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閑話 『SECOND SEASON』
俺の足ながおじさんはSなんです
しおりを挟む「あ~海、行きて~ぇ!」
それは、亮介のボヤキから始まった。
趣味は“旅行”って言う姉さんが、
「じゃ、みんなで息抜きがてらに行こうか」って段取りし始めた。
気が向けば相棒のバイクで一人旅を満喫してるらしい。
ま、姉さんらしいって言えばらしいけど・・・
「海だったら・・・いいとこ知ってる!老舗の旅館もあるけど、気軽にログハウスってとこもお勧めだけど?」
なんか一人でテンション上がってません?
姉さんの顔が生き生きしてる。
「せっかく行くんだったら海が近くて落ち着くとこがいいわ~ぁ」
また・・・亮介がそんなこと言って姉さんに火ィつけたから、
「部屋、空いてるか聞いてみるね!直臣、あんたも行くでしょ?」
「・・・へ?・・・俺も?」
そういうことになるよね・・・バイトしてやっと金貯めてる俺にとって、旅行なんて遠慮したい。
「貧乏学生にそういうこと聞くぅ?」
「あんたには足ながおじさんがいるじゃない!ね、咲弥!」
お道化てそう言いながらソファに座ってる咲弥に視線を投げた。
ソファに軽く背凭れてた咲弥が、姉さんの言葉に苦笑いして反論する。
「おじさんって言い方はないんじゃないかな?」
「あら、失礼。心外だったかしら?あんたも三十路過ぎていい歳じゃない!」
歯に物を着せぬ言い方・・・。
大抵の人間だったら腹立つ言い方だろうな。咲弥だから、さらっと流せるんだろうけど・・・
いつの日からだろう・・・
気づけばこうやって、別に何かって訳でもないけど、咲弥のマンションが溜まり場になってた。
ただ、同志の顔を見るだけでも安心できたんだと思う。
ま、俺の場合は、半ば強制的に連行されてるようなもんだけど。
あの時の事故以来、俺の後見人は過保護すぎる。
「そしたら、俺が車出すわ!」
もうすっかり行く気満々の亮介が、そっちの段取りを始めた。
「免許持てる歳じゃない学生は法律違反ですけどっ!」
「そんな固いこと言うなってぇ~うちの大事なレディを放っておくわけにはいかねぇだろ?」
皮肉って笑いながらリビングの椅子に座ってた亮介が立ち上がって、
「話がまとまったら連絡くれや。んじゃ、俺、帰るわ」
玄関に向かう。
「あんたたちも一緒に行くでしょ?」
テーブルに置いてた携帯を取り、姉さんも立ち上がって亮介の後を追う。
「お言葉に甘えて・・・じゃぁ・・・」
って言おうとした俺の言葉を遮って、
「仕事の都合をつけてから、保さんと後から行くようにするよ」
穏やかに微笑んで咲弥が応える。
「へ?何で?みんなで一緒に行った方が楽しいだろ?」
「だめ。保さんは私と一緒です。もし、何かあったら、取り返しのつかないことになりますからね」
また・・・そうやって勝ち誇ったように微笑むんだ。
どうせ、何言ったって咲弥には敵わない。
「あ――っ、もう・・・」
ソファに思いっきり躰を預けた。
「はい、はい」って、いつものことだと、亮介も姉さんも何食わぬ顔で帰ってった。
なぁ—・・・こんな時くらい、ちょっとはフォローしてくれよぉ。
「・・・・あぁ・・・また決まったら連絡して」
咲弥がいつものように玄関まで二人を見送る。
玄関のドアが静かに閉まる音が聞こえた。
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