
ずっと私を知っていてくれる、私を分かってくれているコンラートだからこその言葉。

「ええ、間に合ったわ。ありがとう」

素直に答えると彼はふぅっと大きく息を吐いた。

「王宮に戻る途中、アディールが君に会いに行ったと知り合い・・・・が教えてくれたんだ。そこから急いで帰ってきたのだけど、遅くなってすまない。いや、ラーラを一人にするべきじゃなかった。俺の判断ミスで怖い思いをさせてすまない」

ため息と一緒に吐き出された言葉にコンラートを見ると、その顔にはいくつか汗が粒となってくっついている。きっと可能な限り急いで帰って来てくれたのだ。

「そんなこと……それより、帰ってきてくれてありがとう。凄く急いでくれたんでしょう?」

「あぁ。実は知り合いが乗っていた馬を借りてきた。アルノーは馬車を引き受けてくれたから、もう少ししたら帰ってーーーきたみたいだな」

コンラートが右の口角を上げた時、大きな足音をさせながらアルノーが走り込んできた。

「姉さん!」

大抵のことでは焦らないしほとんど大きな声をあげたこともないアルノーの、珍しく焦った様子にどれだけ心配させたかに思い至ったと同時に、どれだけの危機だったのかを認識した。途端、身体が震えだす。

「ラーラ?」

「ご……めんな、さい。何だか、今になって……こんな、震えるなんて……」

さっきのアディール様はまるで知らない人だった。
そんな人と二人きりっで会って、もしかしたら取り返しのつかない事態になった可能性もあるんじゃない?だって現にアディール様は私を抱きしめるように引き寄せて……。

改めて思い出して身体がまた震えだす。怖かった。触れられたくなかった。

両手で自分を抱きしめるようにした私は、それに気付いたコンラートによって急に抱き抱えられた。

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