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母の御魂は四つ辻に眠る 〜竹一族の記憶(五)〜
十八
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高熱、吐き気、頭痛、息苦しさーー。人間の里で発症している病とは考えにくい容体に、私たちはお身体を冷やして体勢を楽にして差し上げることしかできませんでした。妖怪は病には罹らない上、そのような概念もありませんので、対策などあるはずもなかったのです。
しかし、感染症でないことは事実でした。出産後の処置はきっちりと行い、清潔な部屋でお休み頂きました。四音様も同様でございます。困り果てた私たちは、とにもかくにも長である父を呼び出したのです。
「奏子様、黒鉄です。私の声が聞こえますか」
奏子様は頷かれました。耳は聞こえ、嗅覚や味覚、触覚に異常はなかったのです。ただ、信じられないほど唐突に容体が急変したーーそんな状況でした。
あらかた奏子様を診た後、父は一言、妙だと言いました。
「何がです? 父上」
「人間がここまでの不調を覚えれば、何かしら五感に影響が出る。鼻が詰まったり、喉が痛くなったり、手足が痺れたり・・・・。だが、奏子様にはそれが全くない。感染症でも風邪でもないのに、ひたすら弱っていくなどおかしい。ここの空気が合わないのなら、来た日に体調を崩している。何より、四郎様は隣で休まれていたのに、驚くほど元気だ」
父の言葉は正しかった。容体の急変は奏子様だけで、四音様は本当にお元気だったのです。病であれば、隣で寝ている以上、うつります。しかし、お2人は当てはまらない。では、一体どういうことなのか・・・・。父は、1つの結論を出しました。
「これは呪いだ。奏子様だけに向けられた、強力な呪いだよ」
怪異によるものではない、人為的な呪い。確かにそれなら、四音様だけが無事であることにも説明がつきます。私は、いくら責められても構わないから、竹一族に力を借りるべきだと訴えました。跡継ぎの零士様に頼んで困難であるなら、ご当主の清二様に、と。
しかし、父は無理だと首を振りました。
「なぜです! そのくらいの力、清二様はお持ちでしょう!」
「力の有無は関係ない! わからないのか。この呪いは清二様がかけたものだ! 呪いをかけた本人に解いてくれなどと頼みに行く? そんなことはできない!」
私は理解ができませんでした。自身の息子と子供を産むように命じたにも関わらず、母である奏子様を呪い殺そうとするなど。その気持ちを父に伝えると、父は酷く悲しげな顔をしました。
「・・・・お前は情を学んだようだ。だが、まだ足りない。情とは良いものも、悪いものもある。今回は後者だ。
確かに、清二様は奏子様に、ご子息との子供を産むよう望んだ。だが、それを望んだのはなぜだ? 奏子様が竹一族と同じよう力を持ち、一族の全てを聞かされたからだろう。しかし清二様からすれば、一族の本当の顔が世間に出るのは避けたい。そのためには、依頼でも何でもなく事故で知ってしまった奏子様は邪魔者だ。
求めたのは子供を産むこと。それが果たされた今、清二様にとって奏子様の存在価値は無いに等しい」
そんなことすらわからないほど、私は未熟だったのです。恐らく清二様は、奏子様が全てを知った時に企み、呪いをかけた。子供が産まれる間は発症せず、生まれてからすぐ、発症する呪いを。
そして、そうなってしまった以上、私たちは奏子様を、お助けすることができませんでした。
「奏子様、申し訳ございません。私たちではーー」
「いいんです。・・・・ありがとうございました、黒鉄さん。あなたが里に来るよう言ってくれたおかげで、私は無事に四郎を産めた。感謝しても、しきれません」
言葉をかけた父に対しての返事で、私たちは奏子様が全てを理解されていたことを知りました。死を覚悟の上で、四音様を産むことを選ばれたのです。
「どんな理由があれ、産まれた子供に罪はない・・・・。だから、どうしても四郎を産みたかった。もちろん、私が会いたかったというのもありますけど。
黒鉄さん、四郎を、私の隣に・・・・それと、あなたのご長男も」
父に呼ばれ、私は四音様を抱いて奏子様の側につきました。浅い呼吸を繰り返される奏子様は、一目でわかるほど死相が出ていました。
「四郎・・・・ごめんね。私は、あなたと一緒に生きられない。あなたは、苦しみながら生きることになってしまうかもしれない。でも、どうか忘れないで。あなたのお父さんもお兄さんもお姉さんも、あなたを愛してくれること・・・・あなたの生きる場所は、必ずあるということを」
眠っている四音様に聞こえたかはわかりません。しかし、それは四音様に対する遺言でした。母として、最期にかけられる、精一杯の言葉でした。
四音様を抱きしめられた奏子様は、私の方を見て、こう言いました。
「四郎と私の三味線を、竹一族のお屋敷に連れて行って。三味線は、私の子供であるという証でもあるけれど・・・・何より、形見として四郎に残してあげたいの。それ以外の物は、何もないから・・・・。
大変なことを頼んで、本当にごめんなさい。でも、あなたに行ってほしいの。私と四郎を、守ってくれたあなたに」
最期に守れなかったにも関わらず、奏子様は私に託してくださいました。
「かしこまりました。お引き受け致します。必ず・・・・必ず」
返事を聞いて安心されたのか、奏子様は優しく微笑まれ、静かに息を引き取りました。入れ違いのように目覚めた四音様が、何かを察したかのように泣かれましたが、私たちは宥めることはしませんでした。気の済むまで泣いて頂くことで、奏子様の死を悼んでいるのではないかーーそんな気が、致しましたので。
しかし、感染症でないことは事実でした。出産後の処置はきっちりと行い、清潔な部屋でお休み頂きました。四音様も同様でございます。困り果てた私たちは、とにもかくにも長である父を呼び出したのです。
「奏子様、黒鉄です。私の声が聞こえますか」
奏子様は頷かれました。耳は聞こえ、嗅覚や味覚、触覚に異常はなかったのです。ただ、信じられないほど唐突に容体が急変したーーそんな状況でした。
あらかた奏子様を診た後、父は一言、妙だと言いました。
「何がです? 父上」
「人間がここまでの不調を覚えれば、何かしら五感に影響が出る。鼻が詰まったり、喉が痛くなったり、手足が痺れたり・・・・。だが、奏子様にはそれが全くない。感染症でも風邪でもないのに、ひたすら弱っていくなどおかしい。ここの空気が合わないのなら、来た日に体調を崩している。何より、四郎様は隣で休まれていたのに、驚くほど元気だ」
父の言葉は正しかった。容体の急変は奏子様だけで、四音様は本当にお元気だったのです。病であれば、隣で寝ている以上、うつります。しかし、お2人は当てはまらない。では、一体どういうことなのか・・・・。父は、1つの結論を出しました。
「これは呪いだ。奏子様だけに向けられた、強力な呪いだよ」
怪異によるものではない、人為的な呪い。確かにそれなら、四音様だけが無事であることにも説明がつきます。私は、いくら責められても構わないから、竹一族に力を借りるべきだと訴えました。跡継ぎの零士様に頼んで困難であるなら、ご当主の清二様に、と。
しかし、父は無理だと首を振りました。
「なぜです! そのくらいの力、清二様はお持ちでしょう!」
「力の有無は関係ない! わからないのか。この呪いは清二様がかけたものだ! 呪いをかけた本人に解いてくれなどと頼みに行く? そんなことはできない!」
私は理解ができませんでした。自身の息子と子供を産むように命じたにも関わらず、母である奏子様を呪い殺そうとするなど。その気持ちを父に伝えると、父は酷く悲しげな顔をしました。
「・・・・お前は情を学んだようだ。だが、まだ足りない。情とは良いものも、悪いものもある。今回は後者だ。
確かに、清二様は奏子様に、ご子息との子供を産むよう望んだ。だが、それを望んだのはなぜだ? 奏子様が竹一族と同じよう力を持ち、一族の全てを聞かされたからだろう。しかし清二様からすれば、一族の本当の顔が世間に出るのは避けたい。そのためには、依頼でも何でもなく事故で知ってしまった奏子様は邪魔者だ。
求めたのは子供を産むこと。それが果たされた今、清二様にとって奏子様の存在価値は無いに等しい」
そんなことすらわからないほど、私は未熟だったのです。恐らく清二様は、奏子様が全てを知った時に企み、呪いをかけた。子供が産まれる間は発症せず、生まれてからすぐ、発症する呪いを。
そして、そうなってしまった以上、私たちは奏子様を、お助けすることができませんでした。
「奏子様、申し訳ございません。私たちではーー」
「いいんです。・・・・ありがとうございました、黒鉄さん。あなたが里に来るよう言ってくれたおかげで、私は無事に四郎を産めた。感謝しても、しきれません」
言葉をかけた父に対しての返事で、私たちは奏子様が全てを理解されていたことを知りました。死を覚悟の上で、四音様を産むことを選ばれたのです。
「どんな理由があれ、産まれた子供に罪はない・・・・。だから、どうしても四郎を産みたかった。もちろん、私が会いたかったというのもありますけど。
黒鉄さん、四郎を、私の隣に・・・・それと、あなたのご長男も」
父に呼ばれ、私は四音様を抱いて奏子様の側につきました。浅い呼吸を繰り返される奏子様は、一目でわかるほど死相が出ていました。
「四郎・・・・ごめんね。私は、あなたと一緒に生きられない。あなたは、苦しみながら生きることになってしまうかもしれない。でも、どうか忘れないで。あなたのお父さんもお兄さんもお姉さんも、あなたを愛してくれること・・・・あなたの生きる場所は、必ずあるということを」
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「かしこまりました。お引き受け致します。必ず・・・・必ず」
返事を聞いて安心されたのか、奏子様は優しく微笑まれ、静かに息を引き取りました。入れ違いのように目覚めた四音様が、何かを察したかのように泣かれましたが、私たちは宥めることはしませんでした。気の済むまで泣いて頂くことで、奏子様の死を悼んでいるのではないかーーそんな気が、致しましたので。
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