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1話
1 現在、ここに。
しおりを挟む人は、何を以って〝宿命〟と語るのだろう――。
誰が教えた訳でもなく、季節を知り――花は綻び、草木は緑輝かせる。風が生まれ、流れていく。生命はその子孫を残し、逝く――。
それは、自然の宿命――。
「お久しぶりでございますな――」
そう言いながら奥座敷から顔を出したのは、ここ――厳叡寺の住職だった。年は七十代程だろうか、その顔に刻まれた皺の深さが年の重さを感じさせていた。
住職は、御本尊(阿弥陀如来)に手を合わせ礼拝をすると、先程からこの本堂にいる男の傍らへ歩み寄りゆっくりと腰を下ろした。
「よう、ここが分かりましたなぁ・・・咲弥殿。」
咲弥――そう呼ばれた男は住職の方を向きやって軽く一礼した。
腰の辺りまで伸びた漆黒の髪を束ねたスーツ姿の彼は、清閑な落ち着きを持っている。少し長めの前髪の奥からは切れ長の眸が住職を見やっていた。
「住職もお変わりないようで・・・・安心致しました。」
深く響くようなその低い声――彼はそう言うと優しく微笑んだ。
小高い山奥に建てられたこの寺は、辺りを杉の木で囲まれた所に静かに佇んでいた。
境内には様々な庭木が植えられ、緑が生い茂っている。
雨が少し小降りになってきた――。
木々の枝で雨宿りをしていた鳥たちも次々と羽音を立てながら飛んで行く。
「ところで・・・・、貴殿の主君は見つかりましたかな?」
穏やかな声音で住職は問う。
「・・・はい・・・この町に――」
咲弥はそう応えるとその美しい切れ長の眼を軽く伏せ言葉を濁した。
そんな彼の心境をよく察している住職は、
「そうですか・・・・」
そう言いながらゆっくりと立ち上がると、本堂を出て縁側へ行き境内の景色を見やった。
放課後の校舎は賑やかだ。
友人との会話に夢中になっている生徒や、机に向かい黙々と勉強に集中している生徒の姿。グラウンドでは、部活生たちの掛け声が飛び交っている。その活気溢れる掛け声が校舎に響いていた。
渡り廊下を駆け走り、二階の校舎へ上がる階段を慌てた様子で上がっていく彼の髪がやんわりと揺れる。猫っ毛の柔らかな髪と、まだ何処となくあどけなさが残るその面立ちが合っている。
少し息を切らして彼は二年四組の教室を覗いた。誰かを探しているような様子だ。
彼の名は――荒木 保。
この高校の二年生である。柔らかな髪と、すっとした二重瞼に深い濃紺の眸が印象的な青年だ。
「亮介!」
保は先程から探していた人物を見つけ出すと、教室の入り口からその名を叫んだ。
「わりィ!俺、今からバイト入ったから当番代わってくれ!」
慌てた表情で保が訴えている。
そんな保の様子に少し苦笑いしながら、
「おう、分かったよ!かわりに今度奢れよ!」
そう応えたのは、保の親友――芳賀野 亮介だ。
いつの頃からか・・・・出身中学もクラスも違うが一緒に居ることが多くなって、部活も同じサッカー部ということもあってか、良くも悪くも〝無二の親友〟なのだ。
急いで帰って行く保の背中を見送りながら、亮介の繊細な一重の瞼が微かに笑んでいた。
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