オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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 プレゼントはとても嬉しいが、これを装着するかはちょっと気後れ……気後れか? うーん、ちょっと躊躇ってしまう。
 あまり喜んでいない俺がいるのを知ると、朝永は目に見えて元気がなくなった。これは俺が折れるしかないのだろうか。
 ええーやだな。顔には出さないでおくけど。今の首輪で十分事足りるらしいし。それに高かったし。

 妥協案として、部屋に飾っておくね、綺麗だし。と言ってみたらさらに微妙な顔をされた。
 スーツも難なく着こなしておしゃれに見えるのに、どこかセンスがズレているのだろうか。いや、朝永は一般的なアルファの考え方を持っていて、実は俺がズレているのか。普通が迷子だ。

 だいたい、そこまでして俺の首に興味ある人なんているとも思えない。朝永くらいじゃないのか、俺の項に異常な執着ある人なんて。
 他のアルファにしてみたら鼻で笑われる対象にしかならないんじゃあ……。

 いや、こんなことに答えは無さそうだ。考えるだけむだかもしれない。

「解錠アプリも鍵も俺が持っているでいい?」
「あー、……うん」
「……そんなに気に入らなかった?」
「そんなことはないけど、重たい愛だなと……思って……」

 一瞬の静けさが訪れ、やばい、余計なことを言ったかなと焦っていると、後ろから爆笑が聞こえて驚いた。朝永がそんな声で笑うなんて思ってもみなかったし、それほど面白いことを言った自覚もなかった。

「面白い! そうだね、重たいか! あははははっ」
「いや、面白くは……」
「俺の愛ね。ふふふ、そう、重いね。重いんだよ」

 何が楽しいのか、同じことを反復しながら笑う朝永に、ちょっと怖くなってくる。朝永が分からなすぎて。

「どんどん重くなっている自覚はあるよ、うん。大丈夫。安心して、夜詩人」
「いや、なんの安心かちょっと分かんない」
「……そうだな。俺が夜詩人を好きすぎて愛情過多になっても、全部受け止めてくれる?」
「えっ!」
「ん?」

 初めてすきって言った。
 初めて好きって聞いた!
 初めて好きって!!!
 しかも会話の流れでさらっと何でもないように言うなんてヒドイ! それ大事なやつなのに。

 くっそう、俺も言いたい。
 もぞもぞと腕の中で体を移動させ、横向きになって、顔だけ朝永に向けた。
 薄暗いこの場で、緊急時用の小さな照明が朝永を照らしていた。
 ただ、睫毛が影を作り、そこには黒く光のない瞳が。吸い込まれるような黒さに捕らわれて逸らせない。

「と、朝永が好きなんだ」
「うん」
「だ、大好きなんだ」

 勢いで言うものの、恥ずかしさが腹の底から溢れる。心臓がビョンビョコ騒いでいて呼吸もおかしい。でも朝永は真剣に聞いてくれた。
  真っ黒な優しい瞳を見つめていたら、ゆっくりと唇が合わさってきて。それも少しだけ。離れていく唇を名残惜しく見つめた。
 好きすぎて頭おかしくなりそうだ。
 朝永も俺を好きだというのはなんとなく分かっていた。この首輪なんて独占欲むき出しだし。いつから俺を好きでいてくれたんだろう。

「あの……、前にも聞いたかもなんだけど。えーと、男同士だけどさ、俺は朝永を好きなわけで。やっぱりオメガだからアルファの朝永をこんなに好きなのかな?」
「どうなんだろう。俺としてはオメガという性別に惹かれるのが分かるから、多少はあると思うけど」
「それを言われると俺ではなくてオメガだから、って聞こえるな」
「夜詩人の質問もそういうことじゃないの?」
「うーん、分からない。でも、朝永のことはとても好き」
「ふふ」

 朝永からも「好き」って言葉を期待したのに、返ってきたのは大量のキス。
 あまり口に出して気持ちを言うタイプじゃないのかな。まあいいや。誤魔化されてやる。
 そして大事なことを忘れていた。

「そういや朝永の誕生日はいつなんだよ」
「三月二十九日」
「おっそっ」
「そうなんだよね。車の免許も結局誰より遅く取ることになる」

 出会った頃の朝永は、十五歳成り立てってことか。ついこの間まで十四歳?
 どうりで顔に幼さが残っていると思ったら。幼くて当たり前なのか。そしてアルファにしては身長がそれほどでもないのも、そういうことなのか。

「だから結婚も卒業してからしばらくしてやっとできるんだよね。拷問かな」
「まだ十五歳と半年くらいなのに何その落ち着き方。すでに何周目かしてんの? なんで? おかしくない?」
「何周目? まぁ、落ち着いているのは、勉強以外の様々な教育をさせられてきたからじゃないかな。これについては両親にありがたいと思っているよ。いつも冷静でありたいし。それより、結婚の話題出してみてたけどさらっとかわされたね」
「結婚?」
「結婚」

 まったく現実味のない話題だったから素通りしていた。朝永はからかう訳でもなく、真面目な視線を寄越す。
 結婚て父母のあれだよな。現実味がない言葉だ。

「んー、よく分からない、のが、本音。かな」
「まあそうだよね。俺もそう」
「えー朝永が言ったのに」
「うん。ね」

 今度はニヤニヤしているから俺で遊んでいるとみた。
 番だの結婚だの、まだよく分かんないけど、今は朝永が大好きなんだ。これだけじゃダメなんだろうか。







 あの夏はなんだったのかと思うほど、秋は穏やかに過ぎていった。申し訳ないがプレゼントの首輪はしていない。時々しょんぼりと入学当時からしている首輪を見られるが知らないふりをしている。朝永ごめん。ちゃんと部屋に飾ってるから許して欲しい。朝永から話題に出してこないかぎり自分からは言わないけど。


 そして十二月になればまた発情期か、とちょっとげんなりしてしまうが、今度は前もって朝永の私物をいただいておこうと決めた。



「これ一個、桁ずれているよ」
「あ、本当だ。ありがとう」

 急いでカーソルを合わせて金額を打ち込みし直す。

「請求もメールで送って」
「うん」

 合同実践。
 朝永は堂々と俺の横に椅子を持ってきて俺の仕事を手伝ってくれている。
 まあ、うちとしか取引しなくなったというのも大きい。この授業では、取引先がうちだけ=営業先もうちだけということだ。
 先生は取引すべて自由にしてくれているから、営業側のやりたい放題ということになる。
 椋地も朝永となら気軽なもので、三人仲良く話をしている。
 が、その間、背中から焼け焦げるような熱視線を浴びることもあった。相手はもちろん朝永の相方である2番。
 確かに自分の相方が他の会社に入り浸って帰ってこなかったら嫌だと思う。朝永に帰ることを促しても無視されるので好きにさせることにした。俺のせいではないので俺を睨むのを止めて欲しい。言えないけど。

「ねえ、多分そろそろ発情期くるかもなんだけど、朝永の服が欲しいなーって思ってるんだけど」
「服? いいよ。どんなのがいい?」
「いいの!? できれば洗濯まえっ」

 喜びに口が勝手に開いたが、咄嗟にその口を自分の手で塞いだ。
 あぶねっ。勢いで洗濯前の下着って言いそうになった。まるっきり変態発言だ。前回はカーディガンでも十分だったから、今回もカーディガンとかいいか。

「ん? 洗濯前の何?」
「えっと、前みたいにカーディガンとか……」
「洗濯前のね。分かった。十二月入ったら洗濯前の脱ぎたて渡すよ」
「あ、ありがと」

 あまり洗濯前を強調しないでもらいたい。隣の椋地は聞いていないふりをしてくれているけど俺が居た堪れない。
 朝永は嬉しそうにニコニコしているから、引いてはいないのだろう。ちょっとほっとした。
 そんな他意のない、少しだけ子供っぽさすら感じる笑顔の朝永が顔を寄せて「知っている? 発情期はオメガさえよければアルファもあの隔離部屋に入れるの。発情を共にできるんだよ」と表情とはかけ離れた艶の含みまくった声で囁いてきた。
 左耳が孕みそうで、思わずその耳を両手で覆った。

「はは、顔真っ赤! かわいい! 本当にかわいい!」

 大声を出して笑う朝永にあわあわと周りを見てしまった。恥ずかしすぎる朝永の言葉。誰も聞いていませんようにと祈ったが、ほとんどの生徒が俺達に注目をしていた。隣にいた、あの椋地ですら驚いた表情で俺を見ている。
 注目されるのは嫌いだ。ましてや「かわいい」なんて言われていて。自分じゃどう見てもかわいい部類でもないから、ただただ恥ずかしい。
 ギリギリと歯をくいしばり、恥ずかしさとわけの分からない苛立ちで朝永の脛を蹴った。
 のに、少し顔をしかめただけで朝永は優しい笑顔になって「ごめんごめん」と俺を宥めにかかる。くっそう、この余裕さも今は苛立つだけだ。
 下唇を噛みながら、忌々しく朝永を睨みつけてやった。

「お詫びに好きな服選びに来てよ。それを一日着ておくことにするよ」
「え、朝永の部屋?」
「うん。申請だすし。今度は椋地もいるけど我慢してね」
「人を邪魔者みたいに言わないでくれる。俺の部屋でもあるんだけど」

 パソコンを見ながら、こちらの会話に嵌ってきた椋地。そうだ、今度は部屋に椋地もいるのか。でも、俺も椋地と普通の話をして見たいし、料理人を目指すというその腕前の料理を食べてみたい。

「今度お邪魔させてよ、椋地。なんなら椋地のご飯も食」
「ダーメ」
「え」

 なんと却下を出したのは朝永で。

「椋地は俺専用なの。14番には俺の数少ないレパートリーの中からご馳走するから」
「え、えー……」

 なにその朝永専用とか。ちょっと嫉妬しそう。

「安心しなよ。北原は作れるものこそ少ないけど、料理の基礎はしっかりしているから上手だよ」

 その心配はしてないけど、はあ、そうですか。
 同室者同士の友情なのだろうか。俺に入られない何かがあるのか。
 と言っても相手は椋地だし。間違っても朝永と椋地がどうこうなり得ないだろう。
 ニ人はアレなの? なんて口に出したら二人から全否定くらいそうだし。
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