蜩の軀

田神 ナ子

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3話

2 身に覚えないんですけど?

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 ようやく陽が翳り始めた。
時刻は十九時を回っていて、部活練習を終えた部員たちが続々と帰宅の路に付いていた。
 まだグラウンドには疎らに部活生の姿が見られる。
その中に保たちの姿もあった。
夕暮れの刻を告げる蜩が啼いている。
 
 「亮介、俺、今日鍵当番だから、先帰っといて!」
 「了解、じゃあな!」
さすがに夏場の部活は体力を消耗しやすい。
真っ先にみんな手洗い場に向かって頭から行水のように水を被ってる。いつものように俺も水道の蛇口に直行、頭を突っ込んで水浴びだ。
 「・・・ふぅ・・・・」
ボール磨きに最終のグラウンドチェックを終わらせた。
 「おーい!保、急げよ!鍵閉めっぞ!」
 「ちょっ、先輩、待って下さいよ!」
当番は二人組で組まれてる。先に着替えを済ませてた先輩が俺を急かす。
俺は慌ててまた制服に着替える。
 「先輩、早いって!」
 「ばぁか!お前が遅いんだよ!」
愚痴る俺に先輩は意地悪気に笑う。
鍵を閉めたのを確認して、俺は先輩と分かれて自転車置き場へ向かった。

 校舎には所々明かりが灯いてる。
まだ、勉強でもしている奴がいるんだろうな・・・
校庭には箇所、箇所に設けられている外灯の灯りだけが辺りを照らしているだけで、グラウンドのライトも消えた。

 自分の自転車を探し出してそのカゴにカバンを放り込んだ。部活用のバッグはいつものスタイルで肩から下げてる。
 「・・・――― ?」
イヤな気配ってなんかこう察知するんだろう・・・背後に感じた。
振り返ると、そこにはの顔が並んでた。
 「・・・んだよ、お前ら・・・・」
確か――
 二年四組・・・亮介と同じクラスの奴らだ。金髪の髪の奴、ピアスで耳痛くねぇ?って感じの奴もいれば、眉の異様に細い顔立ちの奴・・・・。
 とりあえず学校には姿を見せてるけど教室にはあまり居たところを見たことはない。姿を見せれば教師とのトラブル勃発は当たり前。
 そんな奴らが俺に何の用だ?しかも、俺の周囲を囲むようにして、じわり、じわりと迫ってくるのが分かる。おい、おい・・・それは何だ?どこから持って来たんだ?金属バットを肩に担いでやがる。
明らかに、ヤバそうだよな。
 「何だよ、俺に用かよ・・・・?」
上目遣いに睨みながら俺はちょっと苦笑いする。
 「悪ィな、荒木・・・ちょっと、人に頼まれてよォ・・・・」
その中の一人、金髪の奴が変に笑いながら近寄ってくる。
 (これは・・・やばいっしょ・・・?)
こんな俺でも危機感を感じた。
 次の瞬間、置きっ放しにしてある周囲の自転車に足蹴りをする。数台の自転車が激しい音を立てて崩れた。一瞬、よろめいた奴らの隙を衝いて俺は自転車を勢いよく漕ぎ出した。
 「待てぇ!コラァッ!」
直ぐに態勢を立てなおした奴らは、何かよく分かんねぇけど凄い形相で俺を追ってくる。
(何だよ!何で俺、狙われてんの?意味分かんねぇし!)

 俺は必死で自転車を漕いだ。どの道を通って何処に向かっているかも分からない。ただ、必死に走り続けた。あっという間にその後ろから改造されたバイクに乗った奴らが仲間を相乗りさせて追いついてきやがる。
 (さすがに、チャリじゃ勝ち目ねぇだろうよ・・・・)
そこは俺もばかじゃねぇ、最低限のことは判ってる。自転車だからできるってことはある。細い路地に入り込んでそのまま走り続けた。
 「待て、このヤロ――ッ!」
奴らはイライラしてるようで、バイク音が牙を剥くようにさらに鳴り響く。
 「・・ちッ・・・しつけ―な・・・」
俺もだんだん息が上がってきた。暑い中での部活を終えたばかりだってのに・・・これ以上は体力が持たない。

 頭ん中、整理が付かない状況だけど、とりあえず追いついて来られないよう、俺は細い路地を探りながら走り続けた。どんだけチャリ漕ぎ続けたんだろう・・・眼の前には大きな通りが見えていた。
 「・・・・ふぅ――」
って、一息ついたのも束の間、
 「居たぞ――ッ!」
おい、おい、おい、まるでハイエナじゃん。どっから湧いて出てくんだよこいつら。
 (マジかよ・・・・!)
奴らから振り切ろうと、俺は大きな通りを横断しようとした、その時だった――

 眼の前に車のライトが広がって何も見えなかった。

 キィィィ――ッ!
甲高いブレーキ音が夜の町に響いた。それと同時に金属がぶつかり合う激しい音が耳を衝いた。
 (・・・やべぇ・・・俺・・・・)
躰がまるでくうを舞うかのように数メートル先まで飛ばされていた。何か、スローモーションって感じの光景が俺の視界かな?意識なのかな?見えていた気がする。
 (・・・あ~ぁ・・・・俺のチャリンコ・・・・)
崩れていく鋭い音を上げて路面を滑る。
躰が・・・躰が動かない――。
 (俺・・・どうなってんの・・・?)
通りかかった人たちなんだろう、大騒ぎしてる声が聞こえていた気がする。

その躰からは鮮血が脈打って流れ出し、辺りには血塊が飛散していた。
既に、を轢いた車はその場にはなく、
 「事故だ!誰か、早く救急車を――!」

 意識が遠退いていく――
  (・・・俺・・・このまま、死ぬのかな・・・・)
騒いでいる人たちの声が次第に遠くに聞こえていた。朦朧とする意識の中で俺のただ一つの思いは、
 (・・・・ごめん・・・母さん・・・)

 「保さん――!」
誰かに呼ばれた気がした・・・・。
 薄っすらとした視界には、ただ、影しか映らない。
その後はもう、覚えていない。
でも、何故だろう・・・・懐かしい匂いがした―――。
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