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18話
その想いを・・・
しおりを挟む祭りのステージでは、様々な催し物が披露され会場を盛り上げていた。
『ここで、この祭りの提供者のお一人であります、安藤コーポレーション・社長、安藤 伸一様よりご挨拶をいただきたいと思います――』
司会者が声高らかに紹介すると、会場からは盛大な拍手がわき上がった。
その拍手の中、ステージ脇に控えていた男が、観客の拍手に応えるように両手を振りながら出てきた。
――安藤・・・・・?
その名を聞いた瞬間だった、
四人の動きが止まった。
そして、四人の視線は一気にステージへ向けられる。
(・・・・安藤・・・っ!)
睨み上げる保の全身が、今にも飛び出していきそうなほどの気に包まれていた。
四人の表情が、一斉に張りつめる。
「皆さん、こんばんは――。今日、こうしてこの祭りが盛大に開催されましたこと、心からお祝い申し上げます。」
安藤社長の挨拶が続けられる。
随一の企業として、今、注目を集めているその企業の社長を前に、町の人々は期待と信頼の眼差しで見つめている。
それもそのはず・・・・
年々、過疎化が進んできているこの町に、新しい風を吹き込んで町を活性化させようと、計画されてきていることを誰が拒もうか――?
でもその中には、美緒の父のように、昔ながらの町を守り続けたいと願い反対する者もいる。
それだけではない・・・本当に〝都市化計画〟が軌道に乗り、成功するという保障はない。
それを容易く受け入れられないからこそ、全面的に信頼できないと反論する人々もいるのだ。
反対派に少しでも理解してもらおうと、機会があれば、様々なイベントなどに、こうして顔を出しては挨拶回りをするのも彼の仕事だ。
「皆さんの町を、皆さんの手で造り上げていく――。そして、誰もが安心して暮らせるよい町を築いていこうではありませんか。そのためには、町の皆さまのお力添えをどうぞ宜しくお願い致します――。」
四方八方を見渡しながら、切々と男は訴える。
その挨拶に、上面だけの誠意と熱意を込めて。
会場の観客からは、割れんばかりの拍手が響いていた。
(どの面下げて、んなこと言ってんだよ・・・・)
保の双眼が、さらに険しくステージの男を睨み据える。
拍手喝采の中、男はまた両手を振って応える。
そうしながらステージから下りてくると、すぐさま、彼の周囲を護衛の者たちが警備する。
男はゆっくりと歩き出し、終始、愛想のいい笑顔を浮かべている。
そんな彼の視界に入り込んできたのは、
「・・・ほぉ・・・これは、これは――皆さんおそろいで。お久しぶりとでも言っておきますかな。」
その四人の姿。
彼らを前に、男は表情一つ変えず、どこか余裕のある素振りでいる。
口許に優越的な笑みを湛えて、
「あなた方にも、ぜひ、賛同いただけるとありがたいことですが・・・・?」
どこまでも強欲で傲慢な心は、その男の眼光に映し出されていた。
「・・・安藤、てめぇ・・・・」
保の躰が今にも男に喰ってかかりそうなのを、傍にいた亮介がその肩をぐっと掴んで抑えた。
「・・・せっかくの祭り、台無しにすんなよな。」
ニヤリ、笑って言い宥める。
そうだ――
今日、この日のためにと、どれだけ日々、練習を重ねてきたか・・・・
保の頭に、美緒の姿が浮かぶ。
それは、美緒だけではない――
今日、今宵の祭りをどれだけの町の人々が楽しみに待っていたことか・・・・
幼き子らの、祭りのにぎわいに喜ぶ笑顔。
己の感情だけで、それを穢してはいけない。
保は、喰らいつきそうなその躰に、ぐっと力を入れて踏み止まった。
そんな様子の保を横目に見ながら、男は再びゆっくりと歩き出す。
その口許には、さきほどからずっと変わらず、冷静でいて高慢な薄笑みを浮かべているのだった。
すれ違いざま、男の双眼が咲弥を捉えた。
「早いうち、手を組んだ方がお主のためぞ・・・・。」
耳打ちするような言い草でそう告げると、男は会場を後にした。
その後ろ姿を、四人は息もつかず見据えている。
この空間に、異様に澱んだ風が吹き抜けていく――
会場の後方は、路線に沿って人の背丈ほどの庭木で造られた垣根で仕切られていた。
路線を挟んでその向かい側もこの会場と同じような敷地で、様々なスポーツができる場所になっている。
美緒の演奏する姿を見ようと、少し遠目からではあったが、会場の後方へと保たちは回ってきた。
ステージからは透き通る楽器の音が、この祭りの熱気を優しく包み込むように聴こえていた。
全ての人々の心に染み入るような、そんな清楚な癒しを奏でているようにも感じられた。
会場中が、その音に心を和ます――
この会場のどこかに来てくれているであろう父にも、この音、この想いは伝わっているだろうか――?
保は眼を細め見守っている。
しばらく演奏を聴いていた保が、ゆっくりと歩き始めた。
流れてゆく風にその柔らかな髪が揺れ、軽く前髪を掻き上げる。
安心した・・・・
あんなに緊張している彼女の顔を見て、内心、心配だった。
でも、
堂々とステージに立つ姿を見て、彼女の奏でる安らぎの音を聴いて、保の内心から心配は消えた。
(厄介者は、消えっかな・・・・)
そう心の中で呟いた。
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