62 / 127
42首目に潜む待ち人 〜竹一族の記憶(三)〜
十四
しおりを挟む
1000年前の和歌が、1人の待ち人を生み出した。いや、無理に因果関係を作ることはしない方がいいかもしれないが、少なくとも男の言い分に沿うなら、こういうことになる。正直空いた口が塞がらないし、だからと言って地縛霊はやりすぎだと思う気持ちもある。だけど、それほどまでに男は、誰かを待ち続けていたんだ。
一緒に行こう。私はずっと待っていた・・・・ようやくあなたを見つけたんだ。
姉さんは、舞いながら一歩近づいた。ーー来た。
「私があなたの探している誰かだと確信があるの? 否定はしない?」
また尋ねた。本当に珍しい。姉さんは普段、こんなことをしない。幽霊や怪異と呼ばれる存在に対して、深い思い入れを見せはしない。
しないさ。私は確信しているんだ。あなたこそが、私が探していた人だと。だから、もっと近づいて顔を見せてくれ。そうしたら、もっとあなたのことがわかる。
姉さんは徐々に近づいていく。きちんと舞を舞いながらなんて、簡単なことじゃない。容易に行う姉さんは、知っているとは言え身体能力が高い。高くなきゃ、この力は使いこなせない。
「いいわ。さあ、これが最初で最後よ」
姉さんの足音が一瞬、止んだ。同時に姉さんの手が動く音がした。きっと、幽霊の男の喉元あたりが、桜色に染まったんだろう。
ああ・・・・間違いない。あなたこそ私がーー
簪を引き抜くと、束ねていた髪が落ちた。だけど、そんなことはどうでもいい。重要なのは、祓い損ねないことだけ。祓えなければ、次は四音に牙を剥く。そんなことは絶対にさせない。
引き抜いた簪は銀色を基調としていて、桜の装飾がついている。美しさしか身につけていないように見えるけれど、これは除霊のための武器。問題は、近距離になるから失敗が許されないこと。
私は簪を持つ右手を真っ直ぐに伸ばし、泣きそうな顔をしている幽霊の喉元に突き刺した。血が出ないことはわかっている。ただ、致命的な傷さえ与えられれば、それでいい。
幽霊は目を見開いて驚愕を示した。無理もない。だけどこれで、私が待っていた誰かではないとわかったはず。
どうして・・・・。私は、私はただ、あの人を待っていただけなのに・・・・。
「そうね。だけど、あなたは約数百年もの間、この地に留まっていた。あなた自身は気がつかなかったかもしれないけれど、強力な地縛霊になってしまっている。だから祓うしかないの。きっと近いうちに、無差別に人間を殺すから」
そうなる前に殺すのだから、寧ろ慈悲深い。まともな心が残っているうちに祓われる方が、多少は人間らしく死ねるわ。
「向こうに行けば、待っていた誰かに会えるわ。それだけの関係がある以上、1人だけ次に行くことはないから、それだけは安心していいわ」
一緒に行こう。私はずっと待っていた・・・・ようやくあなたを見つけたんだ。
姉さんは、舞いながら一歩近づいた。ーー来た。
「私があなたの探している誰かだと確信があるの? 否定はしない?」
また尋ねた。本当に珍しい。姉さんは普段、こんなことをしない。幽霊や怪異と呼ばれる存在に対して、深い思い入れを見せはしない。
しないさ。私は確信しているんだ。あなたこそが、私が探していた人だと。だから、もっと近づいて顔を見せてくれ。そうしたら、もっとあなたのことがわかる。
姉さんは徐々に近づいていく。きちんと舞を舞いながらなんて、簡単なことじゃない。容易に行う姉さんは、知っているとは言え身体能力が高い。高くなきゃ、この力は使いこなせない。
「いいわ。さあ、これが最初で最後よ」
姉さんの足音が一瞬、止んだ。同時に姉さんの手が動く音がした。きっと、幽霊の男の喉元あたりが、桜色に染まったんだろう。
ああ・・・・間違いない。あなたこそ私がーー
簪を引き抜くと、束ねていた髪が落ちた。だけど、そんなことはどうでもいい。重要なのは、祓い損ねないことだけ。祓えなければ、次は四音に牙を剥く。そんなことは絶対にさせない。
引き抜いた簪は銀色を基調としていて、桜の装飾がついている。美しさしか身につけていないように見えるけれど、これは除霊のための武器。問題は、近距離になるから失敗が許されないこと。
私は簪を持つ右手を真っ直ぐに伸ばし、泣きそうな顔をしている幽霊の喉元に突き刺した。血が出ないことはわかっている。ただ、致命的な傷さえ与えられれば、それでいい。
幽霊は目を見開いて驚愕を示した。無理もない。だけどこれで、私が待っていた誰かではないとわかったはず。
どうして・・・・。私は、私はただ、あの人を待っていただけなのに・・・・。
「そうね。だけど、あなたは約数百年もの間、この地に留まっていた。あなた自身は気がつかなかったかもしれないけれど、強力な地縛霊になってしまっている。だから祓うしかないの。きっと近いうちに、無差別に人間を殺すから」
そうなる前に殺すのだから、寧ろ慈悲深い。まともな心が残っているうちに祓われる方が、多少は人間らしく死ねるわ。
「向こうに行けば、待っていた誰かに会えるわ。それだけの関係がある以上、1人だけ次に行くことはないから、それだけは安心していいわ」
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
近づいてはならぬ、敬して去るべし
句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら……
近づいてはいけない。
敬して去るべし。
山を降りろ。
六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。
28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。
田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。
大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。
会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。
ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。
「名付け得ぬ神」。
東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。
コウイチは訪ねることにする。
道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——
雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。
不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。
あれ? 鳥の声が、まったくない。
都市伝説レポート
君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
「モブ子で結構。クラスでパシリにしていたあなたより、フォロワーが100万人多いので、趣味の合わない方とはお話ししない主義なので」
まさき
ライト文芸
静はイヤホンをつけ、眼鏡を外した。
「ごめんなさい——趣味の合わない方とはお話ししない主義なの」
——これは、モブ子と呼ばれた少女が、誰にも媚びなかった夏の話。
学校では地味で目立たない女子高生・葛城静。分厚い眼鏡、冴えない服装、クラスのリア充グループには「モブ子」と呼ばれ、パシリにされる日々。「ブスに夏休みは似合わないよね」——そんな言葉を笑顔で浴びせてくる同級生たちは、知らない。
彼女が、フォロワー100万人を誇る超人気ストリーマー「シズネ」だということを。
夏休み。秘密の別荘プールから配信した100万人記念ライブが大バズり。特定班の動きは早く、やがて「シズネ=あのモブ子」という事実がXのトレンドを席巻した。
翌朝の教室。昨日まで見下していた同級生たちが、一斉に満面の笑みを向けてくる——。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。
2026/3/7:『こんびに』の章を追加。2026/3/14の朝頃より公開開始予定。
2026/3/6:『えれべーたー』の章を追加。2026/3/13の朝頃より公開開始予定。
2026/3/5:『まよなかのあしおと』の章を追加。2026/3/12の朝頃より公開開始予定。
2026/3/4:『ぎいぎいさま』の章を追加。2026/3/11の朝頃より公開開始予定。
2026/3/3:『やま』の章を追加。2026/3/10の朝頃より公開開始予定。
2026/3/2:『いおん』の章を追加。2026/3/9の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる