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男は火照りに苛まれながら誰にも気付かれぬまま攫われる
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その男を注視すれば、黒いサングラスと白いマスクの下に視界を閉ざし言葉を封じる黒色の粘着テープが貼り付けられていることに気付けるだろう。同様に首元へと注目を寄せれば、ロングコートの襟に隠された黒革の首輪とその後部から伸びた鎖の存在を見付けることが出来るだろう。
だが、人々は誰もそれらの拘束が男を縛めている事実に気付かない。街を行き交う正常な人間達は、すぐ隣を走り信号で停車しているワゴン車の中でありとあらゆる行動を制限された男が救いを求めている可能性を考慮すらしていない。
普通の人間は、他人の車を覗き込みなどしない。常識的な人間は、創作物で見るような危機が真横で発生しているなどと考えもしない。
故に、悪の罠に嵌まり捕獲された無様な男は、車の外で喧騒を作っている街の人々に己の窮地を一切察してもらえぬまま、拘束と共に加えられた悪趣味な苦悶に為す術無く心と身体を痛め付けられ続けていた。
「んぅ、んぐ……むー、ふむうぅぅ……!!」
首から下を覆い隠す薄茶色をしたロングコートの内側で、衣服ごしに施された縄の拘束を軋ませながら必死に声を張り上げても、状況はやはり何も変わらない。二の腕を胴体に繋ぎ左右の手首を背中側で縛る上半身の縄と、左右の足首から太ももにかけてを数箇所に分けてきつく一括りにする下半身の縄を軋ませ、後部座席の背もたれへと結合されている背筋を伸ばした姿勢を強要する首輪の鎖を鳴らしながら唸りを発しても、口内に詰め込まれた布と口に栓をするテープに遮られている状態では窓ガラスを越えることすら叶わない音量の声しか紡げない。
幾ら暴れても無駄。どんなに試行錯誤を重ねても無意味。それらの足掻きで引き寄せられるのは、口のテープを隠すマスクに染み込まされた強力な液体媚薬を余計に体内へと取り込む鼻呼吸の乱れのみ。そんな絶望を改めて思い知らされながら、男は自分を挟む位置に座った敵達と運転席と助手席にいる敵達という合計四人の男に無様な悶絶の様を嘲笑われつつ、わずかな希望すらも跡形も無く叩き潰されていく。
「捜査員さん、もうすぐ高速に乗るぜ? そんで次下りる時はもう……昼間でさえほとんど周りに誰もいない深夜のド田舎だ」
「後悔しないよう、今の内にしっかり騒いでおけよ? 車の外の奴らに、思う存分お願いしろよ?」
「そうそう、犯罪組織にまんまと捕まって、媚薬で情けなく発情させられてるんですーってしっかり周りに伝えな?」
「このままじゃ敵の本拠地で四六時中同じ媚薬を投与されて、一日中発情させられながら淫乱に調教されちゃうんですーってちゃんと伝えないと助けてもらえないよー?」
「んもっ、ぶ、もぶうぅぅ……!!」
笑い混じりに言い渡された淫らで冷酷な結末に戦慄する捜査員が、外部にはやはり届かない哀願の叫びを間抜けに飛ばしつつ一層激しく身悶え始めた光景を愉しみながら、悪の男達は手も足も言葉も出せずにただただ鼻をプスプスと鳴らして発情に狂う滑稽な正義を、真の絶望と地獄が待ち受ける組織の本拠地目指して攫っていくのだった。
だが、人々は誰もそれらの拘束が男を縛めている事実に気付かない。街を行き交う正常な人間達は、すぐ隣を走り信号で停車しているワゴン車の中でありとあらゆる行動を制限された男が救いを求めている可能性を考慮すらしていない。
普通の人間は、他人の車を覗き込みなどしない。常識的な人間は、創作物で見るような危機が真横で発生しているなどと考えもしない。
故に、悪の罠に嵌まり捕獲された無様な男は、車の外で喧騒を作っている街の人々に己の窮地を一切察してもらえぬまま、拘束と共に加えられた悪趣味な苦悶に為す術無く心と身体を痛め付けられ続けていた。
「んぅ、んぐ……むー、ふむうぅぅ……!!」
首から下を覆い隠す薄茶色をしたロングコートの内側で、衣服ごしに施された縄の拘束を軋ませながら必死に声を張り上げても、状況はやはり何も変わらない。二の腕を胴体に繋ぎ左右の手首を背中側で縛る上半身の縄と、左右の足首から太ももにかけてを数箇所に分けてきつく一括りにする下半身の縄を軋ませ、後部座席の背もたれへと結合されている背筋を伸ばした姿勢を強要する首輪の鎖を鳴らしながら唸りを発しても、口内に詰め込まれた布と口に栓をするテープに遮られている状態では窓ガラスを越えることすら叶わない音量の声しか紡げない。
幾ら暴れても無駄。どんなに試行錯誤を重ねても無意味。それらの足掻きで引き寄せられるのは、口のテープを隠すマスクに染み込まされた強力な液体媚薬を余計に体内へと取り込む鼻呼吸の乱れのみ。そんな絶望を改めて思い知らされながら、男は自分を挟む位置に座った敵達と運転席と助手席にいる敵達という合計四人の男に無様な悶絶の様を嘲笑われつつ、わずかな希望すらも跡形も無く叩き潰されていく。
「捜査員さん、もうすぐ高速に乗るぜ? そんで次下りる時はもう……昼間でさえほとんど周りに誰もいない深夜のド田舎だ」
「後悔しないよう、今の内にしっかり騒いでおけよ? 車の外の奴らに、思う存分お願いしろよ?」
「そうそう、犯罪組織にまんまと捕まって、媚薬で情けなく発情させられてるんですーってしっかり周りに伝えな?」
「このままじゃ敵の本拠地で四六時中同じ媚薬を投与されて、一日中発情させられながら淫乱に調教されちゃうんですーってちゃんと伝えないと助けてもらえないよー?」
「んもっ、ぶ、もぶうぅぅ……!!」
笑い混じりに言い渡された淫らで冷酷な結末に戦慄する捜査員が、外部にはやはり届かない哀願の叫びを間抜けに飛ばしつつ一層激しく身悶え始めた光景を愉しみながら、悪の男達は手も足も言葉も出せずにただただ鼻をプスプスと鳴らして発情に狂う滑稽な正義を、真の絶望と地獄が待ち受ける組織の本拠地目指して攫っていくのだった。
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