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忍びの境編
出逢い
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青々とした竹の葉が風に揺すられ、せせらぎのような音を聴かせてくれる。
その中に、直臣の姿があった。
一本の竹に狙いを定めて弓の鍛練をしている。
幼い頃から弓に興味を持ち、手にしているだけあって、ほとんどの矢が竹の真ん中を射抜いていた。
精神が統一される瞬間だ。
「・・・お見事・・・!。」
背後からの声は判っていた。直臣は射った矢を集めていた。
「直臣、お前、釣りは好きか?」
「釣り・・・?今は暫く、釣りなどしていないが・・・・」
「そうか、それなら・・・」と、ニヤリと笑い、直臣の手を引いて行く。
「な、何だ?美緑・・・・?」
半ば強引に手を引かれながら飼い馬に乗せられた。
「しっかり掴まっとけよっ!」
美緑――直臣とさほど年も変わらないくらいだろう・・・その青年は手綱を取り馬を走らせた。
二人を乗せた馬が颯爽と駆けてゆく。
風が耳許で唸りながら流れる。
直臣は振り落とされまいと必死に美緑にしがみ付いていた。
竹林を駆け抜け山道を走り続けた。
どれくらい走っただろうか・・・・?
美緑は飼い馬の手綱を引き、ゆっくりと歩ませた。
必死にしがみ付いていた躰を起こし、直臣は瞑っていた眼を開いた。すると、そこにはあっという間に川が広がっていた。
「よっしゃぁ!どっちが多く釣れるか、競争だぁ!」
美緑は跳ぶように馬から降りて、直臣に向かって挑戦的な笑みを浮かべる。
――暫く二人は釣りを楽しんでいた。
それよりも、何よりこうして何も考えず、悠々とした川の流れに身を置くと、己と向かい合うことができた。
人間なんて、小さなものだ・・・・。
己の悩みや迷いは、なんと些細な事か・・・・。
「美緑・・・お前は地蜘蛛衆の奴らに親を殺され、憎いと思ったことはないか?怨んで、敵を討とうと思うことはないのか――?」
ふいに、直臣は美緑の顔を覗き込むようにして問う。
悠然たる川の水は深く澄み通り、翡翠色に輝いていた。
そんな川の水面を見つめながら、
「憎くて、憎くて、どうしようもなかった・・・その機会があれば、いつでも――そう思って今でも生きてる。でも、それだけじゃねぇって思うようになった・・・・。今の俺には大事な仲間がいる。その仲間と生きて往くのも悪くねぇかな・・・って。」
美緑は少し照れくさそうに笑った。
そして、「お前も同じだろ?」そう問い返して、直臣を見やる。
〝同じ仲間〟
辛い時も、楽しい時も、全てを共にしてきた・・・・
これ以上、無くすものは何もない。
直臣には、その言葉が嬉しかった。心に、微かな温かいものが燈った気がした――。
いつか自分に語ったことがある――
想いを語るその濃紺の眸に、彼の人の魂を感じた。
「なぁ、美緑・・・・もし生まれ変わることができるのなら、何の柵もない、背負う宿命のない世に俺は生きたい・・・・。」
――本条 直臣との出逢い・・・・。
素性の知れない自分を厳しくも慈しんでくれた。この世になかったはずのこの命を救ってくれた恩人の愛する子。
これを、宿命と託けることはできなかった。
ただ真っ直ぐに、純真に己を生きている本条 直臣――そのものに惹かれたのだった。
その中に、直臣の姿があった。
一本の竹に狙いを定めて弓の鍛練をしている。
幼い頃から弓に興味を持ち、手にしているだけあって、ほとんどの矢が竹の真ん中を射抜いていた。
精神が統一される瞬間だ。
「・・・お見事・・・!。」
背後からの声は判っていた。直臣は射った矢を集めていた。
「直臣、お前、釣りは好きか?」
「釣り・・・?今は暫く、釣りなどしていないが・・・・」
「そうか、それなら・・・」と、ニヤリと笑い、直臣の手を引いて行く。
「な、何だ?美緑・・・・?」
半ば強引に手を引かれながら飼い馬に乗せられた。
「しっかり掴まっとけよっ!」
美緑――直臣とさほど年も変わらないくらいだろう・・・その青年は手綱を取り馬を走らせた。
二人を乗せた馬が颯爽と駆けてゆく。
風が耳許で唸りながら流れる。
直臣は振り落とされまいと必死に美緑にしがみ付いていた。
竹林を駆け抜け山道を走り続けた。
どれくらい走っただろうか・・・・?
美緑は飼い馬の手綱を引き、ゆっくりと歩ませた。
必死にしがみ付いていた躰を起こし、直臣は瞑っていた眼を開いた。すると、そこにはあっという間に川が広がっていた。
「よっしゃぁ!どっちが多く釣れるか、競争だぁ!」
美緑は跳ぶように馬から降りて、直臣に向かって挑戦的な笑みを浮かべる。
――暫く二人は釣りを楽しんでいた。
それよりも、何よりこうして何も考えず、悠々とした川の流れに身を置くと、己と向かい合うことができた。
人間なんて、小さなものだ・・・・。
己の悩みや迷いは、なんと些細な事か・・・・。
「美緑・・・お前は地蜘蛛衆の奴らに親を殺され、憎いと思ったことはないか?怨んで、敵を討とうと思うことはないのか――?」
ふいに、直臣は美緑の顔を覗き込むようにして問う。
悠然たる川の水は深く澄み通り、翡翠色に輝いていた。
そんな川の水面を見つめながら、
「憎くて、憎くて、どうしようもなかった・・・その機会があれば、いつでも――そう思って今でも生きてる。でも、それだけじゃねぇって思うようになった・・・・。今の俺には大事な仲間がいる。その仲間と生きて往くのも悪くねぇかな・・・って。」
美緑は少し照れくさそうに笑った。
そして、「お前も同じだろ?」そう問い返して、直臣を見やる。
〝同じ仲間〟
辛い時も、楽しい時も、全てを共にしてきた・・・・
これ以上、無くすものは何もない。
直臣には、その言葉が嬉しかった。心に、微かな温かいものが燈った気がした――。
いつか自分に語ったことがある――
想いを語るその濃紺の眸に、彼の人の魂を感じた。
「なぁ、美緑・・・・もし生まれ変わることができるのなら、何の柵もない、背負う宿命のない世に俺は生きたい・・・・。」
――本条 直臣との出逢い・・・・。
素性の知れない自分を厳しくも慈しんでくれた。この世になかったはずのこの命を救ってくれた恩人の愛する子。
これを、宿命と託けることはできなかった。
ただ真っ直ぐに、純真に己を生きている本条 直臣――そのものに惹かれたのだった。
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