竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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42首目に潜む待ち人 〜竹一族の記憶(三)〜

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 出席日数足りてるわよね? と姉さんに聞かれた瞬間、何を言いたいか理解できた。しかし、だからと言ってここまで遠出するとは聞いていない。
「・・・・本当、姉さんって行動力の化身だよな」
 空港の滑走路を見つめつつ、俺は思わずそう言った。ついさっきまで家にいたはずなんだが、どうして東北にいるんだろう。時期が時期で、しかも雨が降っているから、正直景色が綺麗とは言えない。観光には向かなかった。
 姉さんは回収したスーツケースからシールを剥がしており、剥がし終えるなり俺に向き直って口を開いた。
「依頼は素早くこなすに限るでしょう?」
「それはそうだけど、半分歌枕に行きたかったからだよな」
「あら、バレた?」
 小首を傾げる姉さんに、俺は呆れ混じりで答える。
「バレないわけないじゃん」
 姉さんは、俺が物心ついた時から和歌が好きだった。百人一首を始めとして古代の万葉集や中世及び近世、近代の和歌にまでいつのまにか知識を広げ、大学では経営等の勉強には目もくれず和歌を専攻した。
 暇さえあれば全国各地の歌枕に旅行へ行き、帰るなり和歌の蘊蓄を語るのは当たり前。除霊の依頼先でも絶対に和歌に関する何かがないか念入りに調べ、時間があれば行き、無ければ帰って行く予定を立てる。筋金入りとはこのことだろう。
「で、ここからそう遠くないところにあるんだよな? 幽霊を視たっていう、歌枕。末の松山」
「まあ、すぐに出て来るなんて。いい記憶力ね、四音」
「数えきれないほど聞かされりゃ、誰だって覚えるよ。確か、百人一首にも出て来るんだよな?」
 和歌に疎い俺でも、流石に百人一首は知っている。姉さんの本を読んだ時、恋歌の多さに驚いたが、昔も今も人の考えることは変わらないのだと、不思議な安心を覚えたものだ。また、歌枕が詠まれた和歌も多く、今回の“末の松山”は、まさにそれだ。
 俺が尋ねると、姉さんは嬉しそうに笑った。普段は父さんと同じく凛々しいの一言が似合うのに、こういう時は母が持つ柔らかな雰囲気が垣間見える。
「そうよ。小倉百人一首の42首目。清原元輔きよはらのもとすけの作ーー」
 そう前置きして、姉さんは流れるように和歌を続けた。


契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
(約束したのにね。お互いに泣いて涙に濡れた着物の袖を絞りながら。末の松山が波を越すことなんてあり得ないように、決して心変わりはしないと)


 1000年前に誕生した、たった1首の和歌と、和歌に詠まれた歌枕。
 誰が想像しただろう。そんな、たった1首に詠まれた歌枕に、大きな秘密があるなんて。
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