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第十話 雪花舞う季節に
Act.4-02
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紫織は、ほとんど無意識に宏樹の身体を包み込んでいた。傍から見たら、紫織がしがみ付いているように映るかもしれないが、幸いにもここには、紫織達以外には誰もいない。
紫織の唐突な行動を、宏樹はどう捉えたであろう。
最初はただ、立ち尽くしたままの格好で紫織に抱き締められていた。
そのうち、宏樹の腕がわずかに動いた。躊躇いがちに、だがしっかりと、彼は紫織の華奢な背中に腕を回した。
「紫織にはビックリさせられてばかりだ」
耳元で宏樹が囁く。
「いつまでもガキのままかと思えば、時々、急に大人びた表情も見せて……。大人しいだけかと思えば、突然のように行動的になったり……」
宏樹は片方の腕を解き、その手で紫織の髪を優しく撫でた。
「今さらだけど……、朋也が何故、紫織を好きになったかが分かった気がするよ。あいつはほんとに見る目がある。
どんな時でも、自分に対して正直で、真っ直ぐで、偽りは絶対に口にしない。――そして、側にいるだけで安らぎを与えてくれる……」
「――私、そんな出来た人間じゃ……」
「自分のことなんて、自分自身では分からないもんだろ?」
紫織が言いかけた言葉を、宏樹が遮った。
「紫織はいいものをたくさん持ってる。俺のように捻くれた人間からしたら、紫織のように素直に自分を表現出来るのは凄く羨ましいよ。
俺は朋也が生まれてから――いや、朋也が生まれる前から、他人だけではなく、自分自身のことも冷めた目で見ていたトコがあったから……。
こんなどうしようもない奴だから、本来なら、他人から愛される資格なんてないと思っていたけど……」
宏樹はわずかに身体を離し、紫織を真っ直ぐに見据えた。
「紫織、改めて訊くぞ?」
紫織は瞬きも忘れ、コクリと頷いた。
「本当に、俺でいいのか?」
宏樹の問いに、紫織は瞠目したまま、その視線に釘付けとなった。
「――そんなの、訊かれるまでもないよ」
宏樹を見つめたまま、ゆっくりと言葉を紡いでいった。
「私は、宏樹君が宏樹君だから好きなんだよ。優しいトコも、掴みどころのない性格も、今の宏樹君も、全てひっくるめて好きなんだよ。――宏樹君の代わりなんて、どこにだっていないんだから……」
宏樹は真顔のまま、黙って耳を傾けていたが、そのうちに再び笑みを取り戻した。今までに見た中でも、最高の笑顔だった。
「俺は、最高の幸せ者だな」
宏樹がそう告げた時だった。
ふたりの目の前に、白いものがふわりと舞い降りた。
「――雪だ」
宏樹が呟くと、紫織は空を仰いだ。
決して大きな粒ではないそれは、ゆったりと落ち、紫織の手の中で跡形もなく消えてゆく。
「――あっけないね……」
淋しげに言う紫織に、宏樹は「そうだな」と短く答える。
「でも、一粒一粒はどんなに小さくても、降り積もれば辺りを真っ白に染め上げてくれる。儚いようでも、実は結構、雪の花は逞しい存在じゃないかな」
宏樹は紫織の手をそっと取った。あの時と同じ、温かさの中に力強さを感じさせる。
紫織の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。手を通して、宏樹の想いが流れ込むように伝わってきて、胸が熱くなってきた。
「そろそろ行くか?」
紫織の頬に伝う涙を、反対側の親指で拭いながら宏樹が促す。
「うん」
紫織が頷くと、宏樹は手を握ったまま、彼女と共に海岸をあとにした。
何にも染まらない雪の花は、ふたりの髪に、肩に、止めどなく降り続けた。
紫織の唐突な行動を、宏樹はどう捉えたであろう。
最初はただ、立ち尽くしたままの格好で紫織に抱き締められていた。
そのうち、宏樹の腕がわずかに動いた。躊躇いがちに、だがしっかりと、彼は紫織の華奢な背中に腕を回した。
「紫織にはビックリさせられてばかりだ」
耳元で宏樹が囁く。
「いつまでもガキのままかと思えば、時々、急に大人びた表情も見せて……。大人しいだけかと思えば、突然のように行動的になったり……」
宏樹は片方の腕を解き、その手で紫織の髪を優しく撫でた。
「今さらだけど……、朋也が何故、紫織を好きになったかが分かった気がするよ。あいつはほんとに見る目がある。
どんな時でも、自分に対して正直で、真っ直ぐで、偽りは絶対に口にしない。――そして、側にいるだけで安らぎを与えてくれる……」
「――私、そんな出来た人間じゃ……」
「自分のことなんて、自分自身では分からないもんだろ?」
紫織が言いかけた言葉を、宏樹が遮った。
「紫織はいいものをたくさん持ってる。俺のように捻くれた人間からしたら、紫織のように素直に自分を表現出来るのは凄く羨ましいよ。
俺は朋也が生まれてから――いや、朋也が生まれる前から、他人だけではなく、自分自身のことも冷めた目で見ていたトコがあったから……。
こんなどうしようもない奴だから、本来なら、他人から愛される資格なんてないと思っていたけど……」
宏樹はわずかに身体を離し、紫織を真っ直ぐに見据えた。
「紫織、改めて訊くぞ?」
紫織は瞬きも忘れ、コクリと頷いた。
「本当に、俺でいいのか?」
宏樹の問いに、紫織は瞠目したまま、その視線に釘付けとなった。
「――そんなの、訊かれるまでもないよ」
宏樹を見つめたまま、ゆっくりと言葉を紡いでいった。
「私は、宏樹君が宏樹君だから好きなんだよ。優しいトコも、掴みどころのない性格も、今の宏樹君も、全てひっくるめて好きなんだよ。――宏樹君の代わりなんて、どこにだっていないんだから……」
宏樹は真顔のまま、黙って耳を傾けていたが、そのうちに再び笑みを取り戻した。今までに見た中でも、最高の笑顔だった。
「俺は、最高の幸せ者だな」
宏樹がそう告げた時だった。
ふたりの目の前に、白いものがふわりと舞い降りた。
「――雪だ」
宏樹が呟くと、紫織は空を仰いだ。
決して大きな粒ではないそれは、ゆったりと落ち、紫織の手の中で跡形もなく消えてゆく。
「――あっけないね……」
淋しげに言う紫織に、宏樹は「そうだな」と短く答える。
「でも、一粒一粒はどんなに小さくても、降り積もれば辺りを真っ白に染め上げてくれる。儚いようでも、実は結構、雪の花は逞しい存在じゃないかな」
宏樹は紫織の手をそっと取った。あの時と同じ、温かさの中に力強さを感じさせる。
紫織の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。手を通して、宏樹の想いが流れ込むように伝わってきて、胸が熱くなってきた。
「そろそろ行くか?」
紫織の頬に伝う涙を、反対側の親指で拭いながら宏樹が促す。
「うん」
紫織が頷くと、宏樹は手を握ったまま、彼女と共に海岸をあとにした。
何にも染まらない雪の花は、ふたりの髪に、肩に、止めどなく降り続けた。
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