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22話
お願いだから 愛しい人
しおりを挟む嫌な予感がする―――
先ほど、三十分くらい前に連絡を入れたが、また応答がない。
あの人のことだから・・・と、今回はそれで割り切ることができなかった。
医師専用の個室で、彼は患者のカルテに眼を通しながらも、デスクに置かれていた携帯を気にしていた。
眼鏡の奥の眸が不穏の念を帯びている。
デスクに肘をついたまま、彼は前髪を掻き上げた。
ピ―――ッ・・・・・
院内専用の電話のコール音がこの部屋に響く。
その音に、ピクリと繊細な指先がわずかに反応した。
『橘先生、回診の時間です。』
看護師からの連絡を受けた彼は落ち着いた口調で、
「分かりました。すぐに行きます。」
そう応えると、白衣を翻すようにして部屋を後にした。
その表情が先までとは一変する。
大切な命を預かる責務を担った、医師としての誇り高い姿がそこにはあった。
何もかも放り出して、貴方の傍に居たい―――
もどかしい想いを胸に抑えながら、哀願する―――
(どうか――無事で・・・・・)
回診へ急ぐ彼の双眼は、痛いほど切なかった。
回診を終え戻って来たのは、午後五時を廻っていた。
何よりも先に連絡を取りたかった。
真っ先に手にした携帯に着信が届いている。
――菊千代からだ。
保と連絡が取れず、居場所の確認を急ぐため、菊千代と美緑にも連絡を入れていたのだが・・・・
急いでリダイヤルする。
『・・・・・咲弥?』
以外にも早い菊千代からの応答に彼の眉宇が歪む。
『連絡取れなくて、美緒ちゃんに連絡取ったら、お兄さんとどこか出かけたらしいって・・・・どこに行ったかは、今、連絡待ち・・・・』
そう知らせる彼女の口調もどこか慌ただしい。
咲弥は下唇を噛んで眼を細めた。
まさか、とは思っていたが、
彼の予感が的中する。
やはり――、
以前、保がネットで何か調べていたことが気になって、その後、ネット検索の履歴を確認していた咲弥だった。
〝本条 直臣〟の生涯
それを知りたくて、検索していた彼の胸に閊えたことがあったのだろう。
それが、直臣の父、母の存在。
おそらく、祠堂のことが気がかりだったのだろう。
何も言わなかったが・・・・
何の素振りも漂わせなかったが・・・・
直臣の魂が生きている――
あの時、躰が震えたのを覚えている。
あの時、確信した。
愛しい人なのだ、と。
間を置いて軽く一呼吸すると、咲弥の閉じていた眸が一気に開いた。
「・・・場所は、祠堂だ。菊千代、先に急げるか?私も直ぐに向かう。」
祠堂――、
それを聞いた菊千代の表情にも一気に緊迫感が奔る。
(奴らが裏で動いている――!)
二人は直ぐさま、そう感じた。
一刻も早く――!
(・・・“傍にいて欲しい“・・・そう言ったくせに・・・・ほんとに、勝手な人だ・・・・・)
呆れのような、腹立たしいような、そんな想いの中、
軽く溜息をつくと、白衣を脱ぎ、ソファに投げ置くようにして愛しい人のもとへ急いだ。
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