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9話
招かざる客
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その男が店に来たのは閉店間際の頃だった。
店の前に静かに停まった白いベンツが周囲の視線を集めていた。
中から降り立ったのは中年のやや細面の長身の男。
「お前たちは、ここで待っておけ・・・・。」
そう言い渡し、店内に入っていく――。
その威圧的な雰囲気に息を呑む。
「お忙しいところ申し訳ない、店長は居られるかな?」
男は柔らかい語り口で近くの店員に訊ねた。
店内の奥、事務所の方へ通される。
「店長、お客さんですけど・・・・?」
呼ばれて、事務所のデスクで作業をしていた彼が振り返る。
そこには、見知らぬ顔の男。
「初めまして・・・急にお伺いして申し訳ない。私、安藤コーポレーションの――」
そう言いながら軽く頭を下げ名刺を手渡した。
その名刺に目を通しながら、この店の店長――こと、保の伯父である隆信は怪訝な面持ちで眼を向けた。
名刺には《安藤コーポレーション・社長 安藤伸一》と記されていた。
おおかた見当は付いている。
「・・・貴方がこんな店に何の用で・・・・?」
隆信はそう言いながらも、視線を合わせない。それどころか、またデスクに向かい仕事の残りを急いだ。
そんな彼の様子を、男は落ち着き払った風貌で見ていた。そして、何も言わずデスクの上に静かに一枚の紙を差し出した。
その紙に眼をやった隆信は顔も向けず言う。
「・・・何の真似ですか?」
そう、デスクに置かれた一枚の紙――隆信に渡された小切手だった。
「これで店を空け渡せ・・・と?面白い冗談ですが、私はどんなに金を積まれてもこの店を手離す気はありません。どうぞ、これを持ってお帰り頂きたい。」
はっきりと隆信はそう言い切った。
「・・・・そうですか――」
男はそう言われても顔色一つ変えず、悠揚たる笑みを浮かべて続ける。
「貴方の息子さんも懸命なようですね・・・・。その想いが貴方にも届くことを願っていますよ。」
それから声色を変えて、
「貴方の気持ちが変わった時に、これを使って頂けたら・・・・。」
デスクに置かれたその紙に軽く指先で触れそう言うと、
「では、失礼」と、軽く会釈して店を出て行った。
冷酷さをも漂わせるその容姿の男は、無言のまま後部座席へ乗り込んだ。
白いベンツが商店街を後に夜の闇へと走り去って行く。
店の前に静かに停まった白いベンツが周囲の視線を集めていた。
中から降り立ったのは中年のやや細面の長身の男。
「お前たちは、ここで待っておけ・・・・。」
そう言い渡し、店内に入っていく――。
その威圧的な雰囲気に息を呑む。
「お忙しいところ申し訳ない、店長は居られるかな?」
男は柔らかい語り口で近くの店員に訊ねた。
店内の奥、事務所の方へ通される。
「店長、お客さんですけど・・・・?」
呼ばれて、事務所のデスクで作業をしていた彼が振り返る。
そこには、見知らぬ顔の男。
「初めまして・・・急にお伺いして申し訳ない。私、安藤コーポレーションの――」
そう言いながら軽く頭を下げ名刺を手渡した。
その名刺に目を通しながら、この店の店長――こと、保の伯父である隆信は怪訝な面持ちで眼を向けた。
名刺には《安藤コーポレーション・社長 安藤伸一》と記されていた。
おおかた見当は付いている。
「・・・貴方がこんな店に何の用で・・・・?」
隆信はそう言いながらも、視線を合わせない。それどころか、またデスクに向かい仕事の残りを急いだ。
そんな彼の様子を、男は落ち着き払った風貌で見ていた。そして、何も言わずデスクの上に静かに一枚の紙を差し出した。
その紙に眼をやった隆信は顔も向けず言う。
「・・・何の真似ですか?」
そう、デスクに置かれた一枚の紙――隆信に渡された小切手だった。
「これで店を空け渡せ・・・と?面白い冗談ですが、私はどんなに金を積まれてもこの店を手離す気はありません。どうぞ、これを持ってお帰り頂きたい。」
はっきりと隆信はそう言い切った。
「・・・・そうですか――」
男はそう言われても顔色一つ変えず、悠揚たる笑みを浮かべて続ける。
「貴方の息子さんも懸命なようですね・・・・。その想いが貴方にも届くことを願っていますよ。」
それから声色を変えて、
「貴方の気持ちが変わった時に、これを使って頂けたら・・・・。」
デスクに置かれたその紙に軽く指先で触れそう言うと、
「では、失礼」と、軽く会釈して店を出て行った。
冷酷さをも漂わせるその容姿の男は、無言のまま後部座席へ乗り込んだ。
白いベンツが商店街を後に夜の闇へと走り去って行く。
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