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閑話 『SECOND SEASON』
イチャついてる場合じゃないってね
しおりを挟む部屋へ案内されて荷物の整理もそこそこに、ロビーで待ってた亮介たちと合流して早速、
海へ、GO―――!
時刻は16時を回ってた。
旅館のある山手から下って国道沿いを走って行くと、直ぐ真横に海岸線が見えてきた。
時間は夕方に差し掛かる頃だったけど、まだまだ日差しは暑いっ。
夏休み中ってこともあって、家族連れの姿がちらほら見える。
この時間帯はもう帰る人たちの方が多いかなぁ?
海水浴場の駐車場には浮き輪やビーチボールなんやら、荷物を車に片付けてる親の姿やその傍でテンション上がってワーワー言ってるちびっ子たちがなんだか、微笑ましい。
「後で寄る所があるから別で・・・・」って、
いつもなら咲弥と一緒に行動なんだけど・・・。
俺は亮介の運転するSUV車で海へ向かってた。
慣れた操作で車を停める亮介の姿に、ビミョ—な気持ちだったけど。
久しぶりの海、みんなで楽しめればいっかぁ。
着替えやらの荷物を肩から下げて、俺たちは咲弥の到着を待ってた。
「あれ、持ってきた?」
「準備万端よ――っ!」
亮介が親指を立てて合図する。
これは・・・俺たちだけの秘密ってことでぇ・・・
作戦、練って、今から決行!
「もちろん、姉さんも水着、持ってきたんだろ?」
「あたしはあんたたちの荷物番!」
「せっかく海、来てんのに・・・」
「女子は日焼けしたくないのぉ!」
あ―だ、こ―だって言い合ってる俺と姉さんを呆れ顔で見ていた亮介が、咲弥の車に気づいたらしく手を挙げて合図。
ちょうど、亮介が停めた車の横に黒いLEXUSが静かに停まった。
眼鏡をシャツのポケットにしまい込んで咲弥が降りてきた。
白いシャツにノーネクタイ・・・
おいおい・・・、どう見ても海に行くような恰好じゃねぇだろ?
だろうな、咲弥はアウトドアをエンジョイするタイプじゃねぇ。
そこは重々承知の上。
「さっ、行こうぜ!」
亮介の手にはもちろん!サッカーボールと・・・どっから調達してきたんだよっ!ビーチパラソルが。
そっちも準備万端ってやつ?
姉さんも安心して監視役できるってわけだ。
海水浴場専用の更衣室へ入って着替え。
夕方の時間帯だから人もあまりいないし、何より混雑しないから楽だ。
そんな広くはないけど着替えるのには十分。シャワーも完備されてるからいい。
部室の設備にちょいプラスってな感じかな。
海パンに着替えて脱いだ服をざっとバッグに放り込む。
更衣室の入り口には咲弥と姉さんが待ってる。
「咲弥、ちょっと」
俺は、平穏な表情でいる咲弥を呼ぶ。
「何か?」と言わんばかりの顔つきになって咲弥が歩み寄って来た。
と、同時に後ろから咲弥のシャツの襟足を掴んで更衣室へと引きずり込む。
ムフフフ・・・・・
「お前も、着替えろやぁ」
ニヤリ笑う俺を、引っ張られて少し倒れ気味な体勢の咲弥が、横目で見ながら慌ててた。
そんないつに見ない咲弥の表情にちょっと優越感?っての感じちゃった!
咲弥の背中から両手でシャツを掴んで更衣室へ引っ張り込んだ。
「亮介――っ!」
「あいよ――っ!」
準備万端っ!秘密計画、実行!
亮介が待ってた更衣室に咲弥を押し込んで。
何をされるのかって・・・困った顔つきで咲弥はされるがまま。
(・・・可愛い顔して、この人は・・・・悪魔だ)
何か言いたげ?
そんな顔してるけど、全然、構わない。
手際よく咲弥を全裸にして、亮介に準備してもらってた海パンに着替えさせる。
はい、完了!
これで、海に来たってわけだ!
更衣室から出てきた俺たちを見て、姉さんは笑いそうになる口許にぐっと力を入れてんのが分かる。
ほとほと困った表情で俺たちの後から出てきた咲弥に姉さんが、
「咲弥ぁ!あんた海パン、似合うじゃない!」
今まで見たことがない、いや、これからもたぶん、こんなことは二度と?ないだろう咲弥の、そんな姿もいいもんだ。ってな風で姉さんはニコッって笑う。
「海だぁぁ―――っ!」
視界一面に広がる海に、解放感を感じないわけがない。
亮介と俺は波打ち際まで突っ走った。
ギンギンに照らしてた太陽も少しずつ穏やかになってきてる。
夕方の海もいい――
「この辺りでよろしいですか?姫様」
準備していたパラソルを立てて、咲弥がそう言いながらおどけて微笑む。
「あら、お気遣いありがとう」
それに応えて彼女も優越な笑みを浮かべる。
さすがにこの時間帯は海水浴客はほとんどってほどいない。
目にするのはイチャついてやがるカップルが点々と。それに、イケイケな?感じの兄さんたちが戯れてる。
「咲弥ぁ――っ!お前も来いってぇ!」
呼ばれて渋々、海に向かう。
腰辺りの深さまで浸かりながら俺と亮介は海水、掛け合って遊んでた。
水飛沫が夕日にキラキラ反射してきれいだった。
照り返しの暑さで火照っててた躰も海水で冷やされて気持ちがいい。
浜辺には、荷物の番役(?)で菊千代がパラソルの下で寛いでいた。
苦笑いで海に浸かる咲弥にも二人の戯れの矛先が。
海水を掛けられてその漆黒の長髪が濡れている。
夕日に反映する三人の姿を見つめながら、菊千代は思う。
(たまには、羽目を外すのもいいんじゃない?)
慣れない格好?に、まだ少しぎこちない風でいる咲弥の首に俺は両腕を絡めた。
そして、俺と咲弥のおでこをくっつけて、鼻先が触れるか触れないかの距離で、
「傷のことなんか気にすんなよな・・・」
背中に残る数か所の疵と、それに、肩から手の甲まで浮き上がるように奔る鋭い疵痕が目立ってしまう。
傍から見れば、俗にや○ざさんみたいな?恐ろしく眼を引く疵。
人目を気にしてしまうんだろう。
「保さん・・・・」
咲弥はゆっくりと腰に両腕を回してきて俺を引き寄せる。
「お前らぁ・・・イチャついてる場合じゃねぇぞ。ほれ、姉さん絡まれてっぞぉ――・・・」
まぁ、人目も気にせず、これってイチャついてんのかな・・・。
そんな俺たちを後ろに見ながら、亮介はおでこに手を翳して浜辺の姉さんを窺う。
「お姉さん、一人ぃ?どこから来たの?地元の子ぉ?」
「ん――・・・連れと来てんだぁ――」
苦笑いの彼女の周囲には、五~六人ほどの男の群れが。明らかにナンパだ。
パラソルの中を覗き込んで声を掛けてきた一人は、金髪のその長髪を荒く結んでいる。
しゃがみ込むと親しみやすい笑顔で彼女を誘う。
「俺たちと遊んだ方がずっと楽しいってぇ!地元じゃなきゃ、ここら辺、いいとこいっぱい知ってるからぁ遊ぼっ!」
「オレ、お姉さんみたいな人タイプだわぁ~」って、
その横にまたしゃがみ込んできた二十歳そこそこの、ギラギラにピアスをした、今度は赤毛の男が声を掛けてきた。
「ん―・・・ごめんねぇ。連れを待ってるし」
面倒くさい。早くどっか行って。心の中の呟きが聞こえそう。
きっと、顔に出てるわぁ。
彼女の引き攣った笑顔。
でも、気を悪くさせちゃ気の毒、そんな思いでこの場を何とか凌ごうと考えている。
「・・・・ごめんっ!悪ぃ、姉さん!待たせちゃってぇ!」
の、どんだけでかい声での、威嚇のつもり!
パラソル越しに姉さんの顔を覗き込む。
少し遅れて、亮介と咲弥が到着。
「・・・・この人たち、よくうちの大御所に声、掛けたもんですねぇ」
って、ぼそり、亮介の横で咲弥がそう言って苦笑いしてる。
姉さんに聞こえてるってぇ。後で、何やられっか、知らね―からな。
俺たちの気配っての、に気づいてその群れがこっちに視線を向ける。
眼ぇ合わせたら、一触即発ってな雰囲気ぃぃ。
そん中の一人が、
「おい・・・おい、あいつ、何かやばくね?」
その視線は咲弥へ向けられてた。その腕の傷に。
「そっかぁ――残念。お姉さん、またねぇ――」って、
金髪の奴が手を振りながら去ってく。その後から他の奴らも離れてった。
「大御所って言い方ないんじゃない?」
上目遣いで姉さんが咲弥を睨んでる。
姉さんの眼力に苦笑いしながら、
「すまない」って咲弥が詫びてる。
し—らね・・・。
亮介が持って来てたサッカーボールで遊び始めた。
俺も参戦して、二人して波際で今度はサッカーに熱中。
「じゃ、後は頼んだ。寄る所があるから先に――」
「分かった。気をつけてよ」
用事があるっていう咲弥を見送りながら姉さんが軽く手を振る。
それに応えるようにして咲弥も軽く手を挙げて砂浜を歩いてった。
そんな咲弥の後ろ姿に気づいて、少しだけ視線を向けて俺はまたボールと戯れた。
オレンジ色の夕陽が水平線にその姿を堕とそうとしている。
楽しい時間はどうしてこうも早く過ぎてしまうのか・・・
夕刻に合わせて蜩が切ない声で啼き始めていた――
「ちょっと、タイム!」
亮介とやってたサッカーを切り上げて俺は姉さんの所へ向かった。
寛いでる姉さんの横に座って後ろに両手を着いて海を眺めた。
何か?って思ってる風で姉さんがこちらを覗く。
うん。聞いてみたいことがあるんだ。
「あのさ、旅館にいた奴・・・従業員?かな、俺たちを部屋に案内してくれた奴・・・」
「・・・・あぁ、彌景ね・・・」
(ふ――ん・・・彌景って言うんだあいつ。咲弥と何か話してた感じだったけど、はっきりとは聞き取れなかったし・・・)
「気になってんでしょ?」
そう言いながら姉さんも海の方へ視線を向けた。
そんな姉さんを横に見ながら、どこかで引っ掛かってることを知りたかった。
「・・・・そうね・・・」って、姉さんは遠くを想うように語り始めた。
―――忍びの境の更に秘境と言われる地に、呪術者と相した存在である要と呼ばれる者たちがいた。
その役目は、戦で負った疵を治し、その躰を癒す存在。呪術者である自分たちでさえ容易に近づくことのできない存在。
「彌景はその要の一人。咲弥の要としての役目だったんだ」
「・・・・それって、どういうこと?」
変わらず姉さんは海を見つめたまま、
「・・・直臣・・・あんたの記憶にすら多分、存在しない。要の存在は隠されたもの。その治癒力が世に知られてはどんなことにも利用され兼ねない。だからこそ、あたしたちでさえも立ち入ることはできない聖域で生きてきた者たちなんだ」
要っていう存在のことは分かった。
けど、だから?
「直臣・・・ごめん。これ以上、咲弥の辛い姿、見てらんなかった・・・」
そう言う姉さんが俺の右腕を握って少し俯いていた。
何が?何で?俺の心は余計に理解できなくなった。
でも、彌景という存在が俺の心で蠢いてた。
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