63 / 67
22話
なんとかなるだろ。
しおりを挟む「頼みがある」と保に言われ、
和弘は車で約二時間半、贔田町という小さな町に保を乗せて来た。
昔ながらの――、この言葉そのものの田舎町だった。
見渡す四方には深い青色をした山々が峙っている。
その麓には水田が広がり、翠緑の稲が夏風に波打つように揺れていた。
ずっと気になっていた――
「・・・保、こんな町に用か何かあるのか?」
嘉井駅まで――と、保に言われるがまま送り届けた和弘だが、解せない表情で問う。
駅といっても無人駅・・・利用する人はいるのか、と思うくらい小さな駅だった。
和弘の車から下りると窓越しに覗き込んで、
「・・・うん、ちょっと・・・・。和弘兄さん、ありがと。また連絡するよ。」
葬儀、火葬を済ませて一段落はしたものの、何かと遺族は忙しい。
そんな中、自分の頼みに付き合わせてしまったことを悪く思いながら、保は控えめな笑顔で片手を軽く上げて歩き出した。
歩いて行く保の後ろ姿を心配気に見やる兄が窓越しに、
「保、帰りはどうすんだよ?」
「友達に連絡すっから、大丈夫!」
心配する兄を気遣って、両手を振り笑顔で保は応えた。
――いつまでも変わらない純な笑顔・・・・
変わらないと思っているだけで、いつの間にか大人になっていくその後ろ姿・・・・
「・・・ったく・・・保の奴・・・・」
後ろ髪を引かれる思いで和弘は車を出した。
田舎町の――青と緑の景色の中を、白いスポーツワゴン車が走っていく。
そう――、この町に来たのは、自分自身に決心が着いたから。
以前、咲弥のマンションで、PCのネットで調べた〝本条 直臣〟の生涯――
そして、自分の父、母を祠っていると云われる祠堂があると・・・・
せめて、今こうして生きているうちに一度は逢っておきたかった。
その姿に逢えるわけでも、何か意味があるわけでもないのだが、自分が今、現世に生きていること、生かされていることを感謝したかった。
全く知らない田舎道を歩いてきた。
何とかなるだろう――持ち前の・・・無茶ぶり精神。
肌を射すような暑い陽射しに汗が止まらない。
その汗を手の甲で拭きながら、俺は空を仰いだ。
夏の真っ青な空は、どこまでも、どこまでも高くて、沸き上がってくる白い雲が眩しかった。
この夏は、もう二度とこない。
この空も、雲も、風も、絶え間なく啼き続ける蝉の声も・・・・
同じ夏は、何度生まれ変わろうが、二度とこない。
だから――、悔いのないように生きよう。
そう、決心した。
通りすがりに出会った町の人に、祠堂のことを訊ねてみた。
農作業の帰り?
だいぶおじいちゃんな感じで、その人は何度も何度も俺を不審そうに見ながら祠堂があるとこの行き道を教えてくれた。
こんな若い奴が何しに?
しかも、祠堂なんてあまり人にも知れてない所に何の用があってだろうって不思議そうな顔してた。
教えてもらった行き道を思い出し、思い出ししながら、立ち止まっては周りを見渡してみたり・・・
「・・・ほんとに、こんなとこにあんのかょ・・・・」
とにかく歩いて来た。
暑さの中で少しぼ―っとしてきた視界の先に、小高い山が見えた。
「あ・・・あれだ・・・・」
ここまで、三十分くらいは歩いたかなぁ。
『先に行けば小さな山が見えてくるから、その山の細い道――と言っても、獣道みてぇな、道といわん道だがな・・・・その道なりに歩いていけば小さな祠があるから。』
さらに、ここから――?
うんざりする思いもあったけど、気合い入れなおして・・・・
山の中は涼しかった。
木々に覆われてるから、照りつける陽射しは和らいでた。
空から降りてくる風に擦れる葉音が、せせらぎみたいで涼しさを感じさせてる。
悠々と立ち上がってる木々を見上げて、俺は大きく息を吸いこんだ。
(・・・・気持ちいい・・・・)
時間の流れなんかほんの小さなことのようだ。
自然の雄大さってのかな、肌に感じる。
何気なくジーンズの後ろポケットに入れてた携帯を手に取った。
携帯の画面は夕方の時刻を表示してる。
それと、
着信が届いてた。
それも、何度も。
相手は分かってる。
気づいてはいたけど、あえて連絡はしない。
声を聞けば心が折れそうになりそうだから・・・
また、あの優しさに甘えて傷つけそうだから・・・
『わざと、ですか――?』
あん時の気まずい状況が眼に浮かんでくる。
(・・・あいつ、また機嫌悪くすっかな・・・・・)
思い出して、俺はちょっとだけ笑った。
確かに、道っていう道じゃぁねぇな。
あのじいちゃんに言われた通り。
これが獣道ってんだ。
別に、都会っ子じゃないけど、こんな山道なんか知ることも、こんなして歩くことも経験したことなかった。何もかもが初めての経験でどうしたらいいか、不安は、はっきり言って、ある!
どうにかなるだろって思いながらも、心のどっかで、大丈夫か・・・って。
でも、先に進まないと、何も始まらない。
一歩を踏み出して。
何となく、見えない何かに導かれるような、そんな感覚が俺の躰を纏った。
塒に帰るカラスの啼き声と羽音が頭上に亙る。
降り注ぐような蝉時雨は、いつしか止んでいた。
夕刻を知らせる蜩の切ない澄んだ声だけが、この山中に響き始めていた。
暗くなる前に――、
先を急ぐ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる