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■デートじゃないです昼食です■
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■デートじゃないです昼食です■
「水野、可愛いよな」
朝から会心の一撃。もう好きじゃないと心に決めている俺だから平気だったが、きっと学生時代の俺だったら赤面して下手したら腰を抜かしていたかもしれない。
だが今は、過去でもでないし学校でもない。大人として、仕事をする場所。会社にいて、周囲にだって人がいる。女性陣は俺たちの様子に満足したのか、はたまた仕事だと切り替わったのか。じゃあと俺たちの席から離れていった。これで心置きなく、一言文句が言える。
「加藤主任。俺を揶揄うの止めて下さい」
「嫌だ」
「俺も嫌です」
「主任呼びは嫌だ。水野、俺のこと先輩って呼んでよ」
そっち!? と思ったが、先輩は結構子供っぽいところがある。ぐぬぬ……と思いながら、コミュニケーションが取れない状況で仕事をするのは良くない。
(これは、大人の対応だからな!)
自分にもう何回目かの言い訳して。上司相手に、また溜息。相手が係長だったら、100%叱られている。
「人前以外でなら呼びます」
口を尖らせて言えば、加藤先輩が背後にぱぁぁぁっ……という文字が見えるくらい喜ぶのが分かった。
「嬉しい」
「そうですか」
「知ってた? 俺、図書室で水野に名前呼んでもらいたくて、たまに聞こえないフリしてたんだ」
「知りませんよ」と出そうになる言葉は飲み込んだ。そんなことよりも、「さぁ!」と今日の仕事について話し合う必要がある。先輩と俺は、上司と部下!
「今日は、昨日回れなかったところの挨拶回りに行くのはどうですか? 以前の引継ぎをしているだけなので、特に新規営業は無いです」
「分かった。また案内を頼む」
「はい」
あんなに始まるのが遅かった打ち合わせが、切り出せばすぐに終了。先輩は切り替えが早すぎる。仕事モードなのか、切れ長の瞳が資料に渡した書類を黙って読み出す様子は無駄に恰好良い。
(くそ~~)
「あ」
パソコンを起動した先輩が、俺の方を見る。作業データでも飛んだのか? と思ったが、違ったらしい。
「水野、今日もおにぎり持参か?」
「今日は、米を炊き忘れていたので無いです。あとでコンビニか、どっか適当に買うつもりです」
「なら挨拶回りは、昼前に出ないか? 一緒に飯食って行こう」
「別に良いですけど」
「良かった」
それだけ言って、また自分のパソコンに顔を戻す先輩。変なの。俺も自分のパソコン画面へと集中。時おりかかって来る電話を取りながら、業務を続けた。
一時間、二時間経つのは忙しい朝は早い。ふーっと一息ついて、軽く腕を伸ばせば先輩が俺の方を向いた。
「もう出るか?」
「え?」
パソコン画面の右下の時間は、11;20。丁度良い頃合いか。ソワソワしている先輩を待たせるのも悪いし、「そうですね」と互いに一旦机周りを片づける。
「よし」
「水野、終わった?」
「じゃあ、出ようか。今日は車?」
「電車の方が行きやすいので、徒歩です」
「了解」
あれ? 何だか少しだけ懐かしな、この感じ。この距離感で、先輩の顏だけに癒されていたいなと不届きなことを考えてしまう。気付けば前を歩く先輩と二人、会社を出ていた。
「水野」
振り返った先輩は、また仕事モードが切れたのは機嫌が良さそうな顔。
「水野とデートしてる気分だ」
そんな誘い文句に乗るもんか……!
「デートじゃありません。先に食事を取るだけです」
「えー」
「えーじゃないです」
プイッと今度は俺が前に出て、先輩に顔を見られないように速足で適当にお店を探した。
■デートじゃないです昼食です■
お昼は、自分では作らない煮魚定食を食べた。美味しかった。
*****
「水野、可愛いよな」
朝から会心の一撃。もう好きじゃないと心に決めている俺だから平気だったが、きっと学生時代の俺だったら赤面して下手したら腰を抜かしていたかもしれない。
だが今は、過去でもでないし学校でもない。大人として、仕事をする場所。会社にいて、周囲にだって人がいる。女性陣は俺たちの様子に満足したのか、はたまた仕事だと切り替わったのか。じゃあと俺たちの席から離れていった。これで心置きなく、一言文句が言える。
「加藤主任。俺を揶揄うの止めて下さい」
「嫌だ」
「俺も嫌です」
「主任呼びは嫌だ。水野、俺のこと先輩って呼んでよ」
そっち!? と思ったが、先輩は結構子供っぽいところがある。ぐぬぬ……と思いながら、コミュニケーションが取れない状況で仕事をするのは良くない。
(これは、大人の対応だからな!)
自分にもう何回目かの言い訳して。上司相手に、また溜息。相手が係長だったら、100%叱られている。
「人前以外でなら呼びます」
口を尖らせて言えば、加藤先輩が背後にぱぁぁぁっ……という文字が見えるくらい喜ぶのが分かった。
「嬉しい」
「そうですか」
「知ってた? 俺、図書室で水野に名前呼んでもらいたくて、たまに聞こえないフリしてたんだ」
「知りませんよ」と出そうになる言葉は飲み込んだ。そんなことよりも、「さぁ!」と今日の仕事について話し合う必要がある。先輩と俺は、上司と部下!
「今日は、昨日回れなかったところの挨拶回りに行くのはどうですか? 以前の引継ぎをしているだけなので、特に新規営業は無いです」
「分かった。また案内を頼む」
「はい」
あんなに始まるのが遅かった打ち合わせが、切り出せばすぐに終了。先輩は切り替えが早すぎる。仕事モードなのか、切れ長の瞳が資料に渡した書類を黙って読み出す様子は無駄に恰好良い。
(くそ~~)
「あ」
パソコンを起動した先輩が、俺の方を見る。作業データでも飛んだのか? と思ったが、違ったらしい。
「水野、今日もおにぎり持参か?」
「今日は、米を炊き忘れていたので無いです。あとでコンビニか、どっか適当に買うつもりです」
「なら挨拶回りは、昼前に出ないか? 一緒に飯食って行こう」
「別に良いですけど」
「良かった」
それだけ言って、また自分のパソコンに顔を戻す先輩。変なの。俺も自分のパソコン画面へと集中。時おりかかって来る電話を取りながら、業務を続けた。
一時間、二時間経つのは忙しい朝は早い。ふーっと一息ついて、軽く腕を伸ばせば先輩が俺の方を向いた。
「もう出るか?」
「え?」
パソコン画面の右下の時間は、11;20。丁度良い頃合いか。ソワソワしている先輩を待たせるのも悪いし、「そうですね」と互いに一旦机周りを片づける。
「よし」
「水野、終わった?」
「じゃあ、出ようか。今日は車?」
「電車の方が行きやすいので、徒歩です」
「了解」
あれ? 何だか少しだけ懐かしな、この感じ。この距離感で、先輩の顏だけに癒されていたいなと不届きなことを考えてしまう。気付けば前を歩く先輩と二人、会社を出ていた。
「水野」
振り返った先輩は、また仕事モードが切れたのは機嫌が良さそうな顔。
「水野とデートしてる気分だ」
そんな誘い文句に乗るもんか……!
「デートじゃありません。先に食事を取るだけです」
「えー」
「えーじゃないです」
プイッと今度は俺が前に出て、先輩に顔を見られないように速足で適当にお店を探した。
■デートじゃないです昼食です■
お昼は、自分では作らない煮魚定食を食べた。美味しかった。
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