22 / 72
18
しおりを挟むプレゼントはとても嬉しいが、これを装着するかはちょっと気後れ……気後れか? うーん、ちょっと躊躇ってしまう。
あまり喜んでいない俺がいるのを知ると、朝永は目に見えて元気がなくなった。これは俺が折れるしかないのだろうか。
ええーやだな。顔には出さないでおくけど。今の首輪で十分事足りるらしいし。それに高かったし。
妥協案として、部屋に飾っておくね、綺麗だし。と言ってみたらさらに微妙な顔をされた。
スーツも難なく着こなしておしゃれに見えるのに、どこかセンスがズレているのだろうか。いや、朝永は一般的なアルファの考え方を持っていて、実は俺がズレているのか。普通が迷子だ。
だいたい、そこまでして俺の首に興味ある人なんているとも思えない。朝永くらいじゃないのか、俺の項に異常な執着ある人なんて。
他のアルファにしてみたら鼻で笑われる対象にしかならないんじゃあ……。
いや、こんなことに答えは無さそうだ。考えるだけむだかもしれない。
「解錠アプリも鍵も俺が持っているでいい?」
「あー、……うん」
「……そんなに気に入らなかった?」
「そんなことはないけど、重たい愛だなと……思って……」
一瞬の静けさが訪れ、やばい、余計なことを言ったかなと焦っていると、後ろから爆笑が聞こえて驚いた。朝永がそんな声で笑うなんて思ってもみなかったし、それほど面白いことを言った自覚もなかった。
「面白い! そうだね、重たいか! あははははっ」
「いや、面白くは……」
「俺の愛ね。ふふふ、そう、重いね。重いんだよ」
何が楽しいのか、同じことを反復しながら笑う朝永に、ちょっと怖くなってくる。朝永が分からなすぎて。
「どんどん重くなっている自覚はあるよ、うん。大丈夫。安心して、夜詩人」
「いや、なんの安心かちょっと分かんない」
「……そうだな。俺が夜詩人を好きすぎて愛情過多になっても、全部受け止めてくれる?」
「えっ!」
「ん?」
初めてすきって言った。
初めて好きって聞いた!
初めて好きって!!!
しかも会話の流れでさらっと何でもないように言うなんてヒドイ! それ大事なやつなのに。
くっそう、俺も言いたい。
もぞもぞと腕の中で体を移動させ、横向きになって、顔だけ朝永に向けた。
薄暗いこの場で、緊急時用の小さな照明が朝永を照らしていた。
ただ、睫毛が影を作り、そこには黒く光のない瞳が。吸い込まれるような黒さに捕らわれて逸らせない。
「と、朝永が好きなんだ」
「うん」
「だ、大好きなんだ」
勢いで言うものの、恥ずかしさが腹の底から溢れる。心臓がビョンビョコ騒いでいて呼吸もおかしい。でも朝永は真剣に聞いてくれた。
真っ黒な優しい瞳を見つめていたら、ゆっくりと唇が合わさってきて。それも少しだけ。離れていく唇を名残惜しく見つめた。
好きすぎて頭おかしくなりそうだ。
朝永も俺を好きだというのはなんとなく分かっていた。この首輪なんて独占欲むき出しだし。いつから俺を好きでいてくれたんだろう。
「あの……、前にも聞いたかもなんだけど。えーと、男同士だけどさ、俺は朝永を好きなわけで。やっぱりオメガだからアルファの朝永をこんなに好きなのかな?」
「どうなんだろう。俺としてはオメガという性別に惹かれるのが分かるから、多少はあると思うけど」
「それを言われると俺ではなくてオメガだから、って聞こえるな」
「夜詩人の質問もそういうことじゃないの?」
「うーん、分からない。でも、朝永のことはとても好き」
「ふふ」
朝永からも「好き」って言葉を期待したのに、返ってきたのは大量のキス。
あまり口に出して気持ちを言うタイプじゃないのかな。まあいいや。誤魔化されてやる。
そして大事なことを忘れていた。
「そういや朝永の誕生日はいつなんだよ」
「三月二十九日」
「おっそっ」
「そうなんだよね。車の免許も結局誰より遅く取ることになる」
出会った頃の朝永は、十五歳成り立てってことか。ついこの間まで十四歳?
どうりで顔に幼さが残っていると思ったら。幼くて当たり前なのか。そしてアルファにしては身長がそれほどでもないのも、そういうことなのか。
「だから結婚も卒業してからしばらくしてやっとできるんだよね。拷問かな」
「まだ十五歳と半年くらいなのに何その落ち着き方。すでに何周目かしてんの? なんで? おかしくない?」
「何周目? まぁ、落ち着いているのは、勉強以外の様々な教育をさせられてきたからじゃないかな。これについては両親にありがたいと思っているよ。いつも冷静でありたいし。それより、結婚の話題出してみてたけどさらっとかわされたね」
「結婚?」
「結婚」
まったく現実味のない話題だったから素通りしていた。朝永はからかう訳でもなく、真面目な視線を寄越す。
結婚て父母のあれだよな。現実味がない言葉だ。
「んー、よく分からない、のが、本音。かな」
「まあそうだよね。俺もそう」
「えー朝永が言ったのに」
「うん。ね」
今度はニヤニヤしているから俺で遊んでいるとみた。
番だの結婚だの、まだよく分かんないけど、今は朝永が大好きなんだ。これだけじゃダメなんだろうか。
あの夏はなんだったのかと思うほど、秋は穏やかに過ぎていった。申し訳ないがプレゼントの首輪はしていない。時々しょんぼりと入学当時からしている首輪を見られるが知らないふりをしている。朝永ごめん。ちゃんと部屋に飾ってるから許して欲しい。朝永から話題に出してこないかぎり自分からは言わないけど。
そして十二月になればまた発情期か、とちょっとげんなりしてしまうが、今度は前もって朝永の私物をいただいておこうと決めた。
「これ一個、桁ずれているよ」
「あ、本当だ。ありがとう」
急いでカーソルを合わせて金額を打ち込みし直す。
「請求もメールで送って」
「うん」
合同実践。
朝永は堂々と俺の横に椅子を持ってきて俺の仕事を手伝ってくれている。
まあ、うちとしか取引しなくなったというのも大きい。この授業では、取引先がうちだけ=営業先もうちだけということだ。
先生は取引すべて自由にしてくれているから、営業側のやりたい放題ということになる。
椋地も朝永となら気軽なもので、三人仲良く話をしている。
が、その間、背中から焼け焦げるような熱視線を浴びることもあった。相手はもちろん朝永の相方である2番。
確かに自分の相方が他の会社に入り浸って帰ってこなかったら嫌だと思う。朝永に帰ることを促しても無視されるので好きにさせることにした。俺のせいではないので俺を睨むのを止めて欲しい。言えないけど。
「ねえ、多分そろそろ発情期くるかもなんだけど、朝永の服が欲しいなーって思ってるんだけど」
「服? いいよ。どんなのがいい?」
「いいの!? できれば洗濯まえっ」
喜びに口が勝手に開いたが、咄嗟にその口を自分の手で塞いだ。
あぶねっ。勢いで洗濯前の下着って言いそうになった。まるっきり変態発言だ。前回はカーディガンでも十分だったから、今回もカーディガンとかいいか。
「ん? 洗濯前の何?」
「えっと、前みたいにカーディガンとか……」
「洗濯前のね。分かった。十二月入ったら洗濯前の脱ぎたて渡すよ」
「あ、ありがと」
あまり洗濯前を強調しないでもらいたい。隣の椋地は聞いていないふりをしてくれているけど俺が居た堪れない。
朝永は嬉しそうにニコニコしているから、引いてはいないのだろう。ちょっとほっとした。
そんな他意のない、少しだけ子供っぽさすら感じる笑顔の朝永が顔を寄せて「知っている? 発情期はオメガさえよければアルファもあの隔離部屋に入れるの。発情を共にできるんだよ」と表情とはかけ離れた艶の含みまくった声で囁いてきた。
左耳が孕みそうで、思わずその耳を両手で覆った。
「はは、顔真っ赤! かわいい! 本当にかわいい!」
大声を出して笑う朝永にあわあわと周りを見てしまった。恥ずかしすぎる朝永の言葉。誰も聞いていませんようにと祈ったが、ほとんどの生徒が俺達に注目をしていた。隣にいた、あの椋地ですら驚いた表情で俺を見ている。
注目されるのは嫌いだ。ましてや「かわいい」なんて言われていて。自分じゃどう見てもかわいい部類でもないから、ただただ恥ずかしい。
ギリギリと歯をくいしばり、恥ずかしさとわけの分からない苛立ちで朝永の脛を蹴った。
のに、少し顔をしかめただけで朝永は優しい笑顔になって「ごめんごめん」と俺を宥めにかかる。くっそう、この余裕さも今は苛立つだけだ。
下唇を噛みながら、忌々しく朝永を睨みつけてやった。
「お詫びに好きな服選びに来てよ。それを一日着ておくことにするよ」
「え、朝永の部屋?」
「うん。申請だすし。今度は椋地もいるけど我慢してね」
「人を邪魔者みたいに言わないでくれる。俺の部屋でもあるんだけど」
パソコンを見ながら、こちらの会話に嵌ってきた椋地。そうだ、今度は部屋に椋地もいるのか。でも、俺も椋地と普通の話をして見たいし、料理人を目指すというその腕前の料理を食べてみたい。
「今度お邪魔させてよ、椋地。なんなら椋地のご飯も食」
「ダーメ」
「え」
なんと却下を出したのは朝永で。
「椋地は俺専用なの。14番には俺の数少ないレパートリーの中からご馳走するから」
「え、えー……」
なにその朝永専用とか。ちょっと嫉妬しそう。
「安心しなよ。北原は作れるものこそ少ないけど、料理の基礎はしっかりしているから上手だよ」
その心配はしてないけど、はあ、そうですか。
同室者同士の友情なのだろうか。俺に入られない何かがあるのか。
と言っても相手は椋地だし。間違っても朝永と椋地がどうこうなり得ないだろう。
ニ人はアレなの? なんて口に出したら二人から全否定くらいそうだし。
61
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ
MITARASI_
BL
I
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
Ⅱ
高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。
別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。
未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。
恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。
そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。
過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。
不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。
それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。
高校編のその先を描く大学生活編。
選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。
続編執筆中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる