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■あざとい先輩■

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■あざとい先輩■

「お前は、高校の時から変わらないな」

「!?」

数年ぶりに、初恋の相手と漫画みたいな運命的な再開をした俺。
学生時代と違うとすれば、互いに大人で、教室なんて関係なく。隣同士で部下と上司の関係に今日からなるということ。
ドキドキドキと心臓の煩い俺のことなんて知らないとばかりに、加藤先輩はと言えばどこ吹く風。変わらず顔の良い顔を、あの頃はこんなに笑っていただろうか? と不思議になるほど柔和な笑顔で笑った。

変わらないと言われれば、そうだろう。いや、むしろ俺は可愛くなってるんですが? と、ちょっとした対抗心。先輩にフラれた俺からすれば、少しくらい後悔して欲しいんだけど。あの時、付き合っていれば良かったなぁ~とか思って欲しいんですけど?

それどころか、俺の方が自覚があるくらい未練タラタラ。(くそぅ……先輩の顔が良いばかりに……!)
だが、昔の先輩は眠そうで、特別活発でも無かった。(悪口ではない)それなのに、歳月は人を変えるのか。俺の顔を覗き込んで微笑むくらい、先輩の顔の筋肉は柔軟になったらしい。俺はあれから恋人も作らず、未だに童貞だというのに。この手慣れた様子では、一人や二人恋人がいた経験があるに違いない。何となくムッとするが、俺が言えた立場ではない。

「先輩は、変わりましたね」

「そうか?」

「はい。何だかチャラくなりました」

そう言って文句を言うのが、精一杯の抵抗だった。俺の言葉に、また笑う先輩。

「そうか? 俺としては、明るくなったつもりなんだが」

「怒るなよ」と言って席についた先輩に「怒ってません!」と言えば、田中さんがやって来て、「良い感じじゃん」と笑っていた。

「何だよ~。水野が俺に隠れるから、訳ありなのかと思ったけど心配無さそうだな」

「そうなんですか?」

「あ、俺は田中です。よろしく!」

「田中さん、しーっ!」

「照れるなって」

田中さん、本当に待って。いや、確かに俺の心配をしてくれているのは嬉しい。有難う。田中さんも、頼れる先輩の一人ですから。だから、ちょっつ。おい、田中! 田中様! それ以上は言わないで……! 焦りながら田中さんに静止を求めたが、もう遅い。

加藤先輩は教えてくれと聞いているし、田中さんも嬉しそうに話す。俺が背後で隠れていたこと、怯えていたことを含め若干オーバーに伝えた。

「ふーん……」

「ま! 今の様子だと大丈夫そうで安心したわ」

「じゃ!」と自分の仕事に戻った田中さんと、俺を無言で見つめる先輩。数分の無言の後、先輩が椅子を近づけて言った。

「俺は、水野に会えて嬉しかったんだけど?」

(う、うわぁぁぁああ~~~~! あざとい~~~~!!)

俺をどうしたいんだよ!

■あざとい先輩■

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