52 / 127
42首目に潜む待ち人 〜竹一族の記憶(三)〜
四
しおりを挟む
「“客人”の言葉に嘘はなかったわ。あれは間違いなく幽霊・・・・。それも、恐らく1000年ほどはこの場所に留まっている、ね」
「やっぱりそうなのか。でも、今回以前にここで幽霊を視たからどうにかしてほしいって依頼は来たことないよな? この周辺は住宅や店、ホテルもあるし、人通りは少なくなかったはずだ。誰も見たことがなかったなんて、変じゃねえか?」
「そうね。だけど、突然現れたにしては都合が良すぎる。考えられるのは、現れるのに条件があるってこと。日時や天候とか、そういったものでね」
日時や天候、と俺は復唱した。もしそうだとすれば、“客人”と姉さんが視た時、何かしらの条件を満たしていたことになる。だけど、そう考えたら結構簡単じゃないか?
夕方で、雨が降っている。加えて雨のために霧が出ていて夕陽が見えにくく、末の松山だけが目立つーー。こんな状況、いつでもあり得そうだけどな。
「以前、普段幽霊の類を視れない人が視ることができるのは、その者たちと波長が合うからって話したわよね?」
時々そういうことがあるのだと、姉さんは言っていた。そんな話が、大勢の中の心霊体験と呼ばれるのだとも。
「ああ。“客人”もそうなのか?」
「恐らく。ただ、それだけで家族全員が同じものを見たのは少し都合がいい話だから、幽霊が現世に姿を見せることを強く望んだ可能性がある。いわば、地縛霊に近い存在なのよ」
「地縛霊・・・・。でもそれって、死んだ場所とかに留まるんだよな? 幽霊はここで死んで留まってるのか? 聴こえた声から推測するに、ここで誰かを待っていたようだけど」
姉さんは曖昧に頷いた。無理もない。今の時点では、あまりに情報が少なすぎる。ただ、長い歴史の中で、この場所で死んだ人間がいないなんてことは言えないだろう。
「それに、あの和歌・・・・。あれを口ずさんだということは、幽霊はあの和歌を知っていたことになる。死後ずっとここへ留まっていたなら、その過程で見たとも取れるけど、もしかしたら、気持ちを代弁してもらった本人・・・・? いいえ、違うかもしれないわね。幽霊は待っている誰かが死んでいることを知っていた。女性に裏切られるような形で終わった恋のはずなのに、そんなことになるかしら」
「よりを戻したのかもしれないぜ? 当時そんなことがあったのかはわからねえけど」
それもあり得る話ね、と言いながら姉さんは松に触れた。先ほど幽霊が触れていた場所だ。特に異常は見当たらなかったが、同じように触れると、酷く冷たかった。
「冷気は幽霊の存在を示す根拠の1つ・・・・。ここまではっきり出ているなら、やっぱり地縛霊じみた存在ね」
「早いところ片をつけた方がいいってことだな」
「ええ。取り敢えず、ホテルに戻りましょう。話し合いの続きはそこで」
ホテルに戻った俺たちは、推測を交わしつつ、周辺住民への聞き込みなどをする必要があるという結論に達した。もし過去に同じものを見た人間がいれば、違う視点で何かが見えるかもしれなかった。俺たちは周辺の住宅を洗い出し、話を聞けそうな家を割り出す作業に残りの半日を費やした。
異変が起こったのは、その日の深夜のことだった。隣室で1人寝ている姉さんの部屋から、若い男の声が聞こえたのだ。兄さんと電話でもしているのかと思ったが、そうではない。おまけに、その声は繰り返しこう言っていた。
ーー見つけた。
「やっぱりそうなのか。でも、今回以前にここで幽霊を視たからどうにかしてほしいって依頼は来たことないよな? この周辺は住宅や店、ホテルもあるし、人通りは少なくなかったはずだ。誰も見たことがなかったなんて、変じゃねえか?」
「そうね。だけど、突然現れたにしては都合が良すぎる。考えられるのは、現れるのに条件があるってこと。日時や天候とか、そういったものでね」
日時や天候、と俺は復唱した。もしそうだとすれば、“客人”と姉さんが視た時、何かしらの条件を満たしていたことになる。だけど、そう考えたら結構簡単じゃないか?
夕方で、雨が降っている。加えて雨のために霧が出ていて夕陽が見えにくく、末の松山だけが目立つーー。こんな状況、いつでもあり得そうだけどな。
「以前、普段幽霊の類を視れない人が視ることができるのは、その者たちと波長が合うからって話したわよね?」
時々そういうことがあるのだと、姉さんは言っていた。そんな話が、大勢の中の心霊体験と呼ばれるのだとも。
「ああ。“客人”もそうなのか?」
「恐らく。ただ、それだけで家族全員が同じものを見たのは少し都合がいい話だから、幽霊が現世に姿を見せることを強く望んだ可能性がある。いわば、地縛霊に近い存在なのよ」
「地縛霊・・・・。でもそれって、死んだ場所とかに留まるんだよな? 幽霊はここで死んで留まってるのか? 聴こえた声から推測するに、ここで誰かを待っていたようだけど」
姉さんは曖昧に頷いた。無理もない。今の時点では、あまりに情報が少なすぎる。ただ、長い歴史の中で、この場所で死んだ人間がいないなんてことは言えないだろう。
「それに、あの和歌・・・・。あれを口ずさんだということは、幽霊はあの和歌を知っていたことになる。死後ずっとここへ留まっていたなら、その過程で見たとも取れるけど、もしかしたら、気持ちを代弁してもらった本人・・・・? いいえ、違うかもしれないわね。幽霊は待っている誰かが死んでいることを知っていた。女性に裏切られるような形で終わった恋のはずなのに、そんなことになるかしら」
「よりを戻したのかもしれないぜ? 当時そんなことがあったのかはわからねえけど」
それもあり得る話ね、と言いながら姉さんは松に触れた。先ほど幽霊が触れていた場所だ。特に異常は見当たらなかったが、同じように触れると、酷く冷たかった。
「冷気は幽霊の存在を示す根拠の1つ・・・・。ここまではっきり出ているなら、やっぱり地縛霊じみた存在ね」
「早いところ片をつけた方がいいってことだな」
「ええ。取り敢えず、ホテルに戻りましょう。話し合いの続きはそこで」
ホテルに戻った俺たちは、推測を交わしつつ、周辺住民への聞き込みなどをする必要があるという結論に達した。もし過去に同じものを見た人間がいれば、違う視点で何かが見えるかもしれなかった。俺たちは周辺の住宅を洗い出し、話を聞けそうな家を割り出す作業に残りの半日を費やした。
異変が起こったのは、その日の深夜のことだった。隣室で1人寝ている姉さんの部屋から、若い男の声が聞こえたのだ。兄さんと電話でもしているのかと思ったが、そうではない。おまけに、その声は繰り返しこう言っていた。
ーー見つけた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
近づいてはならぬ、敬して去るべし
句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら……
近づいてはいけない。
敬して去るべし。
山を降りろ。
六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。
28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。
田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。
大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。
会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。
ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。
「名付け得ぬ神」。
東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。
コウイチは訪ねることにする。
道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——
雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。
不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。
あれ? 鳥の声が、まったくない。
都市伝説レポート
君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。
2026/3/7:『こんびに』の章を追加。2026/3/14の朝頃より公開開始予定。
2026/3/6:『えれべーたー』の章を追加。2026/3/13の朝頃より公開開始予定。
2026/3/5:『まよなかのあしおと』の章を追加。2026/3/12の朝頃より公開開始予定。
2026/3/4:『ぎいぎいさま』の章を追加。2026/3/11の朝頃より公開開始予定。
2026/3/3:『やま』の章を追加。2026/3/10の朝頃より公開開始予定。
2026/3/2:『いおん』の章を追加。2026/3/9の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる