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■変わってない俺と、変わった先輩■
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■変わってない俺と、変わった先輩
拝啓。
実家の父さん、母さんお電気ですか? 俺は変わらず元気です。そして変わらず可愛いです。仕事も大変ですが、頑張っています…………なんてドラマのようなことも無い。
ちょっと現実逃避をしてみたが、実際はこう。
助けて! 俺をフッた初恋の相手が、職場に転勤した!! おまけに席は隣で、直属の上司!! と駄々をこねたい気持ちで一杯。
そんなクソデカ早口の言葉を喉の奥へひっこめたまま、俺は蛇に睨まれた蛙。もとい、イケメンに睨まれた子羊。(ほら、俺可愛いから)
「水野?」
「ハイ、ミズノデス」
せっかく引いた冷や汗が、また背中を流れる。サラリとした前髪の間から、じーっ……と漫画の効果音が聞こえてきそうなくらい顔を覗き込まれている。
ヒクッと動いた口角に、精一杯の愛想笑い。
「お久しぶりです、加藤先輩」
「ああ」
それだけ言うと、俺の隣にストンと座り込んだ先輩は、とりあえず荷物を片付け始めた。一人残された俺はと言えば、拍子抜け。久しぶりだなぁとか、何かあるかと思ったが俺が水野という確認だけで終了。もしかしたら、思い出話に花が咲くかもと、俺一人だけ舞い上がって、焦って馬鹿みたいだ。
(ま、もう大人だもんな。同級生でもないし、再会なんてこんなもんか)
(それに、先輩テンション元から低かったし。テンション高い先輩とか見た事なかったし)
自分を納得させるような言い訳ばかりを思いつく。どこかで、俺との思い出を思い出して欲しいとか思っている自分がいる。
俺も良い大人だ。良い思い出どころか、皆に「水野に告白されたことがある」なんて暴露されるよりは、これで良いんだと言い聞かせる。ただ、もし許されるなら──────。
(今度は、好きとか言わないから。良い先輩と後輩の関係を続けたいな)
チラリと加藤先輩を盗み見れば、テキパキと机の中に文具をしまっていた。それから、手帳や携帯を確認している。学生時代は、学年が違ったこともあり先輩のこういった姿を見ることは無かったなと、一つ一つの動作が新鮮に思えた。
「よし……終わった。なぁ、水野」
「へぁっ!?」
急に視線が合うものだから、焦って変な声が出た。こういうところは、昔から変わらない俺。ちょっと大きめな声に、どうした? と数人こちらを向いたのでペコリと頭を下げた。対して、顔を上げれば原因の先輩は笑っている。
「お前は、高校の時から変わらないな」
「!?」
心を見透かされたような言葉に、ドキリとしたのか。それとも、変わらず顏が良い事にドキドキしたのか。
ドキドキドキ。
ああ、止めろ。止まれ。鳴るな。
走った後のようにドキドキとしだす心臓に、落ち着けと言い聞かせる。
「そうですか?」
何だか俺ばっかりじゃないか。悔しい。
「先輩は、変わりましたね」
「そうか?」
「はい。何だかチャラくなりました」
そう言って文句を言うのが、精一杯の抵抗だった。
■変わってない俺と、変わった先輩■
******
拝啓。
実家の父さん、母さんお電気ですか? 俺は変わらず元気です。そして変わらず可愛いです。仕事も大変ですが、頑張っています…………なんてドラマのようなことも無い。
ちょっと現実逃避をしてみたが、実際はこう。
助けて! 俺をフッた初恋の相手が、職場に転勤した!! おまけに席は隣で、直属の上司!! と駄々をこねたい気持ちで一杯。
そんなクソデカ早口の言葉を喉の奥へひっこめたまま、俺は蛇に睨まれた蛙。もとい、イケメンに睨まれた子羊。(ほら、俺可愛いから)
「水野?」
「ハイ、ミズノデス」
せっかく引いた冷や汗が、また背中を流れる。サラリとした前髪の間から、じーっ……と漫画の効果音が聞こえてきそうなくらい顔を覗き込まれている。
ヒクッと動いた口角に、精一杯の愛想笑い。
「お久しぶりです、加藤先輩」
「ああ」
それだけ言うと、俺の隣にストンと座り込んだ先輩は、とりあえず荷物を片付け始めた。一人残された俺はと言えば、拍子抜け。久しぶりだなぁとか、何かあるかと思ったが俺が水野という確認だけで終了。もしかしたら、思い出話に花が咲くかもと、俺一人だけ舞い上がって、焦って馬鹿みたいだ。
(ま、もう大人だもんな。同級生でもないし、再会なんてこんなもんか)
(それに、先輩テンション元から低かったし。テンション高い先輩とか見た事なかったし)
自分を納得させるような言い訳ばかりを思いつく。どこかで、俺との思い出を思い出して欲しいとか思っている自分がいる。
俺も良い大人だ。良い思い出どころか、皆に「水野に告白されたことがある」なんて暴露されるよりは、これで良いんだと言い聞かせる。ただ、もし許されるなら──────。
(今度は、好きとか言わないから。良い先輩と後輩の関係を続けたいな)
チラリと加藤先輩を盗み見れば、テキパキと机の中に文具をしまっていた。それから、手帳や携帯を確認している。学生時代は、学年が違ったこともあり先輩のこういった姿を見ることは無かったなと、一つ一つの動作が新鮮に思えた。
「よし……終わった。なぁ、水野」
「へぁっ!?」
急に視線が合うものだから、焦って変な声が出た。こういうところは、昔から変わらない俺。ちょっと大きめな声に、どうした? と数人こちらを向いたのでペコリと頭を下げた。対して、顔を上げれば原因の先輩は笑っている。
「お前は、高校の時から変わらないな」
「!?」
心を見透かされたような言葉に、ドキリとしたのか。それとも、変わらず顏が良い事にドキドキしたのか。
ドキドキドキ。
ああ、止めろ。止まれ。鳴るな。
走った後のようにドキドキとしだす心臓に、落ち着けと言い聞かせる。
「そうですか?」
何だか俺ばっかりじゃないか。悔しい。
「先輩は、変わりましたね」
「そうか?」
「はい。何だかチャラくなりました」
そう言って文句を言うのが、精一杯の抵抗だった。
■変わってない俺と、変わった先輩■
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