小説探偵

夕凪ヨウ

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Case132.救えなかった君へ②

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「一体どういうことなんだ? こんな所に乗り組んでくるなんて・・・・!」
「今考えている場合じゃない。俺たちも標的になっている以上、目の前のことに集中するしかない」
 海里たちは乗り込んできたテロリストたちと戦闘を繰り広げていた。犯罪者とはいえ、警察官が人を撃つことは基本的に許されない上、龍と玲央以外、武器を所持していなかった。そのため、海里たちは素手である。
「警視庁を占拠するつもりでしょうか?」
「その可能性もあるが・・・・やり方が大胆すぎないか? 第一、こいつらどうやって目立たずにここに来たんだ?」
「恐らく、外にいたマスコミだと思います。入れ替わっていた・・・・いや、変装していたのでしょう」
「芸達者だね」
 捜査一課の刑事たちの助けもあり、10分ほどで戦闘は終わった。テロリストたちは全員気絶しており、刑事たちは怪我こそしていたが、幸い死者は誰もいなかった。
「あの状況で擦り傷だけって。意外にタフだな、江本」
「お2人は無傷じゃないですか」
 海里が苦笑すると、玲央のスマートフォンが鳴った。武虎からの電話である。
「父さん無事? 今ここに・・・・」
『天宮君を守れ! 奴らの狙いは彼女だ!』
「え」
『詳しい説明をしている暇はない! 彼女は今、君たちの方に向かっている! 探し出して守れ!』
「分かった。報告ありがとう」
 玲央は電話を切ると、2人の方を向いて言った。
「狙いは小夜だ。なぜか本庁に来ているらしいから、俺は彼女を探す。2人はみんなの手当を」
「終わったらすぐに行く。ここは任せろ」
 龍と玲央が頷き合うと、玲央は駆け出した。
                    
            ※

「西園寺警部、さっきの音は・・・・」
「爆発ですね。間違いない」
 仕事をしていたアサヒも、異変を感じ取っていた。
「九重警視長に事情を説明して来ます。皆さんは、ここから動かないでください」
「大丈夫なんですか? 相手の正体は割れていませんよ」
「何とかします。皆さんも命の危機だと思ったら、すぐに逃げてください」
 そう言い残し、アサヒは鑑識課を飛び出した。襲ってきている人間が誰かは検討がついていたが、警視庁のどこまで侵入されているのかを知る必要があった。
 しくった・・・・。どこで仕事をしているのか、聞いておくべきだったわ。資料室かしら? いいえ、江本さんが来ているはずだから、そこにいることはない気がする・・・・
 そんなことを考えていた時、背後に人の気配を感じた。ハッとして振り返ると、予想通りの人物が立っている。
「1人とは運が良い」
「早乙女佑月・・・・!」
 アサヒは内心舌打ちをした。浩史と同じほどの体格をしたこの男に、自分が敵うわけがなかった。捜査一課にいれば、少しは対等になったかもしれないが、鑑識課に移動した彼女は、明らかに当時6より体術の腕が落ちているのだ。
 早乙女は不敵な笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「暇つぶしくらいにはなってくれるんだろうな?」
「・・・・ご想像に任せるわ」
                     
            ※

「東堂警部は・・・・これからどうされるんですか?」
 呻きながら傷を抑える部下に、龍は静かに告げた。
「兄貴を追う。1人でも殺させないためにな」
「警部らしいですね。」
「ありがとよ。とにかく、お前らは絶対にここを動くな。怪我もあって戦えないだろうし、相手は全員武器持ちだ」
 部下は深く頷いた。龍は笑って立ち上がる。背後にいる海里を見て、続ける。
「ここから先は死闘だ。仮にもお前は民間人だし、ここに残ってもーー」
「いいえ、行きます。何が起こっているのか、確かめたいですから」
「そう言うと思ったよ。行くぞ」
                   
            ※

 壁に叩きつけられたアサヒは、打ちつけた肩を押さえた。ゆっくりと近づいてくる早乙女を睨みつけ、荒い息を吐く。
「もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃない?」
「やるとでも?」
「まさか。本気じゃないわよ。雫さんたちを殺したあんたに・・・・そんな期待はしていないもの」
 アサヒは早乙女の足を払って飛び起きたが、やはり、大したダメージは与えられていなかった。
「無駄な抵抗をやめれば楽に殺してやるが?」
「お生憎様。まだ死ぬ気はないの」
「・・・・そうか。なら仕方ない」
 早乙女は駆け出し、アサヒに蹴りを入れた。アサヒはそれを腕で塞いだが、凄まじい衝撃が腕に残った。
「それ以上はやめておけ。そんな細腕で勝つことなど不可能だ」
「可能か不可能かなんてどうでもいいわ。私はただ、天宮小夜という人間を失いたくないだけ・・・・命を差し出すことも、理不尽に奪われることも、させたくない・・・・それだけよ。」
「随分と肩入れするじゃないか。?」
 アサヒは呆れたように笑った、その瞬間、早乙女の瞳から光が消える。直後、彼は目にも止まらぬ速さで跳び、彼女の背後に立っていた。頭に重い感触があり、拳銃を突きつけられているのが分かった。アサヒは振り向こうとしたが、すぐに両手を押さえ込まれ、身動きが取れなくなってしまった。
「女でありながらよく戦った。せめて一発で殺してやる」
 引き金が引かれるか否かの刹那、アサヒは強い力で腕を引かれた。直後、弾かれるように早乙女が飛ばされ、受け身を取っているのが見えた。
「やっぱりお前か。早乙女佑月」
「龍・・・・。江本さんまで・・・・」
 龍は安堵の息を吐いたが、アサヒの傷を見て眉を顰めた。すぐに視線を早乙女に移し、彼を睨みつける。
「懲りないやつだな。そんなに天宮の命が欲しいか?」
「命が欲しいのは貴様らも同じだ。最優先事項があの女であるだけの話」 
 早乙女はゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払った。海里の顔を見て不敵に笑ったかと思うと、その場から姿を消した。
「追うぞ。アサヒ、動けるか?」
「大丈夫よ。行きましょう」
                       
            ※

 玲央は警視庁内を走り回り、ようやく小夜を見つけていた。
「小夜!」
「玲央・・・・!」
 互いに駆け出した、その時だった。突如、玲央の視界が真っ赤に染まった。彼は一瞬自分の体を見て、小夜を見た。
 小夜は撃たれていた。急所からはずれているが、右の鎖骨近くに痛々しい傷が垣間見えた。
「小夜‼︎」
 玲央は、これまでにないほどの声量で名前を呼んだ。刹那、雫を失った時のことが蘇る。しかし、再びセーフティーを解除する音が聞こえ、我に返った。倒れそうになる小夜を受け止めて胸の中に押し込み、懐から拳銃を取り出す。姿勢を低くして床を転がり、彼女を撃った相手と銃を向け合った。
「・・・・えっ?」
 玲央は信じられないという顔で相手を見ていた。自分たちの方に近づいてくる人影は、見慣れたものだった。彼は長い沈黙の後、数れる声で呟いた。
「九重・・・・警視、長・・・・?」
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