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Case156.容疑者・江本海里④
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「その原稿・・・どこに?」
海里はまさかと思いつつ質問した。吾妻からは、想定内の答えが飛んでくる。
「田村恵一郎の部屋に落ちていました。ちょうど、殺害現場の居間に。探していたんですか?」
「ええ・・・。返して頂けます?」
吾妻は満面の笑みで無理ですね、と言った。海里は拳を握りしめる。
「これは間違えなくあなたの原稿でしょう?血判まで付いていて、鑑識に回さないわけがない。確認のため、指紋を採取させて頂きますよ。」
「・・・・分かりました。」
海里は指紋採取の後、他に無くなっている物がないか探した。
(まさか原稿を持っていかれているなんて・・・。あの血判は私の物なのか?違うはずだが、もし指紋が一致したら、私は確実に逮捕される。もしそんなことになったら・・・!)
海里は歯軋りをした。すると、編集者が彼の肩を叩く。
「大丈夫かい?江本君。」
「・・・はい。まさか、あんな物まで出てくるなんて・・・・。犯人はよほど私を犯人に仕立て上げたいらしいですね。」
「うん・・・。でも、謎だよね。犯人はどうやって君の部屋に入ったんだろう?君が言っていた通りオートロックだし、外から開けるにはマスターキーしかない。」
「ええ。ただ、ホテルマンが犯人だとしても、私の所に遺体を置く理由がありません。なぜ私が選ばれたのか・・・。そこが1番の謎です。」
難しそうな顔をした海里は、心の中で“何か”か引っかかっていた。
(何だ?私は、何かを見落としている気がする。ここまでの調査で違和感を覚えたことがあったはずなのに・・・思い出せない。何だ⁉︎何か重要なこと・・!心の引っかかりの正体が掴めない!)
「江本さん。」
「吾妻さん・・・何か?」
「一致しましたよ。あなたの指紋と、この血判。・・・署までご同行願えますか?」
海里は吾妻の言葉に被せるように叫んだ。
「待ってください!私の原稿用紙なんですから、指紋が付いているのは当たり前です!犯人が上から血を垂らしただけでも何とかなるはずでしょう⁉︎」
「この期に及んで言い逃れですか?見苦しいですよ。」
警官たちが一斉に海里を取り囲んだ。海里は脳をフル回転させ、調査で感じた“違和感”を探していた。
(原稿用紙・・指紋・・・。ダメだ!考えがまとまらない!落ち着け‼︎考えろ‼︎人がした細工には必ず穴がある!そしてそれは、この事件にもあるはずなんだ!)
刹那、海里は吾妻が手に持っている原稿用紙のコピーを見た。
「あっ・・・⁉︎」
海里は拘束しようとした警察官の腕を振り解き、吾妻が持っている原稿用紙のコピーを引ったくった。吾妻の怒声にも耳を貸さず、表紙をまじまじと見つめる。
「そうか・・・。この違和感の正体は・・これだったのですね。」
「何をぐずぐず言っているんですか。早く行きますよ。」
海里は首を横に振り、吾妻を睨みつけて言った。
「いいえ、行きません!確かにこの原稿用紙は私の物です。しかし!私が現場にこれを残しても、“私の物であると分からない”はずなんです!」
全員が怪訝な顔をした。海里は用紙を見せながら続ける。
「ここを見てください。作者名の所です。」
海里が指し示した位置を見て、吾妻は眉を顰めた。
「“カイリ”・・・?それがなんだと言うんですか。」
「吾妻さん。あなたはなぜ、この原稿用紙が私の物だと分かったのですか?」
「それは・・・小説探偵であることが分かっていたし、遺体があなたの部屋にあったから。」
「その通りです。逆に言えば、その2つの条件を満たしていなければ、これが私の原稿用紙だと分からないのですよ。」
「はあ?」
吾妻は意味が分からないという顔をした。海里は続ける。
「“カイリ”は私のペンネームです。私は本名を公表していないので、家族と一部の方々しか江本海里=カイリ、だと知りません。
よく考えて見てください。誰かに罪を被せる時、普通は免許証でも落としていれば済む話です。しかし、犯行現場にはこれが落ちていた。つまり犯人は、私が“小説探偵”であると知っている人物、ペンネームが“カイリ”だと承知している人間だけなんです。」
編集者がハッとしたように手を打った。
「そうか!本名を公開していないから、ペンネームと結びつくはずはない・・・。僕らも江本君としか呼んでいないから、名前は分からない!“原稿1枚で本名と結びつくはずがない”んだ!」
「そう言うことです。吾妻さん、もう1度言います。私が犯人であるなら、このように証拠を残すことなどあり得ない。ましてや、小説家として必要である原稿用紙を乱雑に扱うことなど断じてしません。」
海里は鞄の中から原稿用紙の束を取り出し、吾妻に渡した。
「その原稿は編集者さんたちにも見せていませんし、触れていません。ずっとキャリーバッグの中にありましたから。この原稿を調べて私以外の指紋が出たら、犯人が触ったも同じ。私の疑いは晴れます。
ついでに、バスローブも今一度お調べください。入浴後、手袋をつけて犯行に及んだとしても、羽織った際の指紋がどこかに必ずついていますから。」
「・・・鑑識に回せ!」
吾妻が苛立ちながら出て行った時、もう1度海里のスマートフォンが鳴った。大和である。
「大和さん。」
『お久しぶりです、江本さん。写真で送られたあの薬、分かりましたよ。』
「どうでした?ただの睡眠薬ですか?」
『いいえ。これは毒ですね。』
「毒⁉︎」
大和ははい、と言って続けた。
『詳しい成分は専門家の方に回しましたが、間違いありません。薬剤師にも話を聞いて、このような睡眠薬はないと分かりました。そして、一緒に送られた瓶の写真・・・。全部で30錠入っていて、2錠なくなっていました。1錠は江本さんが写真を撮られたものですが、もう1つは・・・・』
「犯行時に使われた・・・?」
『はい。今結果が送られ来ましたが・・・服用後、数分もたたずに死亡するそうです。脳内出血ですね。』
「・・・・そうですか。わざわざありがとうございました。」
『お気になさらず。では、仕事があるので失礼します。』
電話が切れると、海里は再び考え込んだ。刺殺だと思っていたのに、あの薬が毒薬であれば毒殺の可能性もあるのだ。
「一体どうなっているんだ・・・?被害者は・・どうやって亡くなった?」
海里がぶつぶつ呟いていると、またスマートフォンが鳴った。アサヒからの電話である。
『今いい?』
「はい。何かありましたか?先ほど大和さんから薬の件はお聞きしたんですが。」
『聞いたわ。そっちの話じゃなくて、司法解剖の結果の話。姉さんから連絡回ってきたのよ。』
海里の目の色が変わった。アサヒは淡々と続ける。
『よく聞いてね?遺体は脳内出血を起こしている。でも、切り傷も複数あり、どれもが致命傷になり得るもの。被害者は、“脳内出血と失血死がほぼ同時に起こって亡くなった”。』
海里は愕然とした。
「同時・・・⁉︎そんなことがあり得るんですか?刺された傷は複数あって・・・」
『“だから”複数なの。』
海里はハッとした。
『田村恵一郎が睡眠薬を飲んでいる話は嘘。彼は睡眠障害なんてないわ。犯人は水か酒かに薬を溶かして飲ませた。多分、溶かしたら効果は遅く出る。そうしている間に刺殺するとなると、1人では難しい。足や腕にも傷があったのだから。』
頭の中で、何かが繋がっていく気がした。海里は笑う。
「ありがとうございます、アサヒさん。少し分かってきました。」
『ふふっ。きっといい表情をしているんでしょうね。まあ、ここまで来ればあと一息。正々堂々、汚名返上してきなさい。』
「はい。必ず。」
『楽しみにしてるわ。』
海里はまさかと思いつつ質問した。吾妻からは、想定内の答えが飛んでくる。
「田村恵一郎の部屋に落ちていました。ちょうど、殺害現場の居間に。探していたんですか?」
「ええ・・・。返して頂けます?」
吾妻は満面の笑みで無理ですね、と言った。海里は拳を握りしめる。
「これは間違えなくあなたの原稿でしょう?血判まで付いていて、鑑識に回さないわけがない。確認のため、指紋を採取させて頂きますよ。」
「・・・・分かりました。」
海里は指紋採取の後、他に無くなっている物がないか探した。
(まさか原稿を持っていかれているなんて・・・。あの血判は私の物なのか?違うはずだが、もし指紋が一致したら、私は確実に逮捕される。もしそんなことになったら・・・!)
海里は歯軋りをした。すると、編集者が彼の肩を叩く。
「大丈夫かい?江本君。」
「・・・はい。まさか、あんな物まで出てくるなんて・・・・。犯人はよほど私を犯人に仕立て上げたいらしいですね。」
「うん・・・。でも、謎だよね。犯人はどうやって君の部屋に入ったんだろう?君が言っていた通りオートロックだし、外から開けるにはマスターキーしかない。」
「ええ。ただ、ホテルマンが犯人だとしても、私の所に遺体を置く理由がありません。なぜ私が選ばれたのか・・・。そこが1番の謎です。」
難しそうな顔をした海里は、心の中で“何か”か引っかかっていた。
(何だ?私は、何かを見落としている気がする。ここまでの調査で違和感を覚えたことがあったはずなのに・・・思い出せない。何だ⁉︎何か重要なこと・・!心の引っかかりの正体が掴めない!)
「江本さん。」
「吾妻さん・・・何か?」
「一致しましたよ。あなたの指紋と、この血判。・・・署までご同行願えますか?」
海里は吾妻の言葉に被せるように叫んだ。
「待ってください!私の原稿用紙なんですから、指紋が付いているのは当たり前です!犯人が上から血を垂らしただけでも何とかなるはずでしょう⁉︎」
「この期に及んで言い逃れですか?見苦しいですよ。」
警官たちが一斉に海里を取り囲んだ。海里は脳をフル回転させ、調査で感じた“違和感”を探していた。
(原稿用紙・・指紋・・・。ダメだ!考えがまとまらない!落ち着け‼︎考えろ‼︎人がした細工には必ず穴がある!そしてそれは、この事件にもあるはずなんだ!)
刹那、海里は吾妻が手に持っている原稿用紙のコピーを見た。
「あっ・・・⁉︎」
海里は拘束しようとした警察官の腕を振り解き、吾妻が持っている原稿用紙のコピーを引ったくった。吾妻の怒声にも耳を貸さず、表紙をまじまじと見つめる。
「そうか・・・。この違和感の正体は・・これだったのですね。」
「何をぐずぐず言っているんですか。早く行きますよ。」
海里は首を横に振り、吾妻を睨みつけて言った。
「いいえ、行きません!確かにこの原稿用紙は私の物です。しかし!私が現場にこれを残しても、“私の物であると分からない”はずなんです!」
全員が怪訝な顔をした。海里は用紙を見せながら続ける。
「ここを見てください。作者名の所です。」
海里が指し示した位置を見て、吾妻は眉を顰めた。
「“カイリ”・・・?それがなんだと言うんですか。」
「吾妻さん。あなたはなぜ、この原稿用紙が私の物だと分かったのですか?」
「それは・・・小説探偵であることが分かっていたし、遺体があなたの部屋にあったから。」
「その通りです。逆に言えば、その2つの条件を満たしていなければ、これが私の原稿用紙だと分からないのですよ。」
「はあ?」
吾妻は意味が分からないという顔をした。海里は続ける。
「“カイリ”は私のペンネームです。私は本名を公表していないので、家族と一部の方々しか江本海里=カイリ、だと知りません。
よく考えて見てください。誰かに罪を被せる時、普通は免許証でも落としていれば済む話です。しかし、犯行現場にはこれが落ちていた。つまり犯人は、私が“小説探偵”であると知っている人物、ペンネームが“カイリ”だと承知している人間だけなんです。」
編集者がハッとしたように手を打った。
「そうか!本名を公開していないから、ペンネームと結びつくはずはない・・・。僕らも江本君としか呼んでいないから、名前は分からない!“原稿1枚で本名と結びつくはずがない”んだ!」
「そう言うことです。吾妻さん、もう1度言います。私が犯人であるなら、このように証拠を残すことなどあり得ない。ましてや、小説家として必要である原稿用紙を乱雑に扱うことなど断じてしません。」
海里は鞄の中から原稿用紙の束を取り出し、吾妻に渡した。
「その原稿は編集者さんたちにも見せていませんし、触れていません。ずっとキャリーバッグの中にありましたから。この原稿を調べて私以外の指紋が出たら、犯人が触ったも同じ。私の疑いは晴れます。
ついでに、バスローブも今一度お調べください。入浴後、手袋をつけて犯行に及んだとしても、羽織った際の指紋がどこかに必ずついていますから。」
「・・・鑑識に回せ!」
吾妻が苛立ちながら出て行った時、もう1度海里のスマートフォンが鳴った。大和である。
「大和さん。」
『お久しぶりです、江本さん。写真で送られたあの薬、分かりましたよ。』
「どうでした?ただの睡眠薬ですか?」
『いいえ。これは毒ですね。』
「毒⁉︎」
大和ははい、と言って続けた。
『詳しい成分は専門家の方に回しましたが、間違いありません。薬剤師にも話を聞いて、このような睡眠薬はないと分かりました。そして、一緒に送られた瓶の写真・・・。全部で30錠入っていて、2錠なくなっていました。1錠は江本さんが写真を撮られたものですが、もう1つは・・・・』
「犯行時に使われた・・・?」
『はい。今結果が送られ来ましたが・・・服用後、数分もたたずに死亡するそうです。脳内出血ですね。』
「・・・・そうですか。わざわざありがとうございました。」
『お気になさらず。では、仕事があるので失礼します。』
電話が切れると、海里は再び考え込んだ。刺殺だと思っていたのに、あの薬が毒薬であれば毒殺の可能性もあるのだ。
「一体どうなっているんだ・・・?被害者は・・どうやって亡くなった?」
海里がぶつぶつ呟いていると、またスマートフォンが鳴った。アサヒからの電話である。
『今いい?』
「はい。何かありましたか?先ほど大和さんから薬の件はお聞きしたんですが。」
『聞いたわ。そっちの話じゃなくて、司法解剖の結果の話。姉さんから連絡回ってきたのよ。』
海里の目の色が変わった。アサヒは淡々と続ける。
『よく聞いてね?遺体は脳内出血を起こしている。でも、切り傷も複数あり、どれもが致命傷になり得るもの。被害者は、“脳内出血と失血死がほぼ同時に起こって亡くなった”。』
海里は愕然とした。
「同時・・・⁉︎そんなことがあり得るんですか?刺された傷は複数あって・・・」
『“だから”複数なの。』
海里はハッとした。
『田村恵一郎が睡眠薬を飲んでいる話は嘘。彼は睡眠障害なんてないわ。犯人は水か酒かに薬を溶かして飲ませた。多分、溶かしたら効果は遅く出る。そうしている間に刺殺するとなると、1人では難しい。足や腕にも傷があったのだから。』
頭の中で、何かが繋がっていく気がした。海里は笑う。
「ありがとうございます、アサヒさん。少し分かってきました。」
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