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21話
訃報
しおりを挟む蜩の澄んだ啼き声が、遐くに聴こえた。
明け方、薄暗い景色の中に、昨夜の雨跡が残っていた。
まだ、街は眠っている――
安らかな寝息だけが、部屋に漂っている。
肌に触れる互いの温もりに安心感を覚えながら眠った。
ようやく、心のわずらいが解けた。
ずっと、こうして眠っていたい――
ささやかな願いを摧くように、その報せは届いた。
明け方の静かな部屋に、突然、携帯の着信音が鳴り響く。
二人の躰がピクリと反応する。
着信が届いたのは、保の携帯だった。
枕許に置いていた携帯へ手を伸ばし、ゆっくりと起き上がった保が、くしゃくしゃっと髪をかいて電話に出る。
「――あ・・・・何?」
無愛想な応答の相手は、母親からだった。
こんな時間に?
その傍らで、咲弥が軽く上半身を起こしながら不審な面持ちで保を見つめている。
「・・・・・・・・」
電話に出たきり、保の声が止まった。
うつむいたままで動かない。
それから、
「・・・・・分かった・・・・・。」
低く抑えた声は、そこで途切れた。
携帯を握っていた手は、気力を失ったようにブランケットの上へ落ちた。
「・・・保さん・・・・?」
そんな保の様子を心配して、咲弥が名を呼ぶ。
うつむいた保の頬を柔らかな髪が隠す。
その横顔に触れられぬほどの翳を落として・・・・
しばらくして、やっと届いた保の、声にならない声。
震えている?
それでも、感情を押し殺そうと扼えている声音が掠れていた。
「・・・・伯父さんが・・・亡くなった・・・・って・・・・」
突然の母からの電話・・・・
聞こえてくる母の声は、涙声で震えていた。
これは、夢でないことは、聞き慣れた母の声音で伝わっていた。
それでも――、
保には、現実には感じられなかった。
遥然とした空間の中に堕とされた、そんな状況にいるような気がして。
現実を、信じたくなかった。
それでも――、
夜は、曙ける―――
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