小説探偵

夕凪ヨウ

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Case138.進学校に潜む影②

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「あんた、言いがかりは大概にしてくれ。あれはあんたが勝手に事故ったんだろ?」
「うるせえよ。事故現場近くにてめえがいたって話じゃねえか。ブレーキに細工でもしたんじゃねえの?」

 睨み合う2人の間に、玲央が割って入った。彼は屈託のない笑みを浮かべて言う。

「落ち着いてください、松井先生。よろしければ事故当時のことを聞かせて頂けませんか?校長先生からはお聞きできなかったので。」
「おう。事故に遭ったのは2週間前の夜だ。仕事が終わって車で帰る時、帰り道の交差点を通ろうとした時だな。信号が赤なんで止まろうとしたら、急にブレーキが効かなくなった。」
「ブレーキが?」
「ああ。で、電柱に激突。幸い軽傷だったが、入院する羽目になっちまった。」

 話を聞いた玲央は少し考え、蓼沼の方を見た。

「・・・・蓼沼君。君が事故当時現場近くにいたのは本当?」

 蓼沼はムッとしながらも正直に答えた。

「それは本当だ。帰り道だからな。」
「なるほど。松井先生は蓼沼君がブレーキに細工をしたと言いましたが、1度車を止めて外に出られたんですか?」

 松井は頷いた。玲央は考え込む姿勢を見せた後、スマートフォンを取り出し、誰かに電話をかけた。

「・・そっか。ありがとう。・・・・松井先生。今交通課の知り合いにあなたの車のことを尋ねましたが、ブレーキ及び車に異常は無かったということです。ただ床に空き缶が転がっていたという話ですが・・・・。」
「空き缶?ああ、そういやあったな。俺は酒は飲まないから、何でそんな物があるのか不思議に思ったけど、家に帰ってから捨てればいいと無視したんだ。」

 嘘をついている様子はなかった。玲央は頷き、言葉を続ける。

「・・・・そうですか。ありがとうございました。お仕事に戻って頂いて構いませんよ。」
「ん?ああ、違う違う。俺は教頭からあんたらの監視を仰せつかったんだ。」

 その言葉に、海里たちは怪訝な顔をした。自分たちから呼んでおいで、そんな無茶苦茶な話があるだろうか。

「うちの教頭は疑り深いんでね。まっ、大目に見てくださいよ。」

 玲央は軽い溜息をついた。龍もげんなりしている。

「・・・分かりました。蓼沼君。第3の事件・生徒の自殺と自殺未遂の件について教えてくれないか?」
「その話はダメです。」

 そう言って現れたのは、眼鏡をかけ、短い髪を切りそろえた女性だった。

「國枝教頭。ダメって何ですか?俺は警察の方に聞かれたことは答えますよ。」
「生徒のプライバシーがあります。」
「それは分かりますけど・・・」
「心配しなくても、」

 蓼沼の声に重ねるように、龍が口を開いた。

「プライバシーは守ります。彼が実名を出そうと、私たちは調査の上でしかそれを使いません。公になったとしても、同じことです。だから蓼沼。話してくれ。あんたが何しても責任はこっちが取る。」
「・・・あ・・ああ。」

 國枝教頭は、呆れたように溜息をついた。蓼沼はそれを横目に見ながら続ける。

「初めに自殺をしたのは、2年の男子生徒だった。屋上から飛び降りたんだ。ただそいつはクラス委員長をしていて、文武両道。人当たりも良かったよ。その生徒のクラスの悲しみようは尋常じゃなかった。
 次に自殺したのが、3年の女子生徒。これもまた人気者で、そのクラスは1人目の時と似たような状況になった。今考えると・・・自殺や自殺未遂をしたのはクラスの人気者とか、生徒会にいる奴とかばっかりだった気がする。」
「妙な話ですね。」
「だろ?お陰で一時、呪いだなんて壮大な話になったんだ。噂じゃ、昔屋上から飛び降りた奴の呪いって話もあった。」

 蓼沼は苦笑し、海里が何かを言おうと口を開いたその時だった。校舎の方で、悲鳴とガラスの割れる音がした。

「えっ・・・⁉︎」

 海里が唖然としていると、龍と玲央は素早く校舎の方に走っていた。海里は慌てて後を追い、蓼沼たちも続く。

「おい・・・何だ?これ。」

 酷い惨状だった。校舎にあるほぼ全ての窓ガラスが割れ、蛍光灯が床に落ちていたのだ。1階から4階まで、全て同じことが起こっており、生徒・職員は多数怪我をしているのが遠目でも分かった。

 しかし驚きながらも、玲央は素早く教師2人に言った。

「取り敢えず救急車を呼んでください。私たちは警察を呼びます。」

 その後、警察と救急車が来て、怪我人を運んで行った。

「また派手な事件にお目にかかってるわね。」
「全くだよ。」

 アサヒは溜息をつきながら事件現場を一通り見て回り、割れたガラスや蛍光灯を見た。

「人為的なものとは思えないわよ。爆発したわけでもないでしょ?」
「ああ。本当、この学校はどうなってんだ。」

 海里たちはアサヒに大まかな事情を説明した。彼女は終始怪訝な顔をして聞いていた。

「結論から言うけど、それ・・本当に呪いの可能性あるんじゃないの?詳しくは知らないし信じたくないけど、この状況・・・どうやって人が壊しましたって言うわけ?」
「それはそうだが、どうしろって言うんだ?呪いだから解決できませんでした、なんて上に報告できないし、学校側も納得しない。」

 龍の言葉にアサヒは溜息をついた。

「馬鹿ねえ。除霊師の知り合い、いるんでしょ?呼ぶだけ呼んでみたら?」

 海里たちはハッとした。だが、すぐに玲央は唸る。

「でも俺たちは霊の専門家じゃないよ。簡単な判断は危険だ。」
「それはそうだけど・・・・」
「専門家の知り合いがいらっしゃるんですか?」

 声を上げたのは教頭だった。海里は頷く。

「だったら呼んでくださいな。こんなこと、人の手ではできませんわ。霊がいるなら、見て頂かなくては。」
「よろしいんですか?警察以外の人間が立ち入ることになります。」
「構いませんわ。解決できるのであれば。」

 海里は頷き、スマートフォンを取り出した。

「私です。はい・・少し困ったことになってまして・・・来て頂けませんか?え、規模?そうですね・・・。よく分からないんですけど、取り敢えず学校中の窓ガラスがほとんど割れると言った所でしょうか。はい・・はい。怪我人も多数います。」

 いくつかの問答を終えた後、海里は電話を切った。

「来てくださるようです。あと・・圭介さんの兄・大和さんもいらっしゃると。」
「へえ。兄なんていたんだ。それにしても2人同時に来るってことは、やっぱり危険なのかな?」

 10分ほど経って、学校の裏門に車が止まった。運転席から圭介が降り、助手席から大和が降りてくる。

「お忙しいところすみませんでした。お2人とも。」
「いえ。話を聞く限り規模が大きいようですし・・・。」

 そう言いながら、大和は校舎を見て目を細めた。校長たちへ挨拶もせず、割れた窓枠を飛び越えて中に入る。校舎内を歩き、彼は溜息をついた。

「圭介。病院に行って生徒と職員にガラスが割れた時の様子やその他諸々を聞いて来い。」
「俺がやるの⁉︎」
「片っ端から除霊するお前がここに残っても無駄だ。いいから行け。」

 強い口調に押され、圭介は車に半身を入れた。そして中からトランクと除霊用の刀を引っ張り出し、大和に手渡す。

「早めに終わらせろ。」
「へいへい。兄さんは何すんの?」
「情報収集だ。
 先生方、はっきり申し上げますが、この学校は危険です。霊が潜んでいると断言するわけではありませんが、何らかの“力”が働いていることは確か。勝手な行動はお控えください。できれば僕の言う通りに動いて頂きたい。」

 淡々と話した後、大和は少し間を開け、言った。

「命の保証は、できかねませんので。」
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