宵月桜舞

雪原歌乃

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第九章 恣意と煩慮

第三節-01

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 重い足取りで公園まで行くと、ちょうど入口手前に一台の車が停まっているのが目に飛び込んできた。白のセダンは藍田個人の車だ。あまり運転しているところを見たことがないが、誰かに運転させて来たのか。
 だが、車の前まで辿り着いてみれば、運転席に藍田本人がいるだけで他には誰もいなかった。
 美咲が来たことに気付いた藍田は、車から降りず、助手席に向けて顎をしゃくる。自分でドアを開けて乗れということだろう。
 美咲は躊躇いながらもドアを開ける。そして、助手席に座ると、ドアを閉めてシートベルトを着用した。
「ほんとに一人で来たんだな?」
 藍田の問いに、美咲は「はい」と短く答える。自分から藍田に話しかけるつもりは毛頭なかった。
「少し疑っていたよ。もしかしたら、彼も着いて来るのではないかと思ったからね」
「――南條さんは今、自分のアパートに戻ってますから……」
「そうか。それは良かった」
 藍田は一人で頷きながら、エンジンをかける。車は少しずつ加速してゆく。
「桜姫はどうしているかね?」
「さあ……」
「何も反応がないのか?」
「彼女は気まぐれですから……」
 いちいち話しかけてくるのが鬱陶しい。本音を言えばだんまりを決め込みたいのだが、沈黙が続くのも怖い。前科があるから、変に気を緩めたりしたら何が起こるか分かったものではない。
「朝霞はどうしてる?」
「元気ですよ?」
「ウチにいる時よりもか?」
「さあ……」
 藍田と狭い空間にいることが息苦しい。これなら、まだ本家にいる方が何十倍も何百倍もマシだと美咲は思った。
 そういえば、藍田には適当に答えたが、朝霞は少しずつ明るさを増しているように見えた。本家から解放されたのはもちろん、理由は他にもありそうな気がする。
(アサちゃん、さり気なく雅通のことを気にしてるよね……)
 朝霞が本家から来た晩、半ば強制的に雅通と二人きりで散歩に出たらしいが、その時から、『瀧村さんって、いい人よね』と不意に口にするようになった。二人の間に何があったかは知らない。だが、朝霞を変えるほどの〈何か〉があったのは確かだ。
 雅通も、朝霞を気にかけている部分があった。もしかしたら、朝霞のこれまでの境遇に同情しているからなのかもしれないが。
(まさか、お互いに好き合ってるとか……?)
 つい、変な勘繰りをしてしまう。だが、二人がもし相思相愛であるなら、それはそれで良いことなのでは、とまたよけいなことを考えてしまった。
(あの二人のことはあの二人の問題だもん。私が首を突っ込んじゃダメだ……)
 そう自分に言い聞かせ、車窓の外に視線を向ける。ほとんどの家庭が寝静まっている時間帯だ。家の明かりもまばらで、だが、そんな深夜にも関わらず、たまに出歩いているヒトがいる。
(こんな遅くに……)
 つい、心の中で突っ込んでしまったが、美咲も同じだと気付き、苦笑いが込み上げてきた。事後報告をすると言われたとはいえ、高校生の娘が家族の許しも得ずに家を出るなんて非常識にもほどがある。普通であれば、あとでこっぴどく叱られる。
(でも、伯父さん相手じゃ何も言えないよね……。お父さんはともかく、お母さんも難しいと思う……)
 改めて、未だに呑気に熟睡を決め込んでいる両親が恨めしい。きっと、貴雄は顔面蒼白になってオロオロし、そんな頼りない夫を理美がピシャリと叱咤する。その後、理美が冷静に――内心では非常に心配していると思いたいが――南條に連絡、という流れになるだろう。以前、美咲が本家に連れ去られた時も同様のやり取りがあったらしい。
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