天空のピエタ

伊藤哲典

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最終兵器アモルガン

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 「ニューチタニュウムを絶やすな」アマルガンの工場の親方の声が広い工場に響く。工場は丁度野球場一個分くらいの広さはゆうにあった。ここで「あれ」は作られていたのだった。私は運がいい。サングラスの男は作業員に扮し、そこに紛れながら思った。はったりは言ってみるもんだ。どうやらこの奥に例の「あれ」はあるみたいだ。貴重な部品がなくても「あれ」は動けるはずだ。貴重な部品は「あれ」の「あれ」を動かす部品だろうから、取りあえずあれを動かすにはなくても動くだろう。しかし、邪魔なセバスチャンが発見されなければいいが・・・・セバスチャンは倉庫の奥で簀巻きになっていた。サングラスの男がそうしたのである。ここまで来たら足手まといだからだ。しかしながらセバスチャンは怒っていた、当たり前である。あれぽっちの報酬でこんな危険な目に合う羽目にはなるし、今は簀巻きだ。しかしながら簀巻きにされてもセバスチャンは平気だった。それが、セバスチャンであるからだ。「路地の人間を甘く見るなよ」そう、セバスチャンはつぶやいた。
 「最終兵器・・・・アモルガン・・・???」「これが、これがこの貴重な部品が、最終兵器の心臓部品???」ルイス・コッタは、少女の目をまじまじと見つめた。嘘は言っていないようである。ルイス・コッタには何となくそれがわかってしまうのである。ルイス・コッタは思いきって聞いてみることにした。「君は特別な子供なのか?」少女はこくりと頷いた。「そう、特別な子供・・・・」「名前はマリ・・そうラボで名づけられた・・」「名づけられた・・・?君はアンドロイドなのか?」ルイス・コッタは聞いた。「いえ、アンドロイドではないわ。現在の科学技術ではアンドロイドはつくれないのよ」少女はマリは続けた「私たち特別な子供は、サイボーグつまり改造人間なのよ」。改造人間・・・人間を機械的に改造した人間、人工生命体であるアンドロイドとはまた違った。機械人間である。「名づけられたと言った。本当の名前は?」ルイス・コッタはある不審をもって聞いてみた。マリ「記憶がないのよ」・・・・やはり、ルイス・コッタは思った。目的のために作られた子供、だから余計な記憶は消されているんだ・・・任務遂行の邪魔になるといけないからな・・。では、目的とは?任務とは?マリは続けた。「私は、最終兵器アモルガンのパイロットとして作られたの、貴重な部品は最終兵器アモルガンと私を同期させる貴重な部品なのよ」・・・・そうか、祖国ジパンと敵バラガスの戦争はやはり最終局面を迎えているのか。「ルイス・コッタあなたは両親はいるの?」唐突にマリは聞いてきた「いや、両親は敵バラカスの空爆で半年前に死んじゃったよ」・・・「そう、でも覚えているのね。両親を・・両親って良いものなの?」・・「良いもの?」ルイス・コッタは戸惑った。良いもの。それはよいものではなく、優しいものだった。そのことを説明しようとルイス・コッタは思った。親とは機械のように良いものではなく、優しいものだと。しかし、それはやめにした。マリの頬を伝う一筋の涙をみたからであった。
 「この、奥だ。」と特別な子供のサム。「ルイ、君は何を願ったんだ?」「僕は、バラガスの一等エリアにマンションを頼んだんだ、ラボでの生活は飽きたからな」。するとルイは答えた「私は、お父さんに合わせてもらうの、私にはお父さんというものがいると聞いたことがあるから」「・・・・・」「親か・・・・変わってるな」・・
 サングラスの男は息を飲んだ「これは・・・巨大な電球ではないか・・・・これが、あれ。最終兵器アモルガン・・・まるで電球そのものだ」どこかに操縦席と駆動部分があるはずだ。サングラスの男は後ろに回り込んだ。やっぱりだ。本体から少し離れた処の飛び出たアームの先に操縦席があり、電球のソケットのよな形状のところがバーニアつまり推進力になっており。そこから足のよなものが生えていた。これは、究極のビーム兵器だな・・・出力は想像を絶するな」再び息を飲みこんだ。そして、また懐から通信機を取り出した「あれを、発見、行動を求める」。巨大な工場の中、最終兵器アモルガンは不気味な沈黙をしていた。
 「どこからか、無線通信が出ている・・・」マリはいかぶしがった。敵の工作員が工場に入り込んでいる。最終兵器アモルガンに急がなければ。
 アマルガンの上空にいくつかのバルカスの戦闘機が出現した。サングラスの男の要請である。最初の砲撃が工場の西側の空き地に着弾した。地響きが工場を襲った。「援軍が来た」サングラスの男は最終兵器アモルガンの動力エンジンに火を入れた。「動くぞ、こいつ」最終兵器アモルガンは立ち上がった。工場の屋根は見事に打ち破られ、巨大な電球はその姿をあらわにした。
 「バカな・・誰が最終兵器を動かした?」サムは絶句した「あれは特別な子供でないと使いこなせない」「まさか、さっきの少女も特別な子供だったのか・・」「くっ」「あそこで、倒しておくべきだった」。サムは地団駄を踏んだ。「いえ、違うわ、サム」「最終兵器は発光していないわ。特別な子供ではないわ」「それにバルカスの戦闘機・・・・軍部に先をこされたのよ」サムは首筋のジャバのスイッチを入れなおした「冷静な対応が必要だ・・・」サムは冷めた声で呟いた。「先を急ぐ」・・・。
 「くそ、電球が重すぎる??」サングラスの男は焦っていた、最終兵器はその頭でっかちな電球が重いのか自由に動いてはくれない、左右に行ったり来たりしているだけである。これではこの最終兵器を奪ってバルカスに帰るどころではない。ここまで目立ってしまった上にうおさをしていれば、脱出困難どころか敵に捕まってしまう。そんなドジを踏め祖国コロナに残した二人の子供はどうなってしまう。サングラスの男は悔し涙を浮かべた。次の瞬間である。コクピットのゲージが勝手に開くと町であった少女マリとルイス・コッタが飛び込んで来た。マリは短剣を抜くとサングラスの男に襲いかかった。サングラスの男はとっさに酔ったってあるレバーを引いてしまった。次の瞬間、ルイス・コッタのポケットが光りだした。正確には貴重な部品が光りだしたのだった。すると、最終兵器の電球は発光を始めた。「な、なんだ・・・貴重な部品とはこのことだったか・・・」サングラスの男はくるりと身を回すと、ルイス・コッタの後ろに回り込み羽交い絞めにして人質にとった。「女。こいつの命が惜しければ言うことを聞いてもらう。」サングラスの男は引きつった笑みを浮かべた・・・子供相手に俺は根っからの悪党になってしまった・・・「・・・・」マリは首筋のジャバスイッチを入れ替えた「だから?」「人質にはあなたと一緒に消えてもらうわ」。これが、特別な子供・・・サングラスの男は泣けてきた。軍はこんな年端のいかない子供の感情まで奪ってしまうのか・・・サングラスの男は観念すると、ルイス・コッタを抱え込むと背中をマリに向けた「やるならやれ」「俺はもうこんな人生はこりごりだ」マリは銃の引き金を弾いた。だが・・・・その弾丸は見事に跳ね飛ばされた。サムとルイである。「なんだかんだ言っても、味方は味方。同じバルカスだ」サムは言い放った「覚悟しろ、ジパンの特別な子供!」「早い」サムの回しけりがマリを襲う。だが、マリの右手はそれを払いのける。ルイのチョップが続いてマリを襲う。激しい格闘がコクピットの中で繰り広げられる。サングラスの男は思った「子供同士で殺しあうのか・・・・」最終兵器の電球の輝きは益々禍々しく輝いていた。
 セバスチャンはもう縄をほどいていた、こんなことは朝飯前なのだ。ばかばかしい。セバスチャンはそう呟くと工場を後にした。ばかばかしい。
 ふと、サングラスの男の懐から、一枚の写真が零れ落ちた。ルイはそれを見た・・・・・「あっ・お・と・う・さ・ん」一瞬、サングラスの男は息を飲んだ。ルイその顔には下の娘の面影があった。まさか・・・ルイは記憶が混乱し始めた。サムは一瞬ひるんだ。その隙をついてマリの短剣がサムの胸元を切り裂いた。そこには小さな乳房があった「女?」マリはそのサングラスの男の落とした写真をスキャンした・・・「姉妹・・・そして・・・」そう、その姉妹こそ、サムとルイだとマリにはわかった。「そんな・・・・」サムは首筋のジャバスイッチを入れ替えまた、ルイのジャバスイッチも入れ替えた。そして、サングラスの男に言った「父さん」・・・・・。長い戦争の月日、何があったのか・・・サングラスの男も事態を飲み込んだ。ジャバスイッチだ。サングラスの男は狂ったようにマリの首筋にしがみついた「サミーどうやればいい?」「ルミーにしたようにこの子にも記憶を戻しておくれ」サングラスの男は泣き叫び絶叫した。最終兵器は益々光り輝きだした。
 祖国コロナに残されたふたりのサングラスの男の娘は、父の後を追うように軍に入っていった。そしてこんな形で再開したのであった。サム・サミーが記憶を失わなかったのも、記憶がジャバスイッチで回復モードに入る事を自ら解析してしまっていたのは、バルカスにとってもジパンにとっても良い結果ではなかった。
 サングラスの男は決意した「バルカス・ジパン、両軍と戦う事を」最終兵器はそれを可能にするだろう。すべてはこの、4人の子供たちを守るために。自分は4人の父となることを決意した。
 バルカスの戦闘機は狙いを最終兵器に定めた。ジパンの軍も軍事工場をまた目指して発進を開始した。
 セバスチャンは路地に帰ると、食料品会社の倉庫をこじ開けた。「奴ら食料はどうするつもりだ?全く抜けてるぜ」「俺がしっかりしないとな」と言ってほほ笑んだ。
                                       終わり。
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