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忍びの境編
エピソード2 美緑
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城中が騒いでいた――。
「曲者を捕らえたぞ―っ!」
城内にその声が響き渡り、地響きのような足音を轟かせて家臣たちが一斉に城の中庭に駆け集まる。
その中央には、両腕を二人の家臣に取り押さえられ頭を垂れて跪いている者の姿があった。その姿、生きているのだろうか・・・・?ピクリとも動かない。
「何をそんなに騒いでおる・・・・」
この騒ぎの中、慌てることもなく奥の間からゆっくりとその姿を現す。
家臣一同がその姿を前に腰を落とし控え伏した。
「清正殿、曲者を捕らえました!」
清正――そう呼ばれたのはこの城の城主、本条 清正だった。
清正は家臣の言葉に動じることもなく、眼の前に跪いている者へ視線をやった。
「おい!清正殿の手前、面を上げよっ!」
家臣の一人が腕を強く引き上げてその頭を上げようとする。
「まぁ、待て、お前たち・・・その手を離さぬか。そこに居るのは犬ではなかろうぞ・・・立派な人の子じゃ。すまなかったな・・・その方、名を何という?」
ゆっくりと縁側から中庭へ降りてきて、清正は穏やかな笑みを浮かべて問うた。
「・・・へっ、俺の名前ねぇ・・・そんなの疾の昔に忘れたな・・・・。」
そう応えながら垂れていた頭を擡げると、清正を睨み据えて口許に不信な笑みを湛えていた。
「貴様っ!清正殿に向こうて、無礼な!」
曲者と呼ばれたその者の言葉に家臣たちが逆上する。
「・・・はっ、はっ、は・・・名を忘れたか――!面白いことを言う奴ぞ!」
一瞬、辺りが静まり返った。
この状況の中、清正の大きな笑い声に周りの者たちは唖然とするしかなかった。
「・・・そうか・・・其方、どうして城へ来た?」
また懲りずに清正は問う。その面持ちには、まるで穢れを知らない子どものような笑顔が浮かんでいた。
「・・・どうしてかって?・・・あんたを、殺しに来た。」
清正の笑い声に負けじと更に力を込めて清正を睨み据えニヤリと笑う。
――ザザザ・・・・・ッ
その言葉に家臣たちが一斉に曲者の周囲を取り囲み、今にも刀を抜かんと険悪な面持ちで身構えている。
「・・・はははっ・・・!そうか、その方、気に入ったぞ!」
――この男・・・・
何故にそうやって笑っていられる?
自分の命を狙われているというのに?
たかが名もない下人だと馬鹿にしているだけなのか?
「・・・その眼を見れば判る――。その深い翡翠の眸・・・・そうだ、お前の名は今日から美緑だ。この五月の美しい緑によう似合うておるぞ!」
声高らかにそう告げると、清正は満面の笑みで迎えたのだった。
「美緑よ、其方は私の弟のようだ。本当の弟ができたようで嬉しいぞ!」
――これが本条 清正との出逢い・・・・・。
「曲者を捕らえたぞ―っ!」
城内にその声が響き渡り、地響きのような足音を轟かせて家臣たちが一斉に城の中庭に駆け集まる。
その中央には、両腕を二人の家臣に取り押さえられ頭を垂れて跪いている者の姿があった。その姿、生きているのだろうか・・・・?ピクリとも動かない。
「何をそんなに騒いでおる・・・・」
この騒ぎの中、慌てることもなく奥の間からゆっくりとその姿を現す。
家臣一同がその姿を前に腰を落とし控え伏した。
「清正殿、曲者を捕らえました!」
清正――そう呼ばれたのはこの城の城主、本条 清正だった。
清正は家臣の言葉に動じることもなく、眼の前に跪いている者へ視線をやった。
「おい!清正殿の手前、面を上げよっ!」
家臣の一人が腕を強く引き上げてその頭を上げようとする。
「まぁ、待て、お前たち・・・その手を離さぬか。そこに居るのは犬ではなかろうぞ・・・立派な人の子じゃ。すまなかったな・・・その方、名を何という?」
ゆっくりと縁側から中庭へ降りてきて、清正は穏やかな笑みを浮かべて問うた。
「・・・へっ、俺の名前ねぇ・・・そんなの疾の昔に忘れたな・・・・。」
そう応えながら垂れていた頭を擡げると、清正を睨み据えて口許に不信な笑みを湛えていた。
「貴様っ!清正殿に向こうて、無礼な!」
曲者と呼ばれたその者の言葉に家臣たちが逆上する。
「・・・はっ、はっ、は・・・名を忘れたか――!面白いことを言う奴ぞ!」
一瞬、辺りが静まり返った。
この状況の中、清正の大きな笑い声に周りの者たちは唖然とするしかなかった。
「・・・そうか・・・其方、どうして城へ来た?」
また懲りずに清正は問う。その面持ちには、まるで穢れを知らない子どものような笑顔が浮かんでいた。
「・・・どうしてかって?・・・あんたを、殺しに来た。」
清正の笑い声に負けじと更に力を込めて清正を睨み据えニヤリと笑う。
――ザザザ・・・・・ッ
その言葉に家臣たちが一斉に曲者の周囲を取り囲み、今にも刀を抜かんと険悪な面持ちで身構えている。
「・・・はははっ・・・!そうか、その方、気に入ったぞ!」
――この男・・・・
何故にそうやって笑っていられる?
自分の命を狙われているというのに?
たかが名もない下人だと馬鹿にしているだけなのか?
「・・・その眼を見れば判る――。その深い翡翠の眸・・・・そうだ、お前の名は今日から美緑だ。この五月の美しい緑によう似合うておるぞ!」
声高らかにそう告げると、清正は満面の笑みで迎えたのだった。
「美緑よ、其方は私の弟のようだ。本当の弟ができたようで嬉しいぞ!」
――これが本条 清正との出逢い・・・・・。
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