竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜

十六

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「父上、それは・・・・。清二様への・・・・」
「わかっている。だが、放っておくほど非情にはなれなかった」
 混乱する私と仲間たちに対し、父を始めとする一族の翁たちは全ての事情を話しました。しかし、当時の烏天狗一族の主人は亡き清二様。奏子様を探されていることを知った上で知らない顔をするのは、堅苦しい言い方をしますが、謀反と言ってよかった。長である父が、それを理解していないはずはありませんでした。
「そもそも、父上のせいだという話も飛躍しております。奏子様が竹一族と同じようなお力を持っていることは、いずれ知られていたでしょう。その上でどうするのかは、竹一族の当主たる清二様のご意思。それが今の状況を生み出したのです」
「そうだな、それは事実だ。だが、事実だけで全ての物事は語れない。そこに情を挟むことも、必要なことだ」
 当時の私は今よりも修行に明け暮れておりましたから、より強くなり主人を支えることが最も正しいことだと思っておりました。青かったと言うやつでしょうか。いずれにせよ、私や仲間たちには、危険を犯す父たちの気持ちが、よくわからなかったのです。
「とにかく、奏子様が子供を出産されるまでは面倒を見る。ただ、人間も妖怪と同じく出産してから休息が必要だ。それをじっくりとられた後、奏子様ご自身に今後のことをお聞きする。
 いい機会だ。お前、しばらく里を出ないだろう。奏子様の警護をしなさい。何か見えてくるものがあるかもしれない」
 ちなみに、私には当時、まだ名前がありませんでした。他の妖怪は分かりませんが、烏天狗一族は一人前にならなければ名前をもらえなかったのです。恐らく父は、私の考えを聞いて、名前を与えるのは早いと思ったのでしょう。
「奏子様。これから警護を務める者です。一応、長の長子でございます」
「わざわざありがとう。よろしくお願いします」
 里は少し不思議なところでして、春と秋、2つの季節が繰り返されます。理由は単純で、妖怪とはいえ動物の姿をしている私たちは、人間のような文明の利器に頼りませんから、極端な季節を生きることができないのです。
 そのため、雨も少なく穏やかな日差しが照り続ける場所で、奏子様は出産までを過ごされました。里にいることで人間の体が不調を起こすことはありませんから、大きな問題は起こりませんでした。
「私の三味線はどこに?」
「こちらにございますが・・・・弾かれるのですか? お身体が・・・・」
 ひと月も経てば、私は奏子様と他愛無い話をする程に打ち解けました。そんな頃に、奏子様は三味線を弾きたいと仰ったのです。少しずつお腹は大きくなっていましたから、大丈夫なのかと何度も尋ねました。
「心配してくれてありがとう。でも、久しぶりに弾きたいのよ。この子が産まれてからも聴かせてあげたいから、練習は続けておきたいし」
 その日、私は初めて奏子様の三味線をお聴きしました。そして、本当に驚いたのです。この世に、こんなに美しい音があるのか・・・・と。
 言葉で表すのは非常に難しいですが、強いて言うならば、人であろうとなかろうと、どんな立場の者であろうと、耳を傾けずにはいられない、神聖さすら感じる。そんな美しい音でございました。
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