小説探偵

夕凪ヨウ

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Case146.小さな手の向かう先⑤

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「ここだ。日英ホテルの前にあるタワーマンションの405号室。監視カメラの映像と合わせて、渋谷一紀・瑠璃の姿が確認できた。」

 海里は龍から出されたカメラの映像を確認し、頷いた。時計はまだ朝の10時である。

「20時までホテルとマンションの周囲を見張る。兄貴、頼めるか?」
「了解。江本君、もう謎は解けた?」
「はい。思わぬ話が聞けましたから。」
「それは良かった。じゃあそんな江本君にプレゼント。」

 玲央はそう言い、大きな茶色い封筒を渡した。海里はそれを受け取り、中の紙束を出す。

「なぜ信義さんが警察を恨むのか・・・。その理由がある。」
「これは・・・!」

 海里は驚いた。玲央は笑って踵を返す。

「じゃあまた夜にね。」

            ※

 日英ホテル。405号室。

「瑠璃ちゃん・・・わたし、いつ家に帰れるの?」
「今日の夜には帰れるよ、紗凪ちゃん。だからもう少しだけ待って。」

 瑠璃の言葉に、紗凪は不満そうな顔をした。

「どうして一紀さんはわたしを誘拐したの?こうかく、が原因?」
「・・・・私にも、分からないよ。とにかく、夜までいてね。」

 瑠璃が立ち上がると、紗凪は自分の腕にかけられた縄を見た。少し緩くなっており、踠けば外れると直感する。

(お兄ちゃん・・・お父さん・・お母さん・・・。待ってて!絶対に逃げ出して見せるから!)

            ※

「日英ホテルは、2年前に完成した都内で1番新しいホテルだ。中世ヨーロッパ風の建築が特徴で、子供は大いに喜ぶらしい。」
「中も似たような?」
「ああ。ほら。」

 龍に見せられた写真には、確かに王宮のような豪華さがあった。海里は感嘆の息を吐く。

「すごいですね。お金かかっているんじゃないですか?」
「目が眩むような金額だったよ。で、このホテルの建設を依頼したのが坂藤信義なんだ。」
「えっ?では・・なぜ信義さんは何も言わなかったのでしょう。普通、分かるのでは?」
「まあ一理あるが、自分が関わった場所に犯人がいるとは思わないだろ。」
「それもそうかもしれませんね。」

 海里と龍はホテル近くのレストランに入って食事をしていた。といっても、それは表向きの理由であり、本当は張り込みであった。

「お前に付き合わせるのも変な話なんだがな。」
「構いませんよ。ずっと坂藤家にいるのも迷惑ですし、家に帰ってもやる事がないので。」
「家・・・。お前、家どこなんだ?妹と一緒に暮らしてるのか?」
「はい。家は警視庁からさほど離れてませんよ?徒歩で30分もかかりませんし。」

 その言葉で、龍は大体の住所を特定できた。

「いや、ちょっと待て。まさかお前、富裕層が割と多いって言われるあのビルに住んでるのか?」
「はい。あ、家賃もちゃんと払ってますよ。小説家としてありがたいことに本は売れていますから。」

 龍は盛大に溜息をついた。海里は首を傾げる。

「お前、よくアサヒや天宮の家に驚いたな・・・。」
「あまり自覚がないので・・・。高すぎると義父に言ったこともあるんですけどね、きちんとした所に住んだ方がいいと言われまして。」
「なんかお前ってズレてるんだよな。」

 海里は苦笑いを浮かべた。その途端、龍のスマートフォンが鳴る。

『渋谷瑠璃が家から出た。追ってくれ。』
「分かった。」

 2人はレストランを出ると、瑠璃の視界に入らないように彼女をつけた。彼女は鞄などは持っておらず、身1つでどこかへ向かっていた。

「家に帰るんでしょうか?」
「いや・・・会社の重役の娘が、迎えも無しに1人で帰るとは思えない。個人的な理由での外出だろう。」

 やがて、瑠璃は神社に入った。2人は鳥居を見て目を丸くする。

「月山神社って・・・圭介さんの?」
「見つかったら厄介だな。裏に回るぞ。」

 瑠璃は神社の中に入ると、境内の裏手へ走った。木陰にいる人物に手を振り、駆け寄る。

「来てくれてありがとう。」
「上手く抜け出せたんだね。紗凪は無事なの?」
「うん。必ず無事に返すよ・・・快斗君。」

(快斗さん⁉︎なぜここに・・・いやそれよりも、なぜ瑠璃さんと一緒に?彼は紗凪さんの交友関係を知らなかったはず・・・!)

「紗凪に罪はない。」
「知ってるよ。でも、そうしなきゃならなかったんだ。」
「・・・・父さんは悪くない。悪いのは“あの女”だろ。」

 海里と龍は首を傾げた。

「そんな言い方ないじゃない。快斗君にとっては大切な人だったんだから!」
「大切なんかじゃない!“あの女”は最低だ!」
「快斗君‼︎」

 茂みが動く音がした。快斗と瑠璃が驚いて振り向くと、そこには1人の巫女がいた。

「あら、どうしたの?迷った?」
「しっ・・失礼しました!」

 2人は逃げるように神社を後にした。海里と龍は2人の後ろ姿を見送り、歩き始めた。

「どう思いますか?あの2人・・・。」
「知り合いだったことは確かだろう。加えて、あの2人は坂藤紗凪が誘拐された理由を知っている。兄の快斗も、犯人を渋谷一紀だと理解している・・・。一体、どういうことなんだ?」
「・・・・この事件、まだ裏がありそうですね。鍵を握っているあの2人から、話を聞ければいいのですが・・・。」
「難しいな。あの2人が知り合いということは、恐らく両親は知らない。いきなりそんな謎を解き始めたところで、意味が分からないと一蹴される。」

 そう言いながら、龍はスマートフォンを取り出した。例の如く、アサヒにかけているのだ。

『丁度電話しようと思ってたのよ。声紋が一致して、通話の主は渋谷一紀で間違いないわ。』
「・・・・そうか。」
『また何かあった?』

 電話越しの暗い声に何かを感じ取ったのか、アサヒは尋ねた。龍は頷く。

「ああ。あの2人・・坂藤快斗と渋谷瑠璃は知り合いだ。快斗は犯人を知っていて、坂藤紗凪が誘拐された理由を知っているかもしれない。」
『はあ?何それ。』

 呆れ口調のアサヒに、龍は冷静に答えた。

「俺も分からない。夜までにできるか?」
『拒否権ないでしょ。』

 龍は首をすくめた。電話の向こうでアサヒの溜息が聞こえる。

『やればいいんでしょ。間に合わなくても文句なしね。』
「悪いな、頼む。」

 その後、海里と龍は待ち合わせ場所へ向かい、玲央と共に20時まで待機をした。

「何かあれば取り押さえますから、取り敢えず行って下さい。後からついて行きます。」

 信義は一紀がいる405号室へ入った。

 そしてその直後、悲鳴が聞こえた。

「信義さん⁉︎」

 部屋に入った海里たちは、目の前の光景に愕然とした。

 部屋の中には、尻餅をつく信義と、血を流して倒れる一紀がいたのだ。
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