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主の香りに溺れつつ淫乱は一回目の絶頂を迎える

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何も見えない。何も喋れない。鼻の周辺を除く顔面全体に貼り付けられた黒色の粘着テープによって目と口を塞がれた男は、周囲の様子を伺うことはもちろん抗議の言葉を放つことすらも不可能にされてしまった。
そのテープを剥がそうと思い立っても、剥がせはしない。手首を状態の後ろで交差させた状態に維持させる縄を上半身に着せられた腕では顔面に手を伸ばすことも許されず、足首と太ももを縄で短く括られ窮屈に折り畳んだ形から離れられなくされた足では顔面を絨毯や壁に擦り付けてテープを振り払う試みすらも満足には行えない。
厳重に自由を奪われた男はもう、求められるがままに責め立てられるだけの存在でしかない。手も足も出せず、視覚も言葉も没収された男はもう、自分に拘束を与えた男の思惑に沿って逆らえなくされた裸体を無様な発情に追いやられるだけの幸せな淫乱でしかないのだ。

「んーっ……ふうぅー……っ」

二の腕と胴体を繋ぎ、手首を背中で捻り上げさせる縄が心地良い。足に伸ばすことを禁じる縄が、今の自分の惨めさを絶え間無く思い知らせてくれる。
縄の圧迫が生み出す被虐の至福を貪りながら、男は自身の後頭部を押さえ付ける手の持ち主である愛しい主に抵抗の意思を欠片も示さぬまま、唯一の呼吸孔にされた鼻を嬉しそうに酷使している。
大好きな主の逞しく立派な男根が、テープと衣服越しに顔面へと密着している。自分を幾度となく雌に堕とし幸福を味わわせてくれた男根が、鼻腔を支配し理性を蝕んでくれている。ベッドに腰掛けた主の股間へと顔面を埋め、愛しい男根の匂いを一生懸命に吸入する以外の行動を取らぬよう命令された男は、従順に振る舞い自ら尊厳をかなぐり捨てる行動がもたらす愉悦に浸りつつ息苦しさも酸欠が引き起こす意識の混濁も意に介すこと無く主の男根を夢中で嗅ぐ深い呼吸を繰り返している。

「んっ、ふうぅ……むふ、んうぅ」

ベッドの脇で正座の姿勢を取り、主の股間を覆う真紅のボクサーパンツに隠された男根を吸い続ける男。手足を縛める縄と格闘する素振りすら見せず、後頭部を押さえる主の手を越える力で顔面を男根に押し付けながら、無自覚に腰を揺らめかせつつ淫臭を体内に取り込んでいく男。
その最高に情けなく可愛い痴態を意地悪な主が堪能し始めてどれくらいが経過した頃だろう。男の意識が混濁から朦朧の状態へと変化し鼻呼吸の勢いが憔悴から目に見えて衰えた頃、主の男は残忍に口角を吊り上げつつふと思い付いた次の責めを何の宣告も無しに開始した。鬼畜な主は不自由な裸体でみっともなくヘコヘコと腰を振っている男の動きを罰するという建前を己の胸の内だけで呟きつつ、絨毯の上に置いていた左右の足を浮かせて無防備な男根を、苛め甲斐のある淫乱奴隷の興奮しきった男根を足の裏で挟んでしまったのだ。

「むぐうぅ!? んふ、むぐぅんっ!」

突然に訪れた刺激の追加に、男が困惑色の唸りを発しながら身悶える。しかし、主の男は許可していない勝手な反応を示した男を咎めるように後頭部に添えた両手の力を大きく引き上げ己の男根に顔面を一層隙間無く押し付けさせると、男自身がまだ気付いていない無意識の腰振りで足裏との摩擦が生まれていた男根に追い打ちの責めを、足裏を巧みに動かし男根全体を甘く揉み込む快楽の攻撃を加え始めてしまった。

「んもっ、むふうぅ! ぶふぅ……むぶぅぅんっ!」

縛られた自分では出来ない強さで男根を顔面に押し付けられ、より鮮明に感じられるようになった淫臭と共に更なる息苦しさを感じさせられながら。それまで勃起したまま放置されていた男根をいたぶられ、悦楽によって乱れた呼吸の度に主の男根の香りを堪能させられながら。男は直接触れられない硬く膨らんだ主の男根に頭部を小さく振ってもどかしく顔面をすり寄せつつ、今日一回目の絶頂を主に見えない位置で尻穴をはしたなくヒクつかせながら、迎えていくのだった。
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