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閑話 『SECOND SEASON』
嘘だろ?! ★
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旅館へ帰って荷物やらを片付けて、俺は亮介と露天風呂に向かってた。
この旅館お薦めの露天風呂があるって、姉さんから聞いて、早速、堪能しようやってことで、
『翡翠の湯』って書かれた木製の立て札の案内に沿って細い山道みたいなとこを歩いてくと古い戸口があった。
外からの見た目と違って、中は以外と現代風に整備されてた。
湯の色は緑がかって見えるけど、中に浸かると無色透明でほとんど匂いもしなかった。さすが、露天風呂って言うだけあって、林?森?ん中に溶け込んだ感じで、見上げる夜空にはたくさんの星がキラキラ降ってきそう。
どれくらい経ったかな?
旅の風情を満喫した俺たちは、旅館の中にある食事処で先に待ってた姉さんと合流した。
客間は個室になってて、家族連れも周りを気にせず寛げるって所。
畳座敷の落ち着いた雰囲気の部屋で、並べられてる料理にはこだわりっての?が伝わってくる感じ。
「こんな贅沢、もうできねぇだろうなぁ・・・」
「ちゃんと働いて、いい給料もらったらまた来れるって!」
亮介が頬張りながら気軽にそう言う。
(そんな日がいつか来るのかな・・・そん時は母さんに楽させてやろう)
そんなことを想いながら俺は少し笑った。
「お前も行く?」
夕食を済ませた亮介が身支度を始めてる。
「どうせ、お前ら飲みに行くんだろ?」
「せっかく来たんだから、楽しまねぇとなっ!」
姉さんと今から夜の宴を満喫しに街に繰り出すらしい。
一応、亮介は未成年なはずだけど・・・?
ほんと、どこまで悪知恵が働くんだか。
「捕まっても知らねぇからな!」
「お前はどうすんの?」
一時、考えた。
夕食の席にも顔を出さなかっ咲弥のことが気になってた。
用があるから・・・って執拗には介入したくないし、かと言って飲みに行くなんてこともできない。
「俺はいいや。ゆっくりしとく」
「ん――分かった。じゃ!」
亮介はルンルンで部屋を出てった。
ま、気をつけて楽しんで来い。
こうやって知らない土地で、しかもこんないい旅館に泊まってゆっくりするのも悪くないか。
もう九時を過ぎてる。
俺と亮介の二人部屋で(そこは正当!)和室の十二畳くらいかな、すでに布団が、四隅、きっちり曲がることなく敷いてある。その奥は出窓みたいになってて、障子が閉められたままだった。
窮屈さを感じて、その障子を開けて窓を全開にする。
ちょうど、そこが腰かけられる幅で、俺は座って外の景色に眼をやった。
夜風が気持ちいい。
山間の土地柄だからなんだろう、エアコンもいらないくらい。
二階のこの部屋からは旅館の庭園が見える。その先に、駐車場が見えてた。
駐車場には、人の背丈ぐらいの灯篭の形をしたライトが均等に点ってる。
その明かりで周りはぼんやり照らされてる感じだった。
車から降りた直ぐの咲弥の傍へ、帰りを待っていたかのように作務衣姿の青年が歩み寄ってきた。
「お帰りなさいませ」
咲弥と向かい合うと軽く頭を下げて挨拶をした。
「・・・・彌景・・・」
少し驚いた風ではあったが、いつもの咲弥だ。
山から降りてくる夜風に漆黒の長髪が揺れている。
「御用は、お済になられましたか?」
青年は真っ直ぐに咲弥を見つめて微笑んで言う。
「・・・あぁ、助かったよ。ところで、旅館に勤めて――?」
優しい穏やかな声音が低く響く。
「はい。旅館の主人と女将は私の義理の親になります。元々、孤児の私を引き取って育ててくれた両親で、その両親の経営するこの旅館の手伝いをしています」
「そうか・・・・」
咲弥の表情も少し和らいでいる。
幾世と継いできた互いの存在を懐かしむように二人は暫し話をした。
夏の虫たちの声が耳に響いてくる。
他には何の音も聴こえないほど静かな夜。
時折、吹いてくる夜風に雑木林の木々がささめいているだけだった。
もうすぐ真上まで登ろうとしている月が、辺りを薄っすらと青白い光で包んでいた。
駐車場の一角で僅かに動く影が眼に留まった。
人影っぽいけど・・・
俺は眼を凝らして見入る。
(・・・・・咲弥?)
はっきりとはしない。だけど、その雰囲気で分かる。
長身にいつもの白いシャツが月の光に浮き出ている。と、もう一人?
「あれから――・・・咲弥様もお変わりないようで・・・・」
と、思いたいところだが、少し不安げな顔つきになって彼は咲弥の手を握り、
「・・・・地蜘蛛衆ですか?」
手の甲に這ったその疵を見てそう言う。
「大丈夫。大したことはないよ」
(私が知っている咲弥様は何一つ変わらないのに・・・この生命力の薄さ・・・・)
そうやって表向きは平然として、変わらずの優しさで、心配させまいとそう言われる。
何故にそこまで命を削られる?
判っている。
きっとあの方の為にと、生きておられるのだ。
彌景は静かに瞼を閉じて軽く一呼吸おくと、その手を握ったまま咲弥を促すかのように牽いて行く。
「・・・・・え?」
思わず勢いよく立ち上がってしまった。
咲弥と見覚えのある身なりの人物。
(あの・・・彌景って奴・・・・?)
どこに行こうと?
咲弥を連れてく?
とっさに俺は部屋から飛び出してた。
何で?それは分からない。
けど、このままじゃいられなかったんだ。
「今宵は立待月ですね――・・・幾夜、こうして月を眺めていたことでしょう。こんなに早くに咲弥様とお逢いすることができて嬉しいかぎりです」
彌景は咲弥の掌をそっと握ったまま振り返りながらそう言って微笑む。
この駐車場の隅に雑木林へと続く舗装されていない道が通っていた。
いわゆる獣道で、覆いかぶさるような木々や、垂れ込んでいる蔓が両側を塞いでいる。
月夜で薄っすらと照らされる山道を二人は何も語らず歩いて行く。
しばらく行くと、左側に小さな御堂が建っていた。
御堂の前には供え物の花や酒、賽銭まで丁寧に置かれている。
咲弥がそれに気づき立ち止まった。
「これは“一願仏”と言いまして、願い事を一つだけ聴いて下さるという仏様が祀られていると、昔から言われております。知る人ぞ知るパワースポットです」
御堂に視線を向けながら彌景はやんわりと笑う。
その言葉を聞きながら咲弥もまた御堂を見やっていた。
そんな咲弥を促すようにして、さらに奥へと彌景が手を牽いて歩き出す。
だいぶ歩いたような感覚だったが、先程の御堂から五分ほど行った先に、湖というほどの大きさではないが、言うならば泉という表現に近いだろう、岩場の中にそれはあった。
「・・・・・ここは?」
咲弥が眼を細めながら辺りを窺う。
「誰一人、この場を知る者はおりません。秘境の地とも言うべき場所です」
眼の前に広がる光景を見ながら、彌景はくすっと笑った。
よくよく見れば、その水面から微かな湯気らしきものが漂っている。
頭上まで昇った月が、水面を照らして深い翡翠色に輝いていた。
「地下から湧き出ている源水が湯になっております。天然の温泉です。ここは――私しか知らない場所です」
そう言いながら彌景は先の岩場へと歩み、何の躊躇いもなく、するりとその作務衣を脱いだ。
透き通るほどに美しいその肌が、青白い月夜に浮き立っていた。
この躰が貴方を癒すのなら、惜しみなく捧げよう・・・貴方の為に――
山ん中に消えてった。どこに?
(何やってんだか・・・俺。咲弥のことなんかほっときゃいいだろ?)
心の中で思うのに、ドキドキが止まらない。
心が矛盾してる。
咲弥のことなんかほっときゃいいって思うのに気になって仕方ない。
別に恋人同士でもないのに・・・・
追っかけて「そいつは誰?」って、問い詰めんの?
追っかけて「何やってる?」って、みみっちく攻めんのか?
どうしたい?って考えてる余裕なんかなくて、追っかけんのに必死だった。
(・・・なんだ、これ?)
通り過ぎようとした横目に何か、ちっこい建物みたいなのが見えた。
とりあえず、勝手に通らしてもらうのも悪いから、俺はそれに向かって一礼してから後を追って走った。
「咲弥様・・・・」
岩場の向こう側の泉から月の光に照らされた彌景が咲弥を呼ぶ。
深い翡翠色の世界の中に、微かに漂う湯気に溶けてしなやかな四肢が誘う。
それに応えて咲弥も岩場へ歩み寄りゆっくりと衣服を落とす。
月の薄明りに二つの影が重なる――
彌景は両腕を咲弥の首に絡ませながらその細く長い大腿を開くと、咲弥のしっかりとした上半身に躰を密着させて口づけをする。
重なったその薄い唇を咲弥の舌先が押し開くと口の中までしっとりとした舌を入れ込んだ。
「・・・は・・っ・・・咲弥・・・様・・・・」
唇と唇の僅かな隙間から官能された吐息の声が聴こえる。
昂っていく気持ちとこれから始まる快感に彌景の躰が震えた。
岩場の陰のちょうど窪んだ所へ咲弥は彌景の躰を預ける。
咲弥の濡れた両手が彌景の大腿をなぞるように広げると、湯の中で解れた菊花が柔らかなその姿を覗かせた。
白く浮き立った彌景の四肢が月の光に映し出された。
「・・・・綺麗だ・・・」
咲弥の響く声が耳許で囁く。
「今宵の月のことでしょう・・・・?」
皮肉って彌景は微かに笑う。
腰辺りまでの深さの泉は、皓々と照らす月をその水面に揺らす。
咲弥は熱く起ちあがった自棒を一気に押し入れた。
「はぁっ・・・!咲弥・・・さまぁっ!」
待ちわびたものが躰全体に奔る。
その快感に彌景は堪らなくなり自ら腰を揺らし始めた。
もっと強さを求めて、咲弥の両手が彌景の腰をぐんと引き寄せると、さらに奥まで突き動かした。
「あぁんっ!あっ、ぁっ・・・咲・・・弥さまぁ・・・はぁんんっ!」
「・・・彌景・・・っ・・・・!」
彌景の達した声を聞きながら咲弥は体内へ放出した。
開かれた菊花の縁から白濁の液が垂れ滴る。
ゆっくりと咲弥は自棒を抜くと、ぴくぴくと反応しながら微かに閉じる菊花を舌先で労わった。
「では・・・咲弥様――・・・」
躰の中にまだ熱く残る咲弥の感覚を残しながら、彌景は咲弥の背後に回ると腰に両腕を絡めた。
誰も行き着くことができない性域――
ただ、高く昇った月だけが二人を見降ろしている。
足に纏わりつく――っ!くっそっ・・・
茂りすぎだろっ、伸びきった草や小枝に躓きそうになりながら少し乱れた息を落ち着かせるのに軽く深呼吸。
(あいつら・・・どこに・・・・?)
薄っすらと届く月明りだけが頼りだ。
何の気配も感じない。
人のいる気配さえも・・・まさか、道に迷った?
半分、不安になりながらも足を進めてくと、林の中に岩場が見えた。
薄暗いからはっきり見えない。眼を凝らしてる俺の耳に・・・
(・・・水の音?)
もう少し先に・・・・
(・・・人の声?)
はっきりしない。
この辺りの雰囲気なのか、風に漂う草木の紛れた音なのか?
岩場の向こう側を確認したくって俺は躰を屈めて廻り込んだ。
!・・・・・
薄い雲に月が隠れてくっきりとは見えないけど、岩場の陰に人影が。
(へ・・・?えっ?)
雲が流れて月がその姿を現した時、俺の眼に映った姿。
岩場の窪みに咲弥が上半身を預けるようにして俯せている。
骨格のしっかりとした全裸の後ろ姿が濃艶を漂わす。
(咲・・・弥・・・?)
近づいてはいるけど距離はある。
それに、水面から浮遊する湯気に視界は霞んでて確信はできなかった。けど、それでも、感覚が分かってる。
その姿に重なるようになってもう一つ影が見えた。
(なに?なに・・・やってんの・・・?)
思わず後退りしてしまった。
その反動で足許の小枝が音を立てた。
(わっ・・・!やべっ・・・・)
とっさに木の影にしゃがみ込んだ。
瞬間、二人の視線がそちらへ向く。
「・・・迷子の仔犬が紛れ込んだかな・・・・?」
咲弥の口許が意味深に笑む。
「ここには誰も近づけないはずですけどねぇ・・・・」
彌景の口許も微かに笑む。
「・・・咲弥様・・・・」
咲弥の腰に絡めた両腕で咲弥の腰を引き寄せると、待ち侘びていた男根をゆっくりと咲弥の体内へ入れていく。
「は・・・っ・・・んん・・・・っ」
秘め事のような快感に漏れる二人の声と重なり合う影が、水面を浮遊する湯気に溶けた。
咲弥の体内に放出した生温い液を滴らせたままの彌景の男根を咲弥の舌が絡めとるように愛撫する。
「あぁぁ・・・んっ!・・・咲弥さ・・・まぁ・・・っ!」
まだ火照り冷めやらぬ躰、彌景の更に達した声がこの青白い闇に広がった。
しゃがみ込んだまま躰が動かない。
(・・・嘘だろ・・・?!)
この状況は何だ?
俺、何してんだ?
覗き見しているような、後ろめたいような、頭ん中、整理がつかない。
姉さんから聞いた――要という存在。
それが、こういうこと――・・・?
どうやって帰ってきたのか記憶がない。
俺、
いつの間にか旅館の駐車場に立ってた。
この旅館お薦めの露天風呂があるって、姉さんから聞いて、早速、堪能しようやってことで、
『翡翠の湯』って書かれた木製の立て札の案内に沿って細い山道みたいなとこを歩いてくと古い戸口があった。
外からの見た目と違って、中は以外と現代風に整備されてた。
湯の色は緑がかって見えるけど、中に浸かると無色透明でほとんど匂いもしなかった。さすが、露天風呂って言うだけあって、林?森?ん中に溶け込んだ感じで、見上げる夜空にはたくさんの星がキラキラ降ってきそう。
どれくらい経ったかな?
旅の風情を満喫した俺たちは、旅館の中にある食事処で先に待ってた姉さんと合流した。
客間は個室になってて、家族連れも周りを気にせず寛げるって所。
畳座敷の落ち着いた雰囲気の部屋で、並べられてる料理にはこだわりっての?が伝わってくる感じ。
「こんな贅沢、もうできねぇだろうなぁ・・・」
「ちゃんと働いて、いい給料もらったらまた来れるって!」
亮介が頬張りながら気軽にそう言う。
(そんな日がいつか来るのかな・・・そん時は母さんに楽させてやろう)
そんなことを想いながら俺は少し笑った。
「お前も行く?」
夕食を済ませた亮介が身支度を始めてる。
「どうせ、お前ら飲みに行くんだろ?」
「せっかく来たんだから、楽しまねぇとなっ!」
姉さんと今から夜の宴を満喫しに街に繰り出すらしい。
一応、亮介は未成年なはずだけど・・・?
ほんと、どこまで悪知恵が働くんだか。
「捕まっても知らねぇからな!」
「お前はどうすんの?」
一時、考えた。
夕食の席にも顔を出さなかっ咲弥のことが気になってた。
用があるから・・・って執拗には介入したくないし、かと言って飲みに行くなんてこともできない。
「俺はいいや。ゆっくりしとく」
「ん――分かった。じゃ!」
亮介はルンルンで部屋を出てった。
ま、気をつけて楽しんで来い。
こうやって知らない土地で、しかもこんないい旅館に泊まってゆっくりするのも悪くないか。
もう九時を過ぎてる。
俺と亮介の二人部屋で(そこは正当!)和室の十二畳くらいかな、すでに布団が、四隅、きっちり曲がることなく敷いてある。その奥は出窓みたいになってて、障子が閉められたままだった。
窮屈さを感じて、その障子を開けて窓を全開にする。
ちょうど、そこが腰かけられる幅で、俺は座って外の景色に眼をやった。
夜風が気持ちいい。
山間の土地柄だからなんだろう、エアコンもいらないくらい。
二階のこの部屋からは旅館の庭園が見える。その先に、駐車場が見えてた。
駐車場には、人の背丈ぐらいの灯篭の形をしたライトが均等に点ってる。
その明かりで周りはぼんやり照らされてる感じだった。
車から降りた直ぐの咲弥の傍へ、帰りを待っていたかのように作務衣姿の青年が歩み寄ってきた。
「お帰りなさいませ」
咲弥と向かい合うと軽く頭を下げて挨拶をした。
「・・・・彌景・・・」
少し驚いた風ではあったが、いつもの咲弥だ。
山から降りてくる夜風に漆黒の長髪が揺れている。
「御用は、お済になられましたか?」
青年は真っ直ぐに咲弥を見つめて微笑んで言う。
「・・・あぁ、助かったよ。ところで、旅館に勤めて――?」
優しい穏やかな声音が低く響く。
「はい。旅館の主人と女将は私の義理の親になります。元々、孤児の私を引き取って育ててくれた両親で、その両親の経営するこの旅館の手伝いをしています」
「そうか・・・・」
咲弥の表情も少し和らいでいる。
幾世と継いできた互いの存在を懐かしむように二人は暫し話をした。
夏の虫たちの声が耳に響いてくる。
他には何の音も聴こえないほど静かな夜。
時折、吹いてくる夜風に雑木林の木々がささめいているだけだった。
もうすぐ真上まで登ろうとしている月が、辺りを薄っすらと青白い光で包んでいた。
駐車場の一角で僅かに動く影が眼に留まった。
人影っぽいけど・・・
俺は眼を凝らして見入る。
(・・・・・咲弥?)
はっきりとはしない。だけど、その雰囲気で分かる。
長身にいつもの白いシャツが月の光に浮き出ている。と、もう一人?
「あれから――・・・咲弥様もお変わりないようで・・・・」
と、思いたいところだが、少し不安げな顔つきになって彼は咲弥の手を握り、
「・・・・地蜘蛛衆ですか?」
手の甲に這ったその疵を見てそう言う。
「大丈夫。大したことはないよ」
(私が知っている咲弥様は何一つ変わらないのに・・・この生命力の薄さ・・・・)
そうやって表向きは平然として、変わらずの優しさで、心配させまいとそう言われる。
何故にそこまで命を削られる?
判っている。
きっとあの方の為にと、生きておられるのだ。
彌景は静かに瞼を閉じて軽く一呼吸おくと、その手を握ったまま咲弥を促すかのように牽いて行く。
「・・・・・え?」
思わず勢いよく立ち上がってしまった。
咲弥と見覚えのある身なりの人物。
(あの・・・彌景って奴・・・・?)
どこに行こうと?
咲弥を連れてく?
とっさに俺は部屋から飛び出してた。
何で?それは分からない。
けど、このままじゃいられなかったんだ。
「今宵は立待月ですね――・・・幾夜、こうして月を眺めていたことでしょう。こんなに早くに咲弥様とお逢いすることができて嬉しいかぎりです」
彌景は咲弥の掌をそっと握ったまま振り返りながらそう言って微笑む。
この駐車場の隅に雑木林へと続く舗装されていない道が通っていた。
いわゆる獣道で、覆いかぶさるような木々や、垂れ込んでいる蔓が両側を塞いでいる。
月夜で薄っすらと照らされる山道を二人は何も語らず歩いて行く。
しばらく行くと、左側に小さな御堂が建っていた。
御堂の前には供え物の花や酒、賽銭まで丁寧に置かれている。
咲弥がそれに気づき立ち止まった。
「これは“一願仏”と言いまして、願い事を一つだけ聴いて下さるという仏様が祀られていると、昔から言われております。知る人ぞ知るパワースポットです」
御堂に視線を向けながら彌景はやんわりと笑う。
その言葉を聞きながら咲弥もまた御堂を見やっていた。
そんな咲弥を促すようにして、さらに奥へと彌景が手を牽いて歩き出す。
だいぶ歩いたような感覚だったが、先程の御堂から五分ほど行った先に、湖というほどの大きさではないが、言うならば泉という表現に近いだろう、岩場の中にそれはあった。
「・・・・・ここは?」
咲弥が眼を細めながら辺りを窺う。
「誰一人、この場を知る者はおりません。秘境の地とも言うべき場所です」
眼の前に広がる光景を見ながら、彌景はくすっと笑った。
よくよく見れば、その水面から微かな湯気らしきものが漂っている。
頭上まで昇った月が、水面を照らして深い翡翠色に輝いていた。
「地下から湧き出ている源水が湯になっております。天然の温泉です。ここは――私しか知らない場所です」
そう言いながら彌景は先の岩場へと歩み、何の躊躇いもなく、するりとその作務衣を脱いだ。
透き通るほどに美しいその肌が、青白い月夜に浮き立っていた。
この躰が貴方を癒すのなら、惜しみなく捧げよう・・・貴方の為に――
山ん中に消えてった。どこに?
(何やってんだか・・・俺。咲弥のことなんかほっときゃいいだろ?)
心の中で思うのに、ドキドキが止まらない。
心が矛盾してる。
咲弥のことなんかほっときゃいいって思うのに気になって仕方ない。
別に恋人同士でもないのに・・・・
追っかけて「そいつは誰?」って、問い詰めんの?
追っかけて「何やってる?」って、みみっちく攻めんのか?
どうしたい?って考えてる余裕なんかなくて、追っかけんのに必死だった。
(・・・なんだ、これ?)
通り過ぎようとした横目に何か、ちっこい建物みたいなのが見えた。
とりあえず、勝手に通らしてもらうのも悪いから、俺はそれに向かって一礼してから後を追って走った。
「咲弥様・・・・」
岩場の向こう側の泉から月の光に照らされた彌景が咲弥を呼ぶ。
深い翡翠色の世界の中に、微かに漂う湯気に溶けてしなやかな四肢が誘う。
それに応えて咲弥も岩場へ歩み寄りゆっくりと衣服を落とす。
月の薄明りに二つの影が重なる――
彌景は両腕を咲弥の首に絡ませながらその細く長い大腿を開くと、咲弥のしっかりとした上半身に躰を密着させて口づけをする。
重なったその薄い唇を咲弥の舌先が押し開くと口の中までしっとりとした舌を入れ込んだ。
「・・・は・・っ・・・咲弥・・・様・・・・」
唇と唇の僅かな隙間から官能された吐息の声が聴こえる。
昂っていく気持ちとこれから始まる快感に彌景の躰が震えた。
岩場の陰のちょうど窪んだ所へ咲弥は彌景の躰を預ける。
咲弥の濡れた両手が彌景の大腿をなぞるように広げると、湯の中で解れた菊花が柔らかなその姿を覗かせた。
白く浮き立った彌景の四肢が月の光に映し出された。
「・・・・綺麗だ・・・」
咲弥の響く声が耳許で囁く。
「今宵の月のことでしょう・・・・?」
皮肉って彌景は微かに笑う。
腰辺りまでの深さの泉は、皓々と照らす月をその水面に揺らす。
咲弥は熱く起ちあがった自棒を一気に押し入れた。
「はぁっ・・・!咲弥・・・さまぁっ!」
待ちわびたものが躰全体に奔る。
その快感に彌景は堪らなくなり自ら腰を揺らし始めた。
もっと強さを求めて、咲弥の両手が彌景の腰をぐんと引き寄せると、さらに奥まで突き動かした。
「あぁんっ!あっ、ぁっ・・・咲・・・弥さまぁ・・・はぁんんっ!」
「・・・彌景・・・っ・・・・!」
彌景の達した声を聞きながら咲弥は体内へ放出した。
開かれた菊花の縁から白濁の液が垂れ滴る。
ゆっくりと咲弥は自棒を抜くと、ぴくぴくと反応しながら微かに閉じる菊花を舌先で労わった。
「では・・・咲弥様――・・・」
躰の中にまだ熱く残る咲弥の感覚を残しながら、彌景は咲弥の背後に回ると腰に両腕を絡めた。
誰も行き着くことができない性域――
ただ、高く昇った月だけが二人を見降ろしている。
足に纏わりつく――っ!くっそっ・・・
茂りすぎだろっ、伸びきった草や小枝に躓きそうになりながら少し乱れた息を落ち着かせるのに軽く深呼吸。
(あいつら・・・どこに・・・・?)
薄っすらと届く月明りだけが頼りだ。
何の気配も感じない。
人のいる気配さえも・・・まさか、道に迷った?
半分、不安になりながらも足を進めてくと、林の中に岩場が見えた。
薄暗いからはっきり見えない。眼を凝らしてる俺の耳に・・・
(・・・水の音?)
もう少し先に・・・・
(・・・人の声?)
はっきりしない。
この辺りの雰囲気なのか、風に漂う草木の紛れた音なのか?
岩場の向こう側を確認したくって俺は躰を屈めて廻り込んだ。
!・・・・・
薄い雲に月が隠れてくっきりとは見えないけど、岩場の陰に人影が。
(へ・・・?えっ?)
雲が流れて月がその姿を現した時、俺の眼に映った姿。
岩場の窪みに咲弥が上半身を預けるようにして俯せている。
骨格のしっかりとした全裸の後ろ姿が濃艶を漂わす。
(咲・・・弥・・・?)
近づいてはいるけど距離はある。
それに、水面から浮遊する湯気に視界は霞んでて確信はできなかった。けど、それでも、感覚が分かってる。
その姿に重なるようになってもう一つ影が見えた。
(なに?なに・・・やってんの・・・?)
思わず後退りしてしまった。
その反動で足許の小枝が音を立てた。
(わっ・・・!やべっ・・・・)
とっさに木の影にしゃがみ込んだ。
瞬間、二人の視線がそちらへ向く。
「・・・迷子の仔犬が紛れ込んだかな・・・・?」
咲弥の口許が意味深に笑む。
「ここには誰も近づけないはずですけどねぇ・・・・」
彌景の口許も微かに笑む。
「・・・咲弥様・・・・」
咲弥の腰に絡めた両腕で咲弥の腰を引き寄せると、待ち侘びていた男根をゆっくりと咲弥の体内へ入れていく。
「は・・・っ・・・んん・・・・っ」
秘め事のような快感に漏れる二人の声と重なり合う影が、水面を浮遊する湯気に溶けた。
咲弥の体内に放出した生温い液を滴らせたままの彌景の男根を咲弥の舌が絡めとるように愛撫する。
「あぁぁ・・・んっ!・・・咲弥さ・・・まぁ・・・っ!」
まだ火照り冷めやらぬ躰、彌景の更に達した声がこの青白い闇に広がった。
しゃがみ込んだまま躰が動かない。
(・・・嘘だろ・・・?!)
この状況は何だ?
俺、何してんだ?
覗き見しているような、後ろめたいような、頭ん中、整理がつかない。
姉さんから聞いた――要という存在。
それが、こういうこと――・・・?
どうやって帰ってきたのか記憶がない。
俺、
いつの間にか旅館の駐車場に立ってた。
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