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19話
微笑んで、そして「大丈夫」なんて・・・言うなよな。
しおりを挟む主のいない部屋―――
規定の場所に片付けられている数多くの書物や私物。
部屋の隅や棚に置かれている観葉植物は、ただ静かに、主の帰りを待っていた。
それは、彼らも同じだった。
キッチンカウンターに並べられた椅子に座って、背中をカウンターに持たれかけてる亮介は、
さっきから携帯を弄ってる。
リビングの黒いソファに座って、俺は硬く拳を握り締めたまま足許を睨んでた。
ずっと落ち着かないのが自分でも伝わってくる。
その右隣のソファの端に腰かけてた姉さんがテレビの電源を入れた。
「・・・・見て――」
姉さんの抑えた口調に、俺たちも画面に視線を向ける。
そこに映し出されてたのは、昨夜の祭りでの事件の様子だった。
『昨夜、瀬ノ杜市で行われました〝送り火祭〟での爆発事件で、観客・関係者らを含む約百十六名の死傷者が、今現在、確認されているようです。警察、消防によります調査では、屋台からの出火が原因ではないか、と視られていますが、まだ、はっきりとした原因は分かっておらず、原因究明を急いでいるとのことです。』
ニュースキャスターが深刻な面持ちで報道してる。
どのチャンネルに切り替えても、昨夜の事件の報道ばかりだ。
俺は画面を睨みつけてた。
多くの人々の命を奪い、恐怖に陥れた―――
その惨劇を眼の当たりにして、自分には何もできなかった。
そんな自分が憎らしくて、腹立たしくて、どうしようもないほど胸の奥が苛立ちでいっぱいだった。
それに、この苛立ちは・・・
夜通し待ってる。
この部屋の主は、まだ帰らない。
(大丈夫・・・・)
そう言ったのに。
そう微笑んで。
「・・・地蜘蛛衆の奴ら・・・・」
押し殺した声で姉さんはそう呟くように言い捨てて電源を切った。
また、この部屋に静寂が戻る――
「・・・んな、心配すんなって。言っただろ?咲弥の力は俺たち以上なんだって・・・・。咲弥ならそのうち帰って来るってぇ。」
この静寂を掻き消すような明るい声のトーンで亮介は言う。
この重い空気に少し呆れたような薄笑いを浮かべて。
「でも・・・、これだけは言っておく・・・・。」
さっきとは違う重い声のトーンになった。
「確かに、咲弥の力は俺たちとは比べもんになんねぇ。咲弥は半端ねぇ力を持ってる。けど、咲弥がその力を使えば使うほど、咲弥の――橘 義明の躰はもたなくなる・・・・」
「・・・・・・・・?」
亮介の言葉に、今まで落としてた視線を上げて俺は理解できずに亮介を睨んだ。
「・・・どういうことだよ?」
今までのおちゃらけた亮介の表情じゃなかった。亮介は俺をしっかりと見て、
「普通の人間にはねぇ力を使うってことは、その分、その躰にリスクを負うことになる・・・つまり――寿命を縮めるってことだな・・・」
何・・・?
そんなこと・・・・
「・・・亮介、お前たちもなの?」
声を詰まらせ気味に訊ねる。
「そうだな・・・咲弥よりはまだマシかな。」
そうやって応えた亮介は、冗談めいて鼻先で笑った。
何一つ言わない・・・
その命を削ってまでも・・・
そんなこと、誰も願ってない!
(なにが・・・なにが・・・大丈夫だよ・・・・)
また俺は足許に視線を落として凝視したままでいる。
膝の前で組み合わせた両手の指先が、その手に食い込むくらい力強く握り締めてた。
「・・・ちょっと待ってろ」
亮介はそう言って軽く一息ついたら部屋を出てった。
変わらず、足許を凝視したままの俺。
ほんの数分後くらい。
すぐに戻ってきた亮介はサッカーボールを抱えてた。
だいぶ使い込んでいるらしい物。
「・・・少しは気晴らしにでもなるんじゃね?」
そう笑って持ってたボールを投げ渡してきた。
とっさの反応で俺はそれをキャッチする。
「いつまでも考えてたって何にもなんねぇしな。俺、今日、鍵当番だから練習行くけど――?ま、気が向いたら出てこいや。」
塞ぎ込んでいる俺の心境を察してだろ、それ以上亮介も立ち入らない。
心許せる親友だから、相手の気持ちは分かってる。
「じゃぁな。」って、さらりと言い残して亮介は部屋を出てった。
そんな亮介を呆気にとられて見てた俺は、少し口許が和らいだ。
それが、亮介なりの励まし方ってやつ?
手許のサッカーボールに視線を戻してそれを見入ってた。
「・・・・直臣――」
姉さんがそっと名を呼ぶ。
その声に、少し視線を向けた。
「直臣――、あんたが何を想ってどう生きていくかは、あんた自身のこと。だけど・・・だけど、もう独りで往かないで・・・。あんたは独りじゃないんだから・・・。それに、大切な人を守りたいって想う気持ちはどんな人間も変わらない――」
姉さんはそう言って自分の想いを伝えてくれた。
「美緒ちゃんや、あんたが大事に想う人たちのことは心配しなくていい。あたしらがちゃんといるから・・・・。」
姉さんは、穏やかに微笑んで俺を見てる。
「それに――」って付け加えて、遠くを想うように視線を空に向けて、
「・・・・似てるんだ・・・・あの方に――」
そっと笑う姉さんの横顔がどこか切なく感じた。
「・・・直臣、自分の想いにだけは後悔しないでほしい。あんたが心から大切だと想うもの・・・それを信じて――」
そう言う姉さんの想いが、俺の心につっかえてる何かに波紋を広げた。
自分の生き方に、
自分の想いに、
後悔はしたくない。
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