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19話
奇襲
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盛大な打ち上げ花火に余韻を残しつつ、今年の送り火祭は幕を閉じた。
熱気冷めやらぬ中で、人々は祭り会場を後に帰路に着き始めていた。
会場から路上にまでずらりと人の波が蠢いている。
路上に軒を並べている露店も、まだ大勢の客でごった返していた。
――その時だった。
ドォォ―――ン!
激しい爆音と、人々の悲鳴が吹き上がった。
すぐさま、異変を感じとった四人が後ろを振り返る。
その恐ろしい光景に、言葉を失った。
露店からの爆発?
軒を並べている露店が、次々と火柱を上げて燃え広がっていく。
一瞬にして辺りが火の海と化し、その火が飲み込むように人々を襲う。
慌てふためく叫び声と驚愕の中で、我を失い逃げ惑う人々の波が押し寄せてくる。
振り返った先に見たものは――、
燃え上がる炎を掻い潜って、無数もの白い影がこっちへ向かって飛んで来る。
それは、凄まじい勢いで逃げ惑う人々の間を通り抜けた。
瞬間、悶えるような叫び声が上がり、多くの人々が倒れていく。
その躰のあちこちから流血しているのが見える。
「!・・・・なっ、なんだよ、これっ!」
今、眼の前で起きている状況が理解できない。
何が起きてる―――?
俺はただ、この光景を唖然として見てるしかなかった。
瞬時にこの殺気を感じて、菊千代が先導に立って結界を張る。
ドォォォ――ン!
また激しい爆音が響いたのと同時に、無数の白い影が形を成していく。
やがてそれは、牙を剥いて鋭い眼光を奔らせながら、一斉に俺たちに向かって襲い掛かってきた。
「なんなんだよっ・・・・!!」
俺は状況が飲み込めなくて苛立って声を荒立てた。
「あれは弧鬼ってんだよ。ま、言えば、鎌鼬みてぇなもんだな・・・・」
傍に寄って来た亮介の口許は笑ってるけど、前を睨んでる眼には強く光るものを感じた。
「・・・チッ、せっかくの祭り、台無しにしやがって・・・・」
前を睨みながら舌打ちする。
キィィ――・・・ッ!
牙を剥いて襲い掛かろうとする弧鬼が、菊千代の張った結界に正面から体当たりしてくる。
耳を劈くような甲高い奇声を上げ空を激しく旋回する。
「・・・くッ・・・美緑!早くっ!これ以上はもたないっ!」
弧鬼の来襲を防ぐため必死で結界を張り続ける菊千代が、唇を噛みしめながら耐えている。
「保っ!いそげっ!走るぞッ!」
亮介に急き立てられるけど、俺は動こうとしない。
この状況に躰が竦んでる――?
・・・そんなんじゃねぇ
「ふざけやがって・・・罪もねぇ人たちを・・・・」
俺は眼の前の惨劇を睨みながら一気に走り出した。
「うわっ、ばか!保ッ!戻れっ!」
亮介が叫んだのと同時、
「・・・・・くっぅ!」
結界から飛び出した一瞬の隙を突いて、弧鬼が襲ってきた。
「保さん――っ!」
すぐに咲弥が盾になるようにして俺の眼の前に。
灼けるような痛みを覚えて、左腕を押えた指の間から、血が流れ落ちてる。
痛みに耐えながら前の光景に眼をやると、炎と黒い煙の中から人影が・・・?
咲弥が何かの気配を感じたらしく、前を睨んでいる。
「・・・雪彦・・・・・」
低い抑えた声がその名前を呼んだ。
影の正体を、咲弥は知ってる・・・?
その影がはっきりとした時、
黒いスーツに身を包んだ男が俺たちの前に立ってた。
(・・・んだ・・・こいつ・・・・!)
見下したような眼つきで、不快な笑いを浮かべてやがる。
――雪彦・・・咲弥がそう呼んだ男。
地蜘蛛衆・頭領――棕玄の右腕とも言われる男。
この弧鬼を自在に操ることのできる呪術を持つ。
「咲弥、お前に用はない。直臣の首、この私が捕ってゆくぞっ!」
厚みのある深い声が、威圧感を与える。
その威圧にも怯むことなく咲弥は、
「これ以上の手出しはさせぬ・・・・」
躰中に響くような低い声で静かに言い告げる。
瞬間―――、
咲弥の躰から気が溢れ、結わえた長髪が緩やかに揺れる。
その両眼はいつか見た時の――銀色に変わってた。
「咲・・・弥?!」
いつにない咲弥の雰囲気を察した。
自分を呼ぶその声に、
「・・・・大丈夫――」
それだけ言うと、いつものあの微笑みを浮かべてた。
そしてすぐ、前の雪彦に視線を返して、
「美緑、保さんを頼む。」
咲弥に応えて、亮介はニヤリって笑って、
「保、急げっ!走るぞ!」
俺の肩を掴んで走り出す。
「ちょっ、ちょっと待てって・・・ッ!」
引っ張られるようにして急かされるから躰がよろめく。
「待てって!咲弥が・・・っ!」
「心配すんなって!あいつの力は半端ねぇ。俺たちとは比べもんになんねぇんだよッ!」
亮介はまたニヤリって笑う。
亮介に腕を引っ張られながら、遠くなってく咲弥の背中を睨んでた。
「菊千代・・・呼べるか――?」
咲弥が背後にいる菊千代に言う。
落ち着いた、それでいて張りのある低い声が届いて、
菊千代はその声に頷くと、ゆっくりと瞼を閉じ気を集中し始める。
気が躰を包み込み、風が沸き上がる。
「我が名に於いて、その御霊を我が身の力とせん――!」
力強く告げた時、
沸き上がった風が一気に勢力を成して天へと吹き昇っていく。
風が雲を呼び、やがて雨を降らす。
次第に雨は強くなり辺りが霞んで見えている。
強い雨に勢いのあった炎が少しずつ衰え始めていた。
「ふん、さすがは・・・尋常一様とはいかぬ・・・か。ならば、お主らの首を捕るまで!」
鼻であしらう雪彦の躰から気が立ち昇り、無数もの孤鬼は巨大な弧鬼へと姿を変える。
――ドォォォン!
躰を貫く空音と共に、地面が大きく揺れ動く。
「これ以上、お前たちの好きにはさせぬぞ・・・・」
そう言って静かに瞼を閉じて立ちはだかる咲弥の全身に気が溢れる。
――これ以上、犠牲にしてはいけない。
――貴方を傷つけてはいけない。
(・・・・保さん――)
カッ、と見開いた咲弥の両眼に鋭い光が奔る。
咲弥の躰から放たれた気が昇天し、四方を包み込んでいく。
「我が名に於いて、その御霊を我が身の力とせん――」
静かにそう告げると、同時に咲弥の躰からうねりを上げて気が放たれた。
―――ゴォォォ・・・・・ッ
空間と空間が裂けていく――
「・・・くっ・・・・ぅ」
激しい耳鳴りが襲ってきた。
そのキツさで唇を噛み締める。
亮介に半分、強制連行で引っ張られながら走ってきた後を振り返ったけど・・・
もうその先は見えない。
まだわずかに残る炎と、空を覆うほどの煙が遠くに見えてた。
(・・・咲弥・・・・・)
――大丈夫・・・・
――なにがだよ!
自分を守ろうと、心配させないように、って咲弥の微笑んでた顔が浮かんできて、
そうやって、いつも自分を犠牲にして・・・
そうやって、いつも微笑んでればいいのかよ・・・?
(だったら・・・だったら、そんな悲しい顔して微笑むなよ・・・・)
きつく瞼を閉じた。
――この名を呼ぶ、その眸に、その声に・・・・
想いは募る・・・・
――触れた指先に、肌に、唇に・・・・
いつしか、想いは爆ぜる・・・・
―――傍にいるから・・・・
―――傍にいて欲しい・・・・
熱気冷めやらぬ中で、人々は祭り会場を後に帰路に着き始めていた。
会場から路上にまでずらりと人の波が蠢いている。
路上に軒を並べている露店も、まだ大勢の客でごった返していた。
――その時だった。
ドォォ―――ン!
激しい爆音と、人々の悲鳴が吹き上がった。
すぐさま、異変を感じとった四人が後ろを振り返る。
その恐ろしい光景に、言葉を失った。
露店からの爆発?
軒を並べている露店が、次々と火柱を上げて燃え広がっていく。
一瞬にして辺りが火の海と化し、その火が飲み込むように人々を襲う。
慌てふためく叫び声と驚愕の中で、我を失い逃げ惑う人々の波が押し寄せてくる。
振り返った先に見たものは――、
燃え上がる炎を掻い潜って、無数もの白い影がこっちへ向かって飛んで来る。
それは、凄まじい勢いで逃げ惑う人々の間を通り抜けた。
瞬間、悶えるような叫び声が上がり、多くの人々が倒れていく。
その躰のあちこちから流血しているのが見える。
「!・・・・なっ、なんだよ、これっ!」
今、眼の前で起きている状況が理解できない。
何が起きてる―――?
俺はただ、この光景を唖然として見てるしかなかった。
瞬時にこの殺気を感じて、菊千代が先導に立って結界を張る。
ドォォォ――ン!
また激しい爆音が響いたのと同時に、無数の白い影が形を成していく。
やがてそれは、牙を剥いて鋭い眼光を奔らせながら、一斉に俺たちに向かって襲い掛かってきた。
「なんなんだよっ・・・・!!」
俺は状況が飲み込めなくて苛立って声を荒立てた。
「あれは弧鬼ってんだよ。ま、言えば、鎌鼬みてぇなもんだな・・・・」
傍に寄って来た亮介の口許は笑ってるけど、前を睨んでる眼には強く光るものを感じた。
「・・・チッ、せっかくの祭り、台無しにしやがって・・・・」
前を睨みながら舌打ちする。
キィィ――・・・ッ!
牙を剥いて襲い掛かろうとする弧鬼が、菊千代の張った結界に正面から体当たりしてくる。
耳を劈くような甲高い奇声を上げ空を激しく旋回する。
「・・・くッ・・・美緑!早くっ!これ以上はもたないっ!」
弧鬼の来襲を防ぐため必死で結界を張り続ける菊千代が、唇を噛みしめながら耐えている。
「保っ!いそげっ!走るぞッ!」
亮介に急き立てられるけど、俺は動こうとしない。
この状況に躰が竦んでる――?
・・・そんなんじゃねぇ
「ふざけやがって・・・罪もねぇ人たちを・・・・」
俺は眼の前の惨劇を睨みながら一気に走り出した。
「うわっ、ばか!保ッ!戻れっ!」
亮介が叫んだのと同時、
「・・・・・くっぅ!」
結界から飛び出した一瞬の隙を突いて、弧鬼が襲ってきた。
「保さん――っ!」
すぐに咲弥が盾になるようにして俺の眼の前に。
灼けるような痛みを覚えて、左腕を押えた指の間から、血が流れ落ちてる。
痛みに耐えながら前の光景に眼をやると、炎と黒い煙の中から人影が・・・?
咲弥が何かの気配を感じたらしく、前を睨んでいる。
「・・・雪彦・・・・・」
低い抑えた声がその名前を呼んだ。
影の正体を、咲弥は知ってる・・・?
その影がはっきりとした時、
黒いスーツに身を包んだ男が俺たちの前に立ってた。
(・・・んだ・・・こいつ・・・・!)
見下したような眼つきで、不快な笑いを浮かべてやがる。
――雪彦・・・咲弥がそう呼んだ男。
地蜘蛛衆・頭領――棕玄の右腕とも言われる男。
この弧鬼を自在に操ることのできる呪術を持つ。
「咲弥、お前に用はない。直臣の首、この私が捕ってゆくぞっ!」
厚みのある深い声が、威圧感を与える。
その威圧にも怯むことなく咲弥は、
「これ以上の手出しはさせぬ・・・・」
躰中に響くような低い声で静かに言い告げる。
瞬間―――、
咲弥の躰から気が溢れ、結わえた長髪が緩やかに揺れる。
その両眼はいつか見た時の――銀色に変わってた。
「咲・・・弥?!」
いつにない咲弥の雰囲気を察した。
自分を呼ぶその声に、
「・・・・大丈夫――」
それだけ言うと、いつものあの微笑みを浮かべてた。
そしてすぐ、前の雪彦に視線を返して、
「美緑、保さんを頼む。」
咲弥に応えて、亮介はニヤリって笑って、
「保、急げっ!走るぞ!」
俺の肩を掴んで走り出す。
「ちょっ、ちょっと待てって・・・ッ!」
引っ張られるようにして急かされるから躰がよろめく。
「待てって!咲弥が・・・っ!」
「心配すんなって!あいつの力は半端ねぇ。俺たちとは比べもんになんねぇんだよッ!」
亮介はまたニヤリって笑う。
亮介に腕を引っ張られながら、遠くなってく咲弥の背中を睨んでた。
「菊千代・・・呼べるか――?」
咲弥が背後にいる菊千代に言う。
落ち着いた、それでいて張りのある低い声が届いて、
菊千代はその声に頷くと、ゆっくりと瞼を閉じ気を集中し始める。
気が躰を包み込み、風が沸き上がる。
「我が名に於いて、その御霊を我が身の力とせん――!」
力強く告げた時、
沸き上がった風が一気に勢力を成して天へと吹き昇っていく。
風が雲を呼び、やがて雨を降らす。
次第に雨は強くなり辺りが霞んで見えている。
強い雨に勢いのあった炎が少しずつ衰え始めていた。
「ふん、さすがは・・・尋常一様とはいかぬ・・・か。ならば、お主らの首を捕るまで!」
鼻であしらう雪彦の躰から気が立ち昇り、無数もの孤鬼は巨大な弧鬼へと姿を変える。
――ドォォォン!
躰を貫く空音と共に、地面が大きく揺れ動く。
「これ以上、お前たちの好きにはさせぬぞ・・・・」
そう言って静かに瞼を閉じて立ちはだかる咲弥の全身に気が溢れる。
――これ以上、犠牲にしてはいけない。
――貴方を傷つけてはいけない。
(・・・・保さん――)
カッ、と見開いた咲弥の両眼に鋭い光が奔る。
咲弥の躰から放たれた気が昇天し、四方を包み込んでいく。
「我が名に於いて、その御霊を我が身の力とせん――」
静かにそう告げると、同時に咲弥の躰からうねりを上げて気が放たれた。
―――ゴォォォ・・・・・ッ
空間と空間が裂けていく――
「・・・くっ・・・・ぅ」
激しい耳鳴りが襲ってきた。
そのキツさで唇を噛み締める。
亮介に半分、強制連行で引っ張られながら走ってきた後を振り返ったけど・・・
もうその先は見えない。
まだわずかに残る炎と、空を覆うほどの煙が遠くに見えてた。
(・・・咲弥・・・・・)
――大丈夫・・・・
――なにがだよ!
自分を守ろうと、心配させないように、って咲弥の微笑んでた顔が浮かんできて、
そうやって、いつも自分を犠牲にして・・・
そうやって、いつも微笑んでればいいのかよ・・・?
(だったら・・・だったら、そんな悲しい顔して微笑むなよ・・・・)
きつく瞼を閉じた。
――この名を呼ぶ、その眸に、その声に・・・・
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