蜩の軀

田神 ナ子

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18話

本物

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ジーンズのポケットに両手を突っ込んでゆっくりと歩いた。

すぐ後ろには咲弥がいる。

 「・・・祭りなんて、何年ぶりだろ・・・・」
 「・・・・そうですね――」

変わらず、穏やかな返事が返ってくる。

 「・・・なぁ、咲弥――、なんでお前さぁ、そんな、髪なげーの?」


あれから・・・これといって咲弥こいつと話すこともなくって。
自然な感じで今に至ってる。


そんなことどうだっていいだろう的なことを不意に聞いてみた。


夜空を見上げてた俺は、ゆっくりと咲弥を振り返る。



素朴で、純真で、素直で。その眸に、

 「こんな髪の長い男、どこにいても目立つでしょう?例えば、人混みの中・・・、こんなに長いと見つけやすいでしょう?」

そう言いながら、

 「どこにいても、すぐに貴方に見つけてもらえるように・・・。」

冗談ぽく微笑む。


――そう、自分だけを見ていてほしい。
どこにいても、どんな時も、すぐに自分を探し出してほしい。
貴方の全てに、自分という存在を灼きつけたい――
それは、深い欲望。


 「・・・いつか、その髪、ぜってぇ~切ってやるよっ。」

そんなこと言われて、いつもなら反発して言い返してやるのに、落ち着いてた。

 「・・・その時は・・・・・」
 「その時は・・・何だよ・・・・」
 「・・・いえ、何でもありません。」

なんか、俺たち、笑ってた。




 祭りも、終盤を迎える――

 「さぁ、いよいよこの祭りの最後を飾るのは、一万発の打ち上げ花火――!会場のみなさん、ご一緒にカウントダウンいきますよ――っ!」

祭りの司会者が、興奮気味に声を高くして言い放った。


 『5、4、3、2、1、―――!』

カウントダウンに合わせて、会場中の設置されていたライトが消えた。
躰の奥から揺るがすような花火の打ち上げ音と共に、闇夜が一瞬にして眩い光に染められていく。

会場からの大歓声――


夜空を彩る鮮やかな花火に、人々は酔いしれる――
それは、一瞬にして消えてゆく、儚いもの。
それ故に、美しく艶やかで、人々の心を魅了する。



 保の足が止まる。

夜空から降り注ぐような大輪の花火を、じっと見上げていた。
その眸は、懐かしい想いを抱いているような・・・
そんな眸をしている。



 「・・・なぁ、菊千代・・・・俺たちこうしてっと、カップルみたいじゃね?」

何を思ったのか、
突然、美緑が横にいた菊千代の肩に腕を回し引き寄せた。
そんな美緑の口許が、茶化すように笑んでいる。

 「なっ、何だよっ!」

慌てた様子で、菊千代はその腕を解こうとする。

 「・・・・ほれ・・・。」

そんな菊千代に、美緑は前にいるを見るように促す。

 「・・・・・?」

菊千代がそう促されて目線を向ける。

 「あいつら・・・本物ほんもんだな――」


菊千代と美緑の視線の先に映る二人の姿――


鮮やかに咲く花火を無我になって見つめている保と、

その傍にそっと寄り添うようにして咲弥が立っている。


だな――

その言葉に頷くように、菊千代も静かに微笑んだ。



二人の間に、言葉はない。
互いに、互いの存在を想うから。


ただ悲しいかな・・・・
二人には、その想いを知る由もなかった。
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